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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
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79話 旦那様の家族

「それで、どうして増築してるわけ?」


 食事を終えて、旦那様が今日もベッド作りの続きを始めたとき、レナは作り賭けのベッドを近くで見ながら質問した。

 私が聞きたくても聞けなかった質問だ。


 棚の位置や窓の形、ベッドの細工を相談してくれて、私好みにしてくれている。

 私の部屋に間違いなく、嬉しいと喜べない自分が嫌。

 だって、離れて寝たくない。


 同じ家に住んでいるの何を言っているのと笑われそうで、誰にも言えていない。

 他の人と差をつけたい。

 気に入られたくて、嫌なことは言いたくない。


「ぽこの部屋なんですよ! 凄いでしょう?」


 できる限りの笑顔を作る。

 嘘言ったのがバレている。


「何言ってるの? 一緒に寝てるって自慢してたでしょ?」


 それでも本心は言えない。

 本当は、家にいる間、ずっと旦那様にくっついていたい。

 旦那様の匂い、熱、呼吸、全てが愛おしいのに違う部屋でいたくない。


「それに、このベッド、あんたには大きくない?」


 レナが、一番長い板の隣に寝転んだ。私より背の高いレナが並んでも、まだベッドの方が大きい。

 ベッドは干し草を入れるから、使う人に合わせた大きさの方が楽だ。


「あぁ、そうさねぇ。増築した部屋は――」


 困った顔をして旦那様が顎鬚を撫でる。

 考えているときにする仕草だ。

 ようやく私の部屋が作られている理由を教えてくれる。

 いびきが酷い? それとも寝相? 覚悟を決める。


「最初は、ぽこを訪ねてくる客のためのつもりだったんだが、ぽこの部屋でも構わんよ」


「えぇ⁉」


 お客様用?


 旦那様が照れ臭そうに頭を掻いた。


「ほら、俺が酷い風邪をひいちまっただろう? あのとき、ベッドがあれば、ぽこにもレナさんにも気を使わせなくて済んだって思ってね。これから温かくなれば、ぽこの御兄弟も遊びにいらっしゃるやもしれんし」


「あはっ! あたしの部屋?」


「いや、ジョアンかもしれん」


 お茶を淹れようと持った薬缶が震える。


「なぁに? あたしじゃ駄目でジョアンならいいわけ?」


「妙なニュアンスで言い換えられるんでね。そこははっきり否定せにゃ」


「旦那様っ‼」


 薬缶を暖炉に置き直して、床に座り込んだ旦那様の胸元へとジャンプする。

 いつもなら、たぬき姿になるけれど、今日は人間姿で抱きとめて欲しい。


「おわっ⁉」


 持っていた小刀を、脇へ急いで置いて、旦那様が私を受け止めた。

 反動で、後ろへ返る。


「ぽこは、一人で寝るのは嫌です!」


「はいはい」


 後頭部をゆっくり撫でてもらうと、我慢していた分、涙が出てきた。


 私は一人で勘違いして、旦那様の意図を素直に聞けなかった。

 旦那様を独占したい気持ちに振り回されているだけだった。


「っはー。そういうとこがお子様なのよねぇ」


 レナが呆れて、私の代わりにお茶を淹れてくれる。

 反論の余地なく、旦那様の胸に頬を擦り付ける。


 旦那様の心底優しいところが好き。

 焼き立てパンに乗せたバターのように、溶けてしまいそう。


「でもさ、ぽこの客って言うけど、おじさんには訪ねてくる家族とかいないわけ?」


 家族⁉


 驚いて旦那様の胸から顔を上げてレナを見る。

 続いて旦那様が座り直す。


「結婚するとなれば、お互いの家族に挨拶するもんでしょう?」


 そういえば、兄たちの結婚のときもそうだった。


 私、旦那様のことを知らないのかも⁉


 食べ物の好み、何から食べるのか、寝相や口癖、神様はいないって言うけど伝承は信じているところ、たくさんの旦那様を知っているのに、家族の話は聞いたことがない。


「あたしが心配するのはね、おじさんのそういうとこよ。ぽこは結婚したいって言ってるけど、おじさんは、結婚へ向けた具体的な話はしないでしょ?」


「具体的な話って?」


「どんな家族がいて、どこに住んでるとか、どんな生い立ちだとかさ。恋人じゃないんだから、結婚したらおじさんの親はあんたの親戚になるわけ。無関係じゃないのよ。どんな相手か知りたいでしょう?」


「詳しいね。レナ」


「適齢期ですからぁ?」


 考えたことがなかった。

 私が知っている旦那様の家族は、雪飴や入山の儀式を教えてくれたお爺さんだけだ。


「旦那様、もし言いたくなかったら言わなくてもいいんですけど……」


「俺は国境で育った。母親は俺を生んだ後、産後の肥立ちが悪くて亡くなった。父親は、国境の諍いに巻き込まれて、子供んときに亡くなってる。俺は爺さんに育てられた」


「誰もいないのねぇ」


「そうだな。今は誰もいない」


 聞かれなかったから言わなかったのもあるかもしれないけれど、言いたくなかったのかもしれない。

 旦那様と私には、結婚するまでに乗り越えることがあるのも。

 ひとつは、古の薬探しに乗り気になってもらえないこと。二つ目は、たぬきのままでいて欲しいと言われること。三つ目は家族の問題だ。家出したままでいいのかどうか、私自身答えは出ていない。


 パパを思い出せば、人間を化け術で脅かして、酷い目に合わせていることしか思い出せない。

 お茶が入ったと呼んでくれるレナだって、最初は旦那様を毛嫌いしていたはずだ。

 ジョアンのときと同じようにレナにも納得してもらいたい。

 いつかは旦那様にパパと会ってもらう……。

 そんなことあるのかな?


 家出の理由を思い出して、可能性を否定する。

 家族のことを思いつかなかったのは、私の状況のせいだ。

 結婚にパパの許可はいらない。



 幼い頃に思い描いていた結婚と現実は随分違う。


「ぽこは嫁には出さん。それでも結婚式には泣いちまうだろう」


 何度もパパはそう言っていたから、そうなると思っていた。


「パパが泣いちゃうから、ぽこ、結婚しない」


 幼い私はそう言ったらしい。


「ぽこが結婚するときに泣くのは、嬉し涙だよ」


 ママが「嬉し涙」の言葉の意味を教えてくれた。


 それを思い出して、後味が悪くなった。


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