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【第1部完結】婚約破棄された地味令嬢は、辺境で国を再建する ~無能扱いした王太子が後悔してももう遅い ―捨てられたのでお金の管理をやめたら、王都が崩壊しました  作者: 桜庭ルナ
第1部:退位宣言から始まる王国再編

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第29話 臨界点

 王都の朝は、静かに崩れ始めた。


 最初は市場の一角だった。


「また税が上がるのか」

「兵を出して、引いて、結局何が残った」


 不満は小さく、だが確実に広がっていた。


 倉庫の前では、商人が帳簿を閉じる。


「王都を通すと、利益が出ない」


 数字は、感情よりも速く動く。


 その日の午後、ついに石が投げられた。


 王城の外壁に当たった小さな石。


 だが、それは象徴だった。


 ***


 王城・謁見の間。


「暴徒を鎮圧すべきです」


 軍務卿の声は硬い。


「秩序を示さねば、さらに広がります」


 レオンハルトは玉座の前で立ち尽くしていた。


 兵を出せば鎮まるだろう。


 だが、それは何度目の“剣”になる?


「鎮圧すれば、何が残る」


 低い問い。


「秩序です」


「恐怖だ」


 短く言い返す。


 沈黙。


 宰相が静かに進言する。


「辺境へ援助要請を出しては」


 その言葉は重い。


 王都が、辺境へ助けを求める。


 レオンハルトの拳が震える。


 だが――


「出せ」


 絞り出すような声だった。


 ***


 一方、王城の奥では別の動きがあった。


 第二王子アルヴェルトの急進派支持者が武装し、王位継承の即時再検討を要求。


 「王は血ではなく実績だ!」


 その叫びは、もはや裏ではない。


 アルヴェルトは即座に命じた。


「武装を解け。これは私の意志ではない」


 だが火はついた。


 王国は、内と外から揺れている。


 ***


 辺境。


 王都からの使者が到着する。


 その顔には疲労が刻まれていた。


「王都は……支援を求めております」


 小屋の中が静まり返る。


 レティシアが口を開く。


「今さらだな」


「違う」


 イリスは静かに言った。


「今だからです」


 使者は続ける。


「暴動が拡大しています。商会も撤退を検討し始めました」


「国境の状況は」


「隣国が軍を展開」


 空気が一気に冷える。


 王国は臨界点に達していた。


 ***


 その夜、イリスはカインとエリオットを呼ぶ。


「王都が崩れれば、王国は分裂します」


 カインが頷く。


「商会も割れる」


 エリオットは言う。


「隣国は“保護”を名目に介入するでしょう」


 それは侵略と同義だ。


「では、どうする」


 レティシアの問い。


 イリスは答える。


「鎮圧しません」


 全員が彼女を見る。


「暴動は、力で止めれば次を生みます」


「では?」


「均衡を提示します」


 意味を測りかねる空気。


 イリスは続ける。


「王位の再定義を、公にします」


 ***


 王都へ送られる書簡。


 差出人:辺境統治代表 イリス。


 内容は簡潔だった。


 ――王位の再編案を提示する。


 王都、王弟、公国、商会代表。


 全員を王城へ集めること。


 「王は血で決めない」


 その一文が、波紋を広げる。


 ***


 王城。


 書簡を読んだレオンハルトは、目を閉じる。


 これは挑戦か。


 いや。


 救いだ。


 彼は理解していた。


 自分一人では、均衡を戻せない。


 王国は、選ぶしかない。


 血か。


 実績か。


 それとも――


 新しい王か。


 窓の外では、まだ怒号が響いている。


 だが王城の内側では、もっと大きな決断が近づいていた。


 王位は、もはや継承の問題ではない。


 国家存続の問題へと変わっていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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