表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
22/48

66話 ぽこと待ち合わせ

 本当なら、風邪で医者を呼んだりはしない。

 寝てれば治る。

 今回は、ちょっと時間がかかった。そのせいで、ぽこが不安になり、医者を呼ばざるを得なくなってしまった。


 医者は、ただの風邪だと宣言し、寝ていれば治ると言った。

 だが、ぽこが帰さないので、仕方なく煎じ薬を置いて行った。


 その結果、出された煎じ薬を飲み下すのを、毎食後ぽこに見張られている。

 おちおち風邪もひいていられない。


「そういえば、昨日、仕事帰りにレナを見かけた」


「レナを? どこにいましたか?」


 ぽこが俺を看病している間に、レナはどこかに消えてしまったらしい。

 俺に報告したときのぽこは、少し寂しそうだった。


「言うより見た方がいい。明日、仕事終わりに市場に行こう」


 ぽこは今すぐ知りたそうだったが、我儘を言わず、籠編みに戻った。



  ❄



 クエスト屋でぽこと待ち合わせした。


「今日の仕事は何でしたか?」


 朝一番にクエスト屋に行き、仕事を確かめる。

 一緒に行ける仕事でなければ、ぽこはその足で籠を粉屋に納品して、自宅で籠編みや畑仕事をするのが、最近の俺らの生活リズムだ。


「北の洞窟を知っているだろう?」


「初めて一緒に仕事をしたスライム退治の洞窟ですね」


 ぽこの言葉に返事しながら、クエスト屋所長と受付に会釈をして、外に出る。

 ぽこは俺の後を追いかけてくる。


「そこに氷を入れる仕事だな。このくらいのサイズに氷を切り出してから運ぶのだが」


 手で大きさを教えながら、市場へ進む。パン屋に人だかりができていて、会話が途切れた。


「こんな時間に何でしょうね?」


 焼き立てパンが出るのは、朝と昼、昼過ぎの三回。夕暮れ近くにパン屋に人が集まるのは珍しい。

 インマーグの街に住む人だからこそ知っていることを、ぽこが知っている。

 すっかり人間の生活に慣れているのだ。


「もしかして、レナが関係しているんですか?」


 レナの居場所を教えるために、待ち合わせをしたのをぽこが思い出したらしい。

 ぽこが小さな顎に手を置いて、人だかりを観察する。


「並んでいる人、みんな男の人ですね。何も買ってるようには見えませんよ」


「明日のパンを注文してるらしいよ」


 立ち止まった俺たちに声をかけてきたのは、いつもの八百屋の親父だ。


「こんばんは」


「こんばんは。ぽこちゃんはいつも可愛いねぇ」


 にこやかに挨拶を交わし、そこに手を振りながら八百屋の娘も加わる。


「えぇっ⁉ レナ⁉」


 野郎どもの真ん中で、注文書を書いていたレナが、ぽこの声に気づいた。

 大きく手を振ると、野郎どもの山が二つに分かれて道ができる。


「あたし、ここで働いてんのー!」


 遠くからレナのしゃがれた低い声が響く。


「働く? レナが?」


「住み込みよー!」


 ぽこの言葉はレナには届かず、レナは再び大声を上げた。

野郎どもの内の誰かが、「レナさんとぽこちゃんってどういう関係?」と質問する。


「従姉妹よ」


 返事をして、何か小さく動くと、野太い歓声があがる。

 おそらくウィンクとか投げキッスとか、そういう類のことをしたのだろう。

 ぽことレナを結んでいた道が消えて、レナの言葉に一喜一憂するのが再開された。


「従姉妹⁉」


 こっちはこっちで、八百屋の親子がぽことレナを見比べた。


「似てないでしょ」


 ぽこが頬を人差し指で掻いた。


「あっちが上手ね」


 八百屋の娘が腕組みして、苦々しげにレナの方を見た。


「連日の人だかりで、他の店の邪魔になるから参ってるんだよね」


 八百屋の親父の言葉を聞いて、娘が鼻から荒々しく息を吐く。

 どうやらこの二人はレナ派ではないらしい。


「うちのおにーちゃんもあの中に入ってるんだから、本当、嫌になっちゃう」


 八百屋の娘の文句が続く。


「お母さんが買ってきたパンの他に、おにーちゃんが買ってくるから、毎日パンだらけよ」


 パン屋は男一人でも入りやすいし、高くもない。レナを囲む男たちは日参しているのだろう。


「本当、見る目がないんだから」


「レナちゃんは、男心がわかってるからねぇ」


 店じまいをしながら、八百屋の主人が呟いた返事に、娘が食いつく。


「胸と尻が大きい他に何があるっていうのよ?」


 八百屋の親父は、娘に「言葉に気をつけなさい」とたしなめた。


「男は、追いかける生き物だからね」


 追いかける? と娘とぽこが復唱する。


「好きになられるより、好きになった方が燃えるんですか?」


 ぽこの言葉に八百屋の親父が呑気そうに肯定する。


「ぽこは最初っから詰んでるじゃないですか!」


「押しかけてる内は駄目なんじゃない?」


 娘がぽこに言い放った。


「旦那様ぁ」


 ぽこの情けない声を後ろに聞きながら歩く。

 何だか怪しい話題になってきたから、いち早く帰途に着いたのだ。


「やだ、待ってください!」


 追いかけてくるぽこを、八百屋の親子が笑う。


「ほらほら、追いかけてる内は脈ないってこと」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
あなたの楽しみになるよう、更新していきます!


jq7qlwr6lv5uhtie2rbp8uho30kr_zjl_2bc_1jk_5lz4.jpg
『たぬきの嫁入り3』へ



〇 更新情報はX(旧Twitter)にて

▶https://x.com/aiiro_kon_



〇 ご感想・一言メッセージをどうぞ

→ マシュマロ(匿名)
https://marshmallow-qa.com/ck8tstp673ef0e6



〇 新しい話の更新をお届け

こちら ↓ で、『お気に入りユーザ登録』お願いします。
(非公開設定でも大丈夫です)
▶▷▶ 藍色 紺のマイページ ◀◁◀




いいねや反応を伝えてもらえると、
新しい物語の活力になります☺️


本日もお読みいただき、ありがとうございました。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ