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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第8章 遠くへ旅立つために、茎を高く上げよ
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89話 ぽことたぬき癖②

「人間でなくたって――」


 熊の敷物の上で向かい合ったままのぽこを、力任せに抱き寄せた。

 動けずに固まったぽこの顎を、右手で上に向けさせる。

 何か言おうとした唇を塞いだ。

 ぽこが切なそうに息をつく隙に、唇をこじ開ける。


 周りからどんな目で見られたっていいじゃないか。

 俺は、何を小さなことにこだわっていたのだろう。


 ぽこを幸せにしたい。


 手が自然にぽこの背中を伝い、くびれを味わうように上下に撫でまわす。

 幾度か触れたことはあったが、想像以上に刺激的だ。


 僅かな震え、それに俺の手の動きを感じ取ってうごめく柔らかい身体。

 体温が上昇し、息が荒くなる。


 手を止めたら、ぽこがぐったりと脱力した。

 腕で支えながら、敷物の上に仰向けにゆっくりと押し倒す。


 荒い息がぽこに掛かり、怯えたような目に嗜虐心がそそられた。

 覚悟を決めて、本能のままに服の裾から侵入する。


 ぽこの肌触りは、絹なんて勝負にならないほど気持ちよかった。

 脳髄に電気が走り、何かが吹き飛ぶ。


 指先が、今まで触れたことのない膨らみを探し当てた。

 ぽこの身体が反り返り、吐息と共に声がまろび出た。


 甘い声に誘われるように、小さな口に唇をあてがうと、ぽこが顔を背けた。


「許して!」


 その声に我に返った。


 ぽこにしては強い力で、俺の胸を押しのける。

 長いまつ毛の先が光っている。

 ぽこの細い肩が震えている。


「だ、旦那様のお気持ちはわかりました。お願いですから、待ってください!」


 獰猛な野獣と化した己が急速に大人しくなった。同時に、落ち込む。


 こんな状態で待てというのなら、俺とはしたくないってことだ。


 あぁ、もう俺は求められていないのか。


 上体を持ち上げ、ぽこを自由にする。

 ぽこは慌てて上半身を起こし、服の裾を元に戻した。

 言い出しにくいような、申し訳ないような顔をしている。


 やはり出て行くというのだろうか?

 目が覚めたと言われてもおかしくない。

 何を言われても、ぽこを責めないと覚悟を固める。


 ぽこが深呼吸をして、俺を見上げた。


「ぽこは怒ってません。出て行くわけないじゃないですか」


「え?」


 何を言われたのかわからない。


「そりゃ、誕生日にあの話はないなって最初は怒りましたよ」


 ぽこが俺の背中に腕を回して、ぎゅうぎゅうしがみついてくるが、されるがままだ。

 拒んでおきながら、なぜ抱きつくのか理解が追いつかない。


「昨日、一人で寝たとき、ついついたぬき癖を思いついちゃったんです」


「たぬき癖?」


「これは、たぬきの悪いところでもあり長所でもあるのですが、私たちって、自分だけいい思いをしたいんですよ」


「はぁ……」


「それで、私が怒ったままだったら、旦那様がどう反応するのか見てみたいなぁって思ってしまったんです」


「なんだって?」


 思わず大きな声が出る。

 ぽこは首をすくめた。


「だって、いつもぽこだけが旦那様に好きって言ってるでしょう?」


「それはぽこの問題であって、俺の問題ではない」


「でも、それってズルいでしょう?」


「はぁ? つまり、ぽこは、俺から好きだって言わせたくて、怒って出て行くフリをしてたってわけかい?」


 ぽこは、小さな舌を出した。


 悪びれないこの様子だと、舌を出す自分が俺に可愛く見えているのも、わかってやっているのだろう。


 全く、たぬきってはやつは! 本当に‼


 心の中で叫ぶにとどめるのは、俺が悪かったと反省しているからだ。

 だが、まだ信じられない。


 つい今しがた、何をするところだったか思い出して、大きなため息が出た。

 まんまとはめられたってわけだ。

 それで、生殺しって、えぇぇ⁉


 色々収まらない。


「ぽこは、旦那様が大好きです」


 膝立ちになって、俺の顎鬚に小さな手を添えて、頬に軽く口づけをしてくれる。


 あぁ、ぽこはレナの従姉だった。

 悪いたぬきもいたもんだ。


 全身の力が抜けると、ぽこは笑顔で離れた。


「旦那様は、ぽことの間に子供って考えたから、たぬきの暮らしや家族のことが気になったんですね?」


 俺を再び見上げるぽこの目が、いたずらっ子のように煌めいた。


「あぁ、そうだ」


 僅かな時間がかかったが、どうにか返事できた。


「旦那様!」


 ぽこが胡坐をかいた俺の脚の間に手をついて、胸元に頬をすり寄せる。

 どうやらご機嫌が直ったらしい。

 随分酷い目に遭わされた。


 後頭部を二度撫でてしまうのは、名残惜しいのか愛しいのか。何だろうか。

 やれやれだ。


 頭を切り替えることにした。


「この話だが」


 胸元から、中央からの手紙を取り出して、ぽこに渡す。

 ぽこは中を見なかった。クエスト屋で見たらしい。

 自分が口を挟んでいいのか考えられるところも、ぽこの長所と言える。


 内心で褒めたばかりなのに、ぽこは唇を突き出して拗ねている。

 俺が、中央の話をし忘れたからだ。

 今回でわかったが、唇を突き出す程度の話なら可愛いもんだ。疑惑の芽は早々に摘まねばならん。


「打診を受けた日に、レナさんが遊びに来て、誕生日会の企画を聞いた」


 ぽこが小さな顎に指を当てて考える。


「どんぐりのブレスレットをわざと失くした日ですか?」


 頷いて同意する。


「ぽこに相談するつもりだった。遅くなったが、今から相談しても間に合うかい?」


「遅刻は帳簿につけておきますね。後からしっかり集金させていただきます」


 冗談めいた返事に、嫌な予感をさせながら、言えなかった言葉を口に出す。


「王都の図書館に行く権利がある」


「どういうことです?」


 ぽこが暇乞いしていたときの話をしたら、ぽこは想像通り喜んだ。


「今すぐにでも行きたいです!」


「落ち着いてくれ。だから、中央の仕事を断っても、古の薬を探すために図書館に行くことはできるってことを、頭の片隅に入れて考えて欲しいってことだ」


 はしゃぐぽこが、俺の顔を見て、落ち着きを取り戻す。

 胸元に抱き着いた後で、距離は近い。

 短く息を吐いて、腹に力を込める。


「もし、俺が王都に一緒に行ってくれと言ったら?」



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