表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第8章 遠くへ旅立つために、茎を高く上げよ
43/48

87話 ぽこと手紙

 ぽこと並んで、クエスト屋へ向かう。

 いつもなら、天気や植物の成長、夕食の相談など、ぽこがとりとめのない話をしてくれる。俺は元気なぽこを楽しんでいるだけでいい。

 今日は、違う。

 隣に並ばず、離れた後方からついてくる。

 身長差もあり、俺がぽこの歩調に合わせるのが常だから、いつもよりもっと遅く歩いた。すると、もっと足を遅める。

 なるほど、隣に寄るのも嫌らしい。


 ぽこの突然の方向転換に、状況が理解できずにいる。

 それほどぽこの言葉は衝撃的だった。



 ぽこは昨夜二階に上がって来なかった。

運悪く増築が終わったので、新しい部屋で寝たようだ。

こんなことに使うために増築したわけではない。

干し草はまだ入れていないのに、どうやって寝たのか心配だが、しつこくしたら、今すぐ出ていくと言われるかもしれない。

すっかり臆病になってしまった。




  ❄



 クエスト屋に入ると、クエスト屋所長自ら出迎えてくれた。


「来たか!」


 大きなだみ声に笑顔で話出そうとして、止まった。

 並ぶ俺とぽこを見て、いつもと様子が違うことに気が付いたらしい。

 空咳を一つしてから、話の続きを始めた。


「ベテランさんに、中央から手紙が届いている」


「中央って?」


「王都にある国の冒険者支援中央委員会のことだ。略して中央」


 ぽこの疑問に答えながら、薄い手紙を見る。


差し出された手紙は、ご丁寧に封蝋までされていた。刻印は、巻物と剣が交差したクエスト屋の印だが、中央を示す王冠で縁取られている。


 腰からナイフを出し、封蝋へ差し込んで外す。

 紙は中央らしく上等な代物で、流麗な文字に目を通す。


 オズワルド殿

 貴殿を、夏の第一月より、冒険者支援中央協会新人育成部門創設相談役に任命する。

 ついては、冒険者支援中央協会ピーター・ウェインまで来られたし。


 今は春の第二月だから、期日は来月のものだ。


「正式な依頼でした」


 俺の言葉に、クエスト屋所長が表情を一層明るくする。


「そうか! やったじゃないか!」


 所長は、俺が一角の冒険者になりたかった過去を知っている。時間がかかったが、ようやく中央に認められたことに、我が事のように喜んでくれる。

 俺が諸手を上げて喜べないのを見て、顔色が曇った。


「まさか、受けないつもりか?」


「ちょっと考えさせてください」


 脇で一部始終を聞いていたクエスト屋受付が、椅子から立ち上がった。

 俺を見て悄然とする。


「あぁ、先に伝えておこう。エミリアだが、昇進試験を受けるために中央へ行くことになった。期間は三か月」


「そうですか。それはおめでとうございます」


 祝いの言葉にクエスト屋受付は返事をしなかった。嬉しくないのだろうか。


「エミリアは、ベテランさんと同じタイミングで中央に行くために、試験勉強してたくらいでね」


 所長がぽこを一瞥してからそう話し、俺の肩を二度叩いた。


「お前の人生だ。よく考えろ」


 頷いて、今日のクエストを受けるために受付へ声をかける。


「今日はありません」


「ない?」


「その……。申し訳ありません。中央からのお話を受けると勝手に思っていたので、準備に必要かと思って、今日の分はご用意できておりません」


「そうか。わかった。また明日伺おう」


 妙に大人しいぽこと一緒に、クエスト屋を出た。

 ぽこは、何も言わずに家へ帰り始め、街に出たついでに買い物をしようとした俺は置いて行かれる。

 声をかけても無駄で、振り向きもされず、仕方なく一人で買い出しをする。


 市場では、レナが突然里に帰った話でもちきりだった。親しくしている八百屋の親父たちからは、ぽこがいないことを指摘された。

 禄に返事もできずに、いつも買っているような物を、無計画に購入した。



  ❄



 両腕に食料を抱え、我が家の玄関扉を開く前に、躊躇ってしまう。

 ぽこが荷造りしていたらどうしよう。

 荷造り? ぽこの私物を思い浮かべるが、殆ど何もない。

 長い冬を共に過ごしたというのに、不自然なことだ。


 ぽこの私物は、殆どが不思議な巾着ポシェットから出され、そこに仕舞われる。

 今までは、たぬきだからだと思っていたが、本当にそうだろうか?

 意図して、出て行きやすくするために私物を置いていないのかもしれない。


 だとすれば、荷造りの時間と言ったあの言葉は、俺に心の整理をつけるための猶予をくれるということなのか。


 あり得る。

 七日間しか待たないというのも、それだろう。


 玄関扉を開けられずに突っ立っていたら、中からぽこが出てきた。

 俺を見上げてから、無言で畑を見やる。


「畑はどうします? 邪魔なら潰してから出ます」


 ぽこが天塩にかけて育てている野菜は、温かい陽射しを受けて、葉がぐんぐんと成長している。蝶々が舞い、青虫を取る毎日だが、それすらも春らしいとぽこは喜んでいた。

 毎日手入れされ、食事に出す。こんな幸せはなかったのに。


「待ってくれ。話をしよう」


 ぽこが無表情で俺を見上げ、腕を組んだ。

 俺がぽこの返事を焦らされるに十分な時間の後、ぽこは家へ入る。

 後を追って、家に入り、買ってきた食料は食卓の上に無造作に置いた。


「いいですよ。話しましょう」


 ぽこは、熊の敷物に直に座った。俺も向かい合うように胡坐をかいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
あなたの楽しみになるよう、更新していきます!


jq7qlwr6lv5uhtie2rbp8uho30kr_zjl_2bc_1jk_5lz4.jpg
『たぬきの嫁入り3』へ



〇 更新情報はX(旧Twitter)にて

▶https://x.com/aiiro_kon_



〇 ご感想・一言メッセージをどうぞ

→ マシュマロ(匿名)
https://marshmallow-qa.com/ck8tstp673ef0e6



〇 新しい話の更新をお届け

こちら ↓ で、『お気に入りユーザ登録』お願いします。
(非公開設定でも大丈夫です)
▶▷▶ 藍色 紺のマイページ ◀◁◀




いいねや反応を伝えてもらえると、
新しい物語の活力になります☺️


本日もお読みいただき、ありがとうございました。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ