81話 ぽこと忘れ物
食虫植物ならぬ食人植物の伐採クエストを終えて、約束通り、いつもの酒場に集まった。
「今日はレナさんのおごりだよっ!」
給与が入ったレナの宣言に、ぽこが素直に喜んだ。
店の常連客が、歓声を上げる。
「いいのか?」
ぽこの耳元で相談してしまう。
いくらなんでも使いすぎでは?
「稼いだお金を使ってみたいのかなと思って、水を差さないでおくつもりです」
なるほど。そういうことか。
レナ信者の男たちからの貢物もあるし、そんなものかもしれない。
「ほらほら、おじさんももっと飲んで!」
けしかけられるが、普段のペースを崩さない。
いつもの場所に座る八百屋の主人や肉屋もお酒を勧められて、こちらはピッチを速め、まだ早い時間なのにへべれけだ。
机に並んだ料理は、メニューを片っ端から頼んだらしく、皿が乗り切らない。一人前ずつしか頼んでいないのが幸いである。
三人で少しずつ食べる。
「魚のソテーうまっ!」
「こっちもおいしいよ。食べる?」
「あ、これもうまっ」
二人のいつものやり取りが始まり、かしましくも食事が進む。
残り少なくなり、ぽこがこっそり腹を撫でた頃、レナが血相を変えた。
「あっ! ブレスレットがない!」
レナの声にぽこが驚いて、立ち上がった。
「どこで失くしたの?」
ぽこは、レナを立たせ、服の裾やポケットに入っていないかチェックした。
余程大事な物らしく、先ほどまで赤ら顔だったぽこの顔が青い。
「あぁ、そういえば、昨日、将来の子供部屋で外して、置いたままかもしれないわ」
「えぇ? そんなところで外す必要ってある?」
「いいから取って来てよ!」
「後で取りに寄ればいいよ」
わざとらしいレナに、ぽこの丸い目が細くなる。
「今欲しいの!」
「じゃ、自分で取りにいけば?」
「私は招待した側なのに?」
ぽこの頬が不満で膨らむ。
「じゃ、俺が取ってこよう」
「おじさんはいいの! どんなのかわからないでしょ?」
「ふ~ん、そういうことね」
俺はレナに睨まれ、ぽこがレナを軽く睨んでから店を出発した。
レナが、飲み物を注文して、二つの杯が俺とレナの前に配られた。
「随分明け透けな手段に出るねぇ」
そこまでして、ぽこなしで話したい内容となれば話題は限られる。
「あの話なら、計画は順調よ。そうじゃなくて、今日はあたしからおじさんに聞きたいことがあるのよ」
口角が下がり、渋い表情をしているのが自分でもわかる。
「あたしと二人になるのが、そんな嫌?」
誘惑するように前屈みになって、胸の谷間を見せてくる。
「ぽこを悲しませたくないんでね。要件をさっさと聞こうか」
ここ最近のぽこは、自分だけの俺を求めている。
要求に応じても、何やかやの加減でぽこの俺成分が足りなくなるらしい。
ここまでわかりやすくぽこを除け者にすれば、誰だって嫌な気分になるというものだ。
飲み屋には、他の常連客がいてくれる。二人きりでないのがまだマシと言えよう。
レナは「つまんない男」と毒を吐いて、長い髪を一房背へ払った。
「家出の理由が知りたいの」
「ジョアンから聞き出したんだろう?」
レナが持っていたフォークを置いて、胸にかかった長い髪を人差し指でくるくると巻き始めた。
「こんな場を計画的に作っておいて、何を躊躇ってる? 話さなくても俺は構わんが、わざとぽこを傷つけるのはやめてくれ。内容によれば、今後話し合いには応じない」
「ぽこに対する態度と全然違うのね」
レナの言葉を気にせず、ラディッシュの酢漬けをかじって、ヴァダーを飲む。そのまま椅子から立ち上がる。
八百屋の親父と飲んでる方が断然良い。
「待って!」
レナの言葉に片眉を挙げて、ゆっくり座った。
「あたし、結婚するの」
「ほぉ、そりゃおめでとう」
めでたい話しのはずなのに、酷く言いにくそうだ。
「結婚前に、ぽこがあたしたちじゃダメだった理由が知りたいの」
「よく話が見えないんだが」
「誰かの為に何かしたいだなんて、馬鹿げてるわ」
「前にもそう言ってたな」
レナが言葉に詰まったが、続きを話さぬのなら聞くのは面倒だ。
そう思った瞬間、レナが苛立ったように短く息を吐いた。
「何よ。随分つれないのね。こっちの態度の方が本当のおじさんってわけ?」
皿を下げるために来た酒場の主人が、俺に代わって返事する。
「そうそう。ベテランさんが甘いのってぽこちゃん相手だけだよ」
「ここに誰か連れてくるってのが、そもそもないよね」
「嫁を貰って、ちったぁ丸くなったと思ったけど、変わんねぇな!」
常連客の話にレナが肩を落とす。
張っていた気が抜けたらしく、上目遣いに睨んでくるが、気づかぬふりをして、酒を煽る。
「まさにこれ。本当のおじさんは他人の面倒なんか見ないのに、ぽこにだけは優しい。あたしも結婚すれば、変わっちゃうのかな? 変えなくちゃいけないのかな? 変わったあたしは、本当のあたしなのかって急に不安になったの」
「なるほど」
「結婚相手は優しいのよ。あたしが何をしてもにこにこしてて、あたしのために何でもしてくれる。それが気味悪くて」
「怖いわけだ」





