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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
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69話 ぽことラベンダー

 昨夜はレナのせいで、ぽこの態度がよそよそしかった。

 全く、いらぬことを吹き込んでくれたものだ。

 責めてくれるなら、全くの誤解だと言えるのに、ぽこは何も言わなかった。


 ぎこちない雰囲気のまま、朝から大工が来た。


「増築ってどこっすか?」


「ここだ。ベッドが一つ置けて余裕があるくらいの部屋にしてくれ」


 大工が大きさや壁の状態を確認する。


「増築って?」


 ぽこが俺の袖を引っ張る。


「あぁ、言ってなかったな。ベッドが二階の一つじゃ、問題だらけだろう?」


 ぽこが手を離す。


「材料にこだわりはあるっすか?」


 大工が話しかけてきて、ぽこに背を向けて増築の相談になる。


「柱入ってませんし、一か月かからないっすね」


「そりゃいい。よろしく頼むよ」


 快諾した大工を見送ってから、自分でももう一度長さを測る。


「元々、家を建てるときから、増築を考えて設計したのさ。まさか今になって必要になるとは思わなかった」


 顎鬚を撫でながら、心の中で、かつての自分たちに賞賛を送る。


「ぽこ用の部屋ですか?」


「ん? あぁ……」


 ぽこ用の部屋となれば、もう一部屋か?

 しかし、抜ける壁は一つの予定で、もうない。納屋を部屋に仕立て直して、納屋を庭に立て直すってことになってしまう。


 あぁ、二部屋増えるのは考えなかったな。

 インマーグの家は、もしやこれを想定しているのだろうか?


 インマーグの街の住居は、どれも大きい。家の人数よりも多くの部屋があるし、一部屋が広い作りになっている。暖房効率は悪いように思うが、そういう土地柄なのだ。


 ぽこからの思わぬ言葉に思考を巡らせていると、時鐘が鳴った。


「うん? こりゃいかん。仕事に遅れちまう」


 ぽこの頭を一撫でして、大急ぎで家を出た。

 ぽこが不安そうな顔をしているのが見えたが、仕事が優先だ。



  ❄



 その日は、運良く仕事が早く片付いた。

 手間がかからない仕事をもう一件受けるのが、ここ最近のスタイルだが、ぽこを思い出して帰ることにする。


 予定より早く帰宅した俺を見て、ぽこは籠を編む手を止めて、立ち上がった。

 頬が赤く染まり、目が輝く。

 帰ってくるだけで喜んでくれるのが嬉しく、照れ臭い。


「どうしたんですか? 今日はお仕事終わりですか?」


「早めに切り上げてきた」


 ぽこが不思議そうに俺を見上げる。

 今朝撫でられなかったぶん、わしわしと頭を撫でる。


「ぽこが家のことをしてくれるのに甘えちまってるから、自分でしようと思ってね。ぽこは好きなことをすればいい」


「ぽこは、旦那様と一緒にいたいです」


 鍋を見たら、夕食の仕込みが終わっている。掃除も終わり、洗濯は干されている。

 家事は全て終わっていた。


 何をしたらぽこが喜ぶだろうか?

 一緒にいたいと言われても、毎日一緒にいるのにどうしろというのだろう?


「じゃあ、ハイキングでもするかい?」


 腕にしがみついてくるぽこと外に出て歩き出す。


「丸湖様コースと雪ケ谷連峰コースならどっちだ?」


「丸湖様コースにしましょう! とっておきの場所をお教えしますよ」


 ぽこが先だって歩くのを追いかける。

 山も日陰を残して雪は解けてしまい、淡い黄緑色の新緑が眩しい。

 陽射しが温かく、歩くと汗ばむくらいで、冷たい風が気持ちいい。

 絶好の散歩日和だ。


 ぽこが教えてくれた場所は、ラベンダーの群生地だった。

 見事な紫色の絨毯に目を細め、近くの岩に腰を下ろす。


 ぽこは、たぬき姿になってラベンダーに飛び込んだ。

 姿は見えないが、揺れ動くラベンダーでぽこの位置が分かる。


 とことこ歩いているのが、突然走り出し、しまいには飛び上がった。


 何だ?


 揺れるラベンダーが急に静かになる。

 そこから、ぽこが顔をひょっこり出して、俺の位置を確認した。

 頭がまた引っ込んだかと思えば、ラベンダーが一直線に揺れて、群生からぽこが飛び出してきた。


「旦那様! 見てみて!」


 もごもごとぽこが話しかけてきて、ぺっと口から何かを吐き出した。

 小さな薄緑色のカエルが地面にへばりつき、急いで逃げようと跳ねる。


 ぽこは、それを真似してジャンプした。


「ケロケロケロ~♪」


 カエルは必死に逃げ出し、ぽこは大喜びで後を追う。


 無邪気なもんだ。


 まるで幼い娘のやんちゃを見ているようで、微笑ましい。


「ぽぉこ」


 離れていたぽこを呼べば、走り寄って来る。

 両手を差し出したら、いつものように腕に飛び込んできた。


 金色の柔らかい毛から、ラベンダーの香りが漂う。

 ぽこは、俺の腕に顔をこすりつけて目を細めた。


 散歩の帰りは、腕にたぬきを抱いて帰る。


「子供みたいだな」


「湯たんぽから昇格しました」


 子供かもしれないが、何か堪えているような表情が気になる。

 時間を取って一緒に過ごしても、言葉に出されなければわからない。



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