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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
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71話 ぽこはバディ

「来たぞ!」


 甘ったるい悪魔百合の臭いの中、四方から上がる藻草の煙に燻されて目が痛い。

 煙の間から、大きな蜂が飛び込んできた。

 剣で串刺しにすると、体液が溢れ、飛沫がかかる。


 蜂の大きさは、たぬき姿のぽこよりも二回りほど大きい。

 蜂の幼虫に悪魔百合の蜜を食べさせると、この大きさになると言われている。

 悪魔百合は、蜜を提供する代わりに、花粉を蜂に遠くに運ばせる。

 蜂と悪魔百合は共生関係にあるから、先に悪魔百合を伐採したというわけだ。

 遠くで悪魔百合と蜂が繁殖する分にはいいが、人との共生のために、牛鞍岳の滝から街までの悪魔百合は伐採することになっている。


 蜂特有の低音の羽音がうなりを上げる。

 大きな蜂は、悪魔百合を伐採した俺に怒り狂って、煙の向こうから次々に現れる。

 

 俺を狙う尻の針を叩き切り、返す刃で胴を切る。

 中にはしぶといのがいて、上半身だけで地面で這い寄り、脚へ噛みついてくる。

 硬い頭を踏み潰しながら、剣で次を両断する。


 息を漏らすタイミングも与えられず、次々と新しい針が俺を狙う。

 鋭利な攻撃を避けず、一匹ずつ確実に両断する。

 このための全身鎧で、それは俺にとって衣服程度の負荷でしかない。


 長剣の優れたところは、リーチの長さと、軽さにある。

 剣舞ってのがあるが、素早く舞うようにふるえるから、蜂のように機敏な魔獣にも対応できる。


 ただ切り倒すだけならいいのだが……。

 先刻から少量ずつかかっている体液の飛沫は、蜂の毒だ。

 一匹分なら大したことはないが、こうも数が多いと、装備の間から入り込んでくる。

肌に触れた箇所から身体が痺れ、毒が回ってくる。


「ぽこ! 毒消しを!」


 打ち合わせ通り、背後から液体薬が宙に投げられ、俺にかかる。

 ぽこは小さいから、俺の頭から毒消し薬をかけるにはこれしかない。

 効率が悪いが、大量に荷物が持てるぽこならではの技だ。


 蜂の数は多い。

 興味があって養蜂家に聞いたことがあるが、一つの巣に五百から千匹いるという。

 こんなのいくら切っても、どんどん湧いて来る。

 煙で燻して蜂を弱らせ、長剣で取り回しがいいとしても、集中力が途切れてしまう。


 油断した隙に、鎧の隙間から刺される。

 刺されたところは流血し、おまけに毒まで回る。


「治癒薬と毒消し!」


 これを繰り返し、辺りが蜂の残骸で埋まる頃、蜂はいなくなった。

 燃え尽きた藻草から細く煙が出るばかりだ。


 各種薬漬けによって、不愉快な頭が我慢ならず、兜を脱ぎ捨てて滝へ入った。

 全身を滝に打たれ、勢いで汚れが綺麗になる。

 顔を拭いながら、滝から出ると、ぽこが驚いた顔で俺を見ていた。


「任務完了だ……。ぽこまでひどい顔になっちまったな」


 至近距離にいる俺に治癒薬を浴びせ続けたぽこにも、薬がかかっている。

 綺麗な金色の髪がぺしゃんこになって、白い顔にへばりついている。


 籠手を取って、ぽこの目元にはりついた髪の毛を取り、頭に戻す。

 粘ついた感触に、悪いことをしたと反省してしまう。


「滝、入るか?」


「痛そうですよ」


 足元の滝つぼは、でかい蜂の死骸で埋まっているから、そこで顔を拭う気にはなれないらしい。


 顔を覆っていた手ぬぐいを外し、滝に突っ込む。綺麗になった手ぬぐいで顔を拭いてやると、途中でぽこが手ぬぐいを俺から取って自分で拭き始めた。


「このお仕事、旦那様が一人でしてたのでしょう?」


 戦っている間、鎧の重さは気にならないのに、戦闘後は、どうしてこうも重いのだろう。

 水を含んだ衣服も気持ちが悪い。


 ぽこの手を取って滝つぼから上がりながら返事をする。


「新人がいないときは一人だな」


「一人だと治癒はどうするんですか?」


 その辺りに転がしておいたリュックから、乾いた衣服を二人分出す。

 ぽこに背を向けて、ぐっしょりと濡れた衣服を脱ぎ始めると、ぽこも俺に背を向けて着替え始めたようだ。


「まぁ、だいたいは我慢する」


「我慢?」


「我慢できなくなったら、攻撃の手を緩めて、治癒薬をかける」


 何か思うところがあるのか、ぽこは含んだことがある様子で鈍い返事をした。


「今日はぽこのおかげで我慢せずに済んだ」


 着替え終わったら、外した鎧をまた装備する。背負うのも装備するのも重さに変わりはない。着てしまえば少なくとも邪魔にはならない。


 着替えたぽこが、濡れた衣服をリュックに仕舞って、俺の横に並んだ。

 滝に当たらなかったぽこからは、まだ治癒薬を混ぜた妙な臭いがする。

 ぽこは、手ぬぐいを絞って頭から被った。

 顔だけが出て、ふっくらした頬と大きな目が強調される。


 何かスネているらしく、頬がぷくっと膨らむ。


「……なのに」


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