73話 ぽこと実験①
悪魔百合と蜂のクエストの後、似たような仕事をいくつかこなした。
春になり山が目覚めると、草木が生い茂り、魔獣も活発化する。雪かきのような便利屋仕事ではなく、冒険者としての仕事も増える。
ぽこと俺はバディを組むようになってから、治癒薬の効率のいいかけ方について何度も話し合うようになっている。
毎回治癒薬を大量に使うのも、頭から被って薬酔いするのも非効率だ。
俺はぽこを守ることを優先し、ぽこは俺の傷を癒すことに専念する。
当然互いの主張がぶつかり合うこともあるが、それすらも嬉しくて仕方ない。
仲間がいる心地よさの方が、恋人がいるよりも勝る。
仲間としてのぽこは、古の薬の問題を考えずに済むからだ。
ぽこが安全な場所に居ながら、怪我した箇所にピンポイントで治療ができる方法に、スリングショットを使おうってことになった。
問題は、液体の治癒薬をどうやって飛ばすかだ。
「スリングで放てる強度があり、当たったら確実に割れるとなると何がいいだろう?」
「薄い皮で、液体が漏れないってことですね」
二人で向き合い夕食を取りながら、話す。
バディを組んでからというもの、食事中も仕事の話題になってしまいがちだ。
ぽこも俺と同じように、新しい仕事にやりがいがあるのだろう。
皿の上のこんがり焼いたのを見て、思いついた。
「腸詰みたいだな」
炙った腸詰にかぶりつくと音がして薄皮が裂け、肉汁が口の中に迸る。
続けてパンを齧ると、栄養が動かした身体に染みわたる気がする。
「やってみましょう!」
ぽこが頬を上気させて、野菜スープが入った椀を傾けた。
宣言通り、ぽこは、クエストと家事の隙間時間に腸詰屋に走り、首尾よく羊の腸の塩漬けを買ってきた。
食事の後、寝るまでのわずかな時間を捻出して、治療薬を腸詰めにする試作品を作るために、食卓に向かい合う。
塩水で腸の塩抜きをし、麻紐で閉じた腸に薬の代わりに水を入れる。
ただこれだけのはずが、二人そろって、なかなかうまくいかない。
薄い腸は広げるために擦るだけで破けてしまう。
机に並んだ腸の残骸は十個。いらいらしながら十一個目に挑戦していると、ぽこが立ち上がった。
「できました!」
試作品をそっと持ち上げて、手渡してくれた物が掌で転がる。
恐る恐るつまみ上げたら、弾けて割れた。
掌から水が机に垂れる。
「駄目だなぁ」
「数作れば慣れると思いますけど、駄目ですか?」
「繊細すぎて、持ち運びすらできんからな」
「腸詰はどうやってパリンってさせてるんでしょうね?」
ぽこが顎に手をやって思案する。
ない顎鬚を撫でていると気づいて、心の中で笑ってしまう。
バディは、互いに似てくると言われているからだ。
「食うやつは、茹でたり燻製したりするんだろ」
「じゃ、私たちも薬液を入れて茹でましょうよ」
大胆な提案は、ぽこならではだろう。
冒険者なら誰でも、駆け出しのときに「混ぜるな危険。いじるな危険」とさんざん言われている。
治癒薬を買う魔術研究所でも、治癒薬を作る魔術師にも、報告を上げるクエスト屋でも、先輩からも。
言いつけを守らなかったどこぞの盾は、ヒキガエルになったとか何とか。
「どうだろうな。ウシュエは丸薬にするのに、直火に当ててないはずだが――」
その辺りは全くの専門外だ。
やるのならウシュエに聞いてみなければならない。
緑屋敷のウシュエは、こちらに用事があっても、ウシュエに用事がなければ、居留守を使うことがある。
室内で物音を立て、窓から姿が見えても玄関を振り向くことすらせず、堂々と居留守する。これが緑屋敷の主は人嫌いと言われる所以だ。
ウシュエが作る治療薬を、腸詰に詰め替えることが凶と出るか吉と出るかはわからない。
「エルダーフラワーを集める頃合いだな」
春先にぐっすら咲く白い花は、緑屋敷への納品物だ。
納品ついでなら話を聞いてもらえるだろう。





