76話 ぽこと案山子
薬玉ができてからというもの、ぽこは僅かな時間を見つけては、スリングの練習を始めた。
俺が仕事に行っている間に、畑の横に案山子が立った。熱心なことである。
市場を通れば、相変わらずの男性の列が並ぶレナから声がかかった。
「最近、ぽこのとこに街の悪ガキどもが集まってるみたいだけど、大丈夫なの?」
「ほぉん」
何気ない返事をして、家に戻り、ぽこと向かい合って食事をとる。
別段贅沢をしているわけではないが、ぽこと食べる夕食と、その後の時間は何にも代えがたい。
いらぬことを言って、ぽこと喧嘩するのは避けたいから言葉とタイミングを選んでしまう。
「うちに街の子が遊びに来てるって?」
ぽこが、野菜スープを飲む匙を止めた。
「あぁ、スリングの練習をしてるのが見つかっちゃったんです。一人に教えたら、午後には二人、次の日には四人になって」
増加する子供たちを思い出して、ぽこがくふふと笑う。
ぽこは今や師匠と呼ばれているらしい。
親が手を焼く悪ガキども相手だが、ぽこは楽しんでいるようだ。
他人を嫌って、街外れに作った俺の家に、よもや子供が集まるだなんて、考えたことすらなかった。
家というのは、場所よりも住んでいる者の影響を強く受けるのだろう。
ぽこには、人を惹き付ける魅力がある。
「他人に教えてたら、自分の練習時間が取れないだろう? 邪魔なら俺から言うが」
ぽこには頑張りすぎるきらいがある。愛想もよく街の人たちに慕われているから、矢面に立ってぽこを守るのは俺の役割だ。
「大丈夫ですよ。その内、飽きると思いますし。それより、旦那様です」
ぽこの頬が膨らむ。
「旦那様は、仕事しすぎじゃありませんか? それって、増築の支払いのためでしょうか?」
大工に依頼している増築は順調に進み、壁と屋根が組まれた。もう立派な一部屋になり、後は窓や棚などの細かい箇所を残すのみだ。
ぽこに、窓の種類や、どこにどのくらいの棚をつけるか相談するのも楽しい。
寝る前の僅かな時間を使って、俺も新しいベッドの作成に励んでいる。
「なぁに、俺ぁ今までサボリすぎてたのさ」
金を本気で貯め始めているのは、温泉宿を買い取って冒険者から引退するためだ。ぽこさえよければ一緒にやりたい。
そんなことを、このタイミングで言えるわけがない。
増築は、ぽこの家族や友達が来たときの来客用だったのだが、ぽこは自分の部屋だと思っているらしい。自分の部屋が欲しいと言われたら、来客よりもぽこの希望を叶えたい。
こちらも本当の理由が言い出せないままだ。
どちらも隠すほどのものではないが、甲斐性ってもんを見せたい。
ぽこの喜ぶ顔が見たいだけだ。
「旦那様は、頑張りすぎはよくないっていつも私に仰るでしょう?」
嘘をつくわけにもいかずに、つい黙り込んで、顎鬚を撫でてしまう。
ぽこが上目遣いで俺を見ながら、椀のスープを飲み干した。
猫舌のぽこが汁物を飲んだら、俺らの食事が終わる。ベッド作りの時間だ。
「もうすぐ作り終わるから、そうしたら休むよ」
ぽこは何か不満を抑え込むように一瞬黙った。
「ぽこは、構ってもらえなくて寂しいんですよ」
食卓の向かい側から、ぽこが足の指で器用に俺のズボンの裾を掴んで、軽く引っ張る。
「行儀が悪いぞ」
手でぽこの足を軽く叩いて、立ち上がる。
二人で夕食の片付けをして、俺は部屋を占拠している作りかけのベッドを見た。
昨日やっと細工が終わったから、今日は組み立てたかったのだが。
振り返ってぽこを探すと、背後からぽこが俺に抱き着いた。
身長差があるから、ぽこの腕は俺の腹に回される。
「ぽ~ん、ぽんっ♪」
軽く腹を叩かれるが、生憎俺の腹はいい音はしない。
「今日は、小鼓の手入れでもしようかねぇ」
暖炉の前の椅子はもう熱い。
椅子を窓辺へ移動させてから、深く腰掛ける。
太ももの上を叩くと、小爆発が起きてから、心地の良い重さが乗った。





