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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
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81話 ぽこと忘れ物

 食虫植物ならぬ食人植物の伐採クエストを終えて、約束通り、いつもの酒場に集まった。


「今日はレナさんのおごりだよっ!」


 給与が入ったレナの宣言に、ぽこが素直に喜んだ。

 店の常連客が、歓声を上げる。


「いいのか?」


 ぽこの耳元で相談してしまう。

 いくらなんでも使いすぎでは?


「稼いだお金を使ってみたいのかなと思って、水を差さないでおくつもりです」


 なるほど。そういうことか。

 レナ信者の男たちからの貢物もあるし、そんなものかもしれない。


「ほらほら、おじさんももっと飲んで!」


 けしかけられるが、普段のペースを崩さない。

いつもの場所に座る八百屋の主人や肉屋もお酒を勧められて、こちらはピッチを速め、まだ早い時間なのにへべれけだ。


 机に並んだ料理は、メニューを片っ端から頼んだらしく、皿が乗り切らない。一人前ずつしか頼んでいないのが幸いである。

 三人で少しずつ食べる。


「魚のソテーうまっ!」


「こっちもおいしいよ。食べる?」


「あ、これもうまっ」


 二人のいつものやり取りが始まり、かしましくも食事が進む。

 残り少なくなり、ぽこがこっそり腹を撫でた頃、レナが血相を変えた。


「あっ! ブレスレットがない!」


 レナの声にぽこが驚いて、立ち上がった。


「どこで失くしたの?」


 ぽこは、レナを立たせ、服の裾やポケットに入っていないかチェックした。

 余程大事な物らしく、先ほどまで赤ら顔だったぽこの顔が青い。


「あぁ、そういえば、昨日、将来の子供部屋で外して、置いたままかもしれないわ」


「えぇ? そんなところで外す必要ってある?」


「いいから取って来てよ!」


「後で取りに寄ればいいよ」


 わざとらしいレナに、ぽこの丸い目が細くなる。


「今欲しいの!」


「じゃ、自分で取りにいけば?」


「私は招待した側なのに?」


 ぽこの頬が不満で膨らむ。


「じゃ、俺が取ってこよう」


「おじさんはいいの! どんなのかわからないでしょ?」


「ふ~ん、そういうことね」


 俺はレナに睨まれ、ぽこがレナを軽く睨んでから店を出発した。



 レナが、飲み物を注文して、二つの杯が俺とレナの前に配られた。


「随分明け透けな手段に出るねぇ」


 そこまでして、ぽこなしで話したい内容となれば話題は限られる。


「あの話なら、計画は順調よ。そうじゃなくて、今日はあたしからおじさんに聞きたいことがあるのよ」


 口角が下がり、渋い表情をしているのが自分でもわかる。


「あたしと二人になるのが、そんな嫌?」


 誘惑するように前屈みになって、胸の谷間を見せてくる。


「ぽこを悲しませたくないんでね。要件をさっさと聞こうか」


 ここ最近のぽこは、自分だけの俺を求めている。

 要求に応じても、何やかやの加減でぽこの俺成分が足りなくなるらしい。

 ここまでわかりやすくぽこを除け者にすれば、誰だって嫌な気分になるというものだ。

 飲み屋には、他の常連客がいてくれる。二人きりでないのがまだマシと言えよう。


 レナは「つまんない男」と毒を吐いて、長い髪を一房背へ払った。


「家出の理由が知りたいの」


「ジョアンから聞き出したんだろう?」


 レナが持っていたフォークを置いて、胸にかかった長い髪を人差し指でくるくると巻き始めた。


「こんな場を計画的に作っておいて、何を躊躇ってる? 話さなくても俺は構わんが、わざとぽこを傷つけるのはやめてくれ。内容によれば、今後話し合いには応じない」


「ぽこに対する態度と全然違うのね」


 レナの言葉を気にせず、ラディッシュの酢漬けをかじって、ヴァダーを飲む。そのまま椅子から立ち上がる。

 八百屋の親父と飲んでる方が断然良い。


「待って!」


 レナの言葉に片眉を挙げて、ゆっくり座った。


「あたし、結婚するの」


「ほぉ、そりゃおめでとう」


 めでたい話しのはずなのに、酷く言いにくそうだ。


「結婚前に、ぽこがあたしたちじゃダメだった理由が知りたいの」


「よく話が見えないんだが」


「誰かの為に何かしたいだなんて、馬鹿げてるわ」


「前にもそう言ってたな」


 レナが言葉に詰まったが、続きを話さぬのなら聞くのは面倒だ。

 そう思った瞬間、レナが苛立ったように短く息を吐いた。


「何よ。随分つれないのね。こっちの態度の方が本当のおじさんってわけ?」


 皿を下げるために来た酒場の主人が、俺に代わって返事する。


「そうそう。ベテランさんが甘いのってぽこちゃん相手だけだよ」


「ここに誰か連れてくるってのが、そもそもないよね」


「嫁を貰って、ちったぁ丸くなったと思ったけど、変わんねぇな!」


 常連客の話にレナが肩を落とす。

 張っていた気が抜けたらしく、上目遣いに睨んでくるが、気づかぬふりをして、酒を煽る。


「まさにこれ。本当のおじさんは他人の面倒なんか見ないのに、ぽこにだけは優しい。あたしも結婚すれば、変わっちゃうのかな? 変えなくちゃいけないのかな? 変わったあたしは、本当のあたしなのかって急に不安になったの」


「なるほど」


「結婚相手は優しいのよ。あたしが何をしてもにこにこしてて、あたしのために何でもしてくれる。それが気味悪くて」


「怖いわけだ」


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