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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
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72話 ぽことバディ

「……なのに」


「なぁに?」


 少々の我儘なら可愛いと思え、聞き返す己の声の柔らかさに戸惑うほど。

 俺の柔らかさとは逆に、ぽこの大きな丸い目が据わり、小さくしゃっくりが出た。

 見たことない様子に、何が起きているのかわからない。


「ぽこは、匂いに敏感にゃのに!」


 匂い?

 各種治療薬の匂いか? それとも藻草か?

 ならば、早急にここから遠ざかり、薬剤を洗い流すべきだ。


「よし、インマーグの街と反対方向にちょっと歩けば、小川があるから、そこに入るか?」


 ぽこが頭を振って否定する。


 では、どうすべきだろう。


「首巻です。エミリアさんです」


「お、おう?」


 首巻? 受付? それが匂いとどう繋がっているのか、さっぱりわからない。

 察することを諦める。

 口調もおかしい。


「何を怒ってるんだ?」


「怒ってにゃいったら!」


 ぽこが腕を振りまわし、勢い余ってよろめいた。

 千鳥足のようだと思って、気が付く。


「もしかして、酔ってるのか?」


「酔ってましぇん! お酒呑んでにゃいです」


 これまで一緒に酒を飲んだときも、こんな絡んでくることはなかった。

 酒は飲んでないが、考えられるのは一つ。

 治癒薬酔いだ。

 駆け出し冒険者あるあるの症状で、治癒薬の副作用として有名である。


 ぽこは、治癒薬を嫌ってほど浴びたから、治癒薬酔いが出てもおかしくない。


「水飲むかい?」


「いらにゃいったら!」


 口では拒否してるのに、手は差し出した水袋を受け取ろうとする。手が空を切った。

 そのまましゃがみ込んでしまったぽこの隣に同じようにしゃがむ。顔色を見ると、白い顔がますます白くなり、青いくらいだ。


「ちょっと気持ち悪いかも……」


 尻もちをついてしまったぽこの首を触り、心臓の拍動を数える。

 ちと遅いが、大丈夫そうだ。


 ぽこをおぶって、リュックは手で持ち、牛鞍岳をインマーグの街へと下り始める。

 背負ったぽこは、後頭部でむにゃむにゃと文句を言う。


「旦那様は、街の人の名前を呼びましぇんけど」


 酔っ払いの話だから、脈絡もないのだろう。返事をせずに言いたいように言わせておく。

 ぽこは、我慢しすぎるところがあるから、こんな機会に貯め込んでいたのを吐き出すのもありだろう。


「私が、エミリアしゃんの名前を呼んだりゃ、クエスト屋受付だってわかりゅやないですか」


 歩みが自然に止まってしまう。


「名前を呼ばなくっても、それは名前を呼ぶのと同じでしゅ」


 どきっとした。


 確かにそうだ。

 俺は、名前を呼ばないことにこだわっていただけらしい。

 何ともお笑い種だ。


 自戒だったはずなのに、実は周りの人を不用意に苦しめただけだったかもしれない。

 受付は、確か名前を呼んで欲しいと言ったはずだ。

 相手に非はないのに遠ざけて、傷つけたやもしれぬ。


 だからと言って、突然呼ぶつもりはない。

 己がしている無駄な抵抗を受け入れよう。


「ぽこのことも、名前で呼んでくらさい」


 何言ってやがる。

 散々呼んでいるじゃないか。


「呼んでくださいったら!」


 背中で暴れるぽこを落としそうになって慌てた。


「ぽこ」


「ちがーう! ぽこは特別なのぉ」


 自分だけは特別扱いしてもらえるのは、心地よい。

 他の人と比べることは単純な思考だが、ぽこは小さな嫉妬を燃やし、それを俺に見せまいとしている。

 ぽこの矜持か、あるいは俺への思いやりか、はたまたその両方か。


 文句を言いながら、ぽこは欠伸をして、俺の肩に頬を寄せた。

 突然静かになり、規則的な呼吸音が聞こえる。


 無言で坂を下っていく。

 来るときにいた牛たちは、食い飽きたのかしゃがんで日光に当たっている。

 山の懐にあるインマーグの街は、今日も手入れされて平和が保たれている。

 人が住むには、手入れが必要だ。


 俺もぽことバディを組むのだから、意識改革は必須だろう。


「起きてるかい?」


 背中を揺するが返事はない。


「俺のバディ、頼りにしてるよ」



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