表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
30/48

74話 ぽこと実験②

「薬を茹でるですって?」


 緑屋敷に、ウシュエの鋭い声が響いた。


 こりゃマズイ。


 治療薬を茹でる案を聞いてもらえたまでは良かったが、話題の方向転換を決意する。


「あー、エルダーフラワーはあと三籠ある」


 緑屋敷の外を親指で指し、エルダーフラワーを取る呈で外に出ようとぽこを追い立てる。

ウシュエが回り込んで扉を閉めた。

 目を細め、唇を上げて笑いかけてくれるが、瞳は笑っていない。

 怒っている証拠に、エルフの長い耳が赤く染まり震えている。


 魔術師のウシュエは、そもそも他人に興味がない。自分の研究に没頭しているから、怒ることもあまりない。

 実験を邪魔すれば、問答無用で叩き出されるだけだ。

 初めてみるウシュエの怒りに、しくじったとはっきりわかった。

 こんなに怒るとは想像しなかった。


 後頭部を掻いて脱出しようとしたことを誤魔化す。


「ちょっといいかしら?」


 ウシュエが玄関扉を魔術の杖で突くと、鍵が閉まる鈍い音が続いた。

 逃げ場を失って、俺はため息をついた。


「ひぎぃっ! 魔女」


 ぽこが俺の背中に隠れて、小声でつぶやき、ウシュエの耳がさらに跳ねた。


「こちらへどうぞ」


 笑顔を引きつらせながら、ウシュエがスツールを二つ引き出した。

座らざるを得ず、大人しく腰かける。


 さて、どう手を打つべきだろうか。


「ぽことバディを組んでてね」


 八つ裂きにあう前に、手の内を明かす。

 ウシュエの性格はよく知っている。方向性さえ間違わなければ、魔女鍋の材料にならずにすむはずだ。


「拍手でもしましょうか?」


 ウシュエが細長い片眉を上げ、小さく拍手の真似をした。

 「それがどうした」と言いたいのだろう。


「荷運び人のバディなんでね。スリングショットで治療薬を打ち込もうって考えているのだが、羊の腸ではうまくいかなくてね」


 羊の腸の辺りで、切れ長のウシュエの眼光がより鋭くなった。

 俺のバディは、より小さくなって俺の影に入り込む。

 どうやら、俺一人で魔女と戦わねばならぬらしい。


「茹でようってのはそこからの案なのね? ぽこちゃんでしょう?」


 ぽこは返事をせず、石のように固まった。


「混ぜるな危険。いじるな危険。ベテランさんともあろう人が、バディに教えないなんて、どうにかしてるのではなくて?」


「それについては反論の余地もない。混ぜるな危険。いじるな危険だ。ぽこ」


「はい。混ぜるな危険。いじるな危険。ウシュエさんに伺ってよかったです」


 俺の影からぽこの声がするが、姿を見せるつもりはないらしい。

 魔女だと疑っているウシュエの怒りを買ったことで、生きた心地がしないのだろう。


 ぽこの様子に、ウシュエの表情が緩和する。

 これ以上、ウシュエの機嫌を損ねていないか見極めながら、話を続ける。


「薄い皮で、液体が漏れない。スリングショットできる耐久性。何か心当たりはないかい?」


 ウシュエは、ため息をついた後、俺たちに背を向けて、暖炉の大鍋を木杓子で混ぜる。

 暖炉にはいつも大鍋がかかっていて、妙な臭いをさせながら何かを煮込んでいる。

 棚に無数に並ぶ薬瓶から、何かの毛を取り出して、手で砕いて鍋に入れた。

 俺の隣で、ぽこが尻を押さえて、小さく震えている。


「オズワルドにしてはいい案ね。心当たりがないわけじゃないわ」


 ウシュエの声を聞いて安堵する。

 ウシュエは自分が作った薬に誇りを持っていて、製法にもこだわりがある。

 人付き合いが嫌いなのではなく、研究と調剤に夢中過ぎて、他のことに気が回らないだけだ。

 完璧に作った薬をいじられるのを嫌うが、液体のままでスリングショットができる案には、知的好奇心をくすぐられるらしい。

 液体薬の利便性を高めることが、ウシュエの研究内容のはずだ。


「スライムの膜がいいかもね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
あなたの楽しみになるよう、更新していきます!


jq7qlwr6lv5uhtie2rbp8uho30kr_zjl_2bc_1jk_5lz4.jpg
『たぬきの嫁入り3』へ



〇 更新情報はX(旧Twitter)にて

▶https://x.com/aiiro_kon_



〇 ご感想・一言メッセージをどうぞ

→ マシュマロ(匿名)
https://marshmallow-qa.com/ck8tstp673ef0e6



〇 新しい話の更新をお届け

こちら ↓ で、『お気に入りユーザ登録』お願いします。
(非公開設定でも大丈夫です)
▶▷▶ 藍色 紺のマイページ ◀◁◀




いいねや反応を伝えてもらえると、
新しい物語の活力になります☺️


本日もお読みいただき、ありがとうございました。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ