第27話 選ばれる窓口
セレスタ公国の正式使節が辺境へ到着したのは、撤退から十日後だった。
旗は控えめ。兵は最小限。だが、その意味は重い。
王都ではなく、辺境へ。
それは明確な意思表示だった。
***
集落の入口で、レティシアが使節団を迎える。
「王国辺境への公式訪問と承っている」
使節団の代表は一礼する。
「セレスタ公国より、友好確認と交易条件協議のために参りました」
“確認”。
言葉は柔らかいが、含意は強い。
誰が窓口か。
それを確認するための訪問だ。
***
小屋での会談。
エリオットも同席している。
「本来であれば、王都を通すべき案件です」
使節代表が言う。
「ですが、現状の交易実態を踏まえ、実務的判断を優先いたしました」
イリスは淡々と答える。
「我々は王国の一部です」
「存じております」
「外交権は王都にあります」
空気が張り詰める。
これは試しだ。
ここで“独立色”を出せば、王都との決定的断絶になる。
イリスは続ける。
「ただし、実務調整は可能です」
使節代表が頷く。
「我々はそれを求めています」
エリオットが口を挟む。
「公国は、安定した窓口を必要としています」
窓口。
王都は不安定。辺境は安定。
事実が、そのまま評価になる。
***
一方、王都。
「公国の使節が、辺境へ?」
レオンハルトの顔色が変わる。
「正式な外交ではありません」
宰相が答える。
「実務確認とのこと」
「それが問題だ」
王太子は机を叩く。
「王都を飛ばすとは何事だ」
「飛ばしてはいません」
「だが、通していない」
沈黙。
財務官が低く言う。
「殿下。現実として、交易量は辺境経由が増えています」
それは、数字で示されている。
「外交は王都の権限だ」
「権限と実効性は、別です」
その言葉は重い。
***
王城の奥。
第二王子アルヴェルトは、その報を静かに聞いていた。
「公国は、辺境を窓口と見始めたか」
「はい」
「面白い」
彼は微笑む。
「兄上は剣を抜いた。だが、剣では窓口になれぬ」
側近が問う。
「殿下は、どうなさいますか」
「何もしない」
即答だった。
「流れを見る」
***
辺境。
会談は続いていた。
「公国としては、王国の安定を望んでいます」
使節代表が言う。
「そのため、交易協定の更新を検討したい」
「王都を通さずに?」
イリスの問いは静かだ。
「形式は王都を通します」
「実務は?」
「こちらで」
それは事実上の承認だった。
王都は形式。辺境は実務。
エリオットがイリスを見る。
――選ばれた。
そう言わんばかりの視線。
イリスは答える。
「王都へ報告はします」
使節代表はわずかに驚いた。
「拒否される可能性があります」
「拒否されれば、従います」
レティシアが目を見開く。
「従う?」
「形式を壊せば、均衡が崩れます」
イリスは続ける。
「王都が拒否するなら、それもまた選択です」
それは挑発ではない。
“選ばせる”姿勢だ。
***
会談後。
レティシアが問い詰める。
「なぜ強く出ない」
「強く出る必要がありません」
「今なら、主導権を握れる」
「握れば、敵になります」
イリスは空を見上げる。
「王都を潰すのではなく、王都に選ばせる」
「何を」
「誰を中心とするか」
***
王都に届く公国の報告書。
内容は冷静だ。
辺境は安定。
実務能力あり。
窓口として適格。
レオンハルトは、黙ってそれを読む。
怒りではない。
理解だ。
王都は、中心であり続けられるのか。
血か。
流れか。
王位はまだ動いていない。
だが、窓口はすでに選ばれ始めている。
王国は、二つの中心を抱えたまま――
次の局面へ進もうとしていた。
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