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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
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64話 ぽことベッド問題再び

 ぽこが階段梯子の最後三段を残して、俺の背中に飛びついて来る。

 仕方なくおぶったまま、レナに話しかける。

 もうぽこに誤解されて機嫌を損ねるのは面倒で嫌だ。


「ところで、寝床だが、ぽこと二人で二階を使ってくれ」


「旦那様はどうするんです?」


 背中に額を擦り付けていたぽこから質問が上がった。

 俺の目の前で、レナが大きな目をさらに丸くしている。

 夫婦を語るぽこだが、実際には娘のような甘えぶりだから、驚くのも無理ない。

 俺がもっと若ければ、鬱陶しがったかもしれない。


「一階で寝る」


 ぽこが背中から降りて正面に回る。


「私たち、いつもこの話で揉めますね」


 私たちと来ましたか。

 俺は、誰かと関わる生き方をしていない。よって、ベッドは一つで足りたのだ。

 俺を訪ねてくる数少ない者は、俺の暮らし方を知っているから、街に宿を取るか、床で寝るかの二択を嫌がらない。


「あんたたちって、いつもどうやって寝てるの?」


「ぽこがたぬきに戻って一緒に寝てます」


 レナが俺を妙な目で見上げる。


「たぬき姿でシてるの?」


 二階でぽこと仲直りしたわけだが、その最中にぽこは胸を大きく膨らませている。

 きっと俺のためにやったと思われているだろう。

 その上、こんな誤解をされてしまった。


 言い繕えば、余計に墓穴を掘るだけだろう。


 たぬきたちの早とちりには辟易する。


「あたしは納屋で寝るわ。ぽこ、落ち葉を出してよ。あたしの手持ちだけじゃ足りないわ」


「納屋?」


 いくらなんでもお客様に納屋で寝ろとは言えない。


「あたしたち狸は、自然界じゃ穴で寝起きするのが普通なの。だから、納屋なら問題はないし、落ち葉のベッドでも作れば、上等よ。あたしは客かもしれないけど、基本たぬきなんだし、気にしないでいいわ」


 二階での話し合いは、レナに殆ど筒抜けだったらしいと気づいて、居たたまれない。


 ぽこは、なぜだか了承しなかった。

 もう俺が原因のわだかまりはないはずだ。


「三人で寝るなら、あたしは人間姿のままがいいんだけど?」

「それは駄目」


 即答して、ぽこがレナを納屋へ案内するのについて行く。

 片付いてはいるが、客を寝かせるような場所ではない。


 レナが空いた木箱を逆さにして、中からゴミを出し、空になったところに腰の巾着から落ち葉を出す。宣言通り半分の量しか落ち葉はなかった。

 レナがぽこを肘で突き、落ち葉を催促するが、ぽこは出せないでいる。


 落ち葉コレクションを並べるのが好きなぽこの背中を思い出した。

俺にはわからない微妙な差で細かく分けられたコレクションだ。

自分で使うのと、レナにせっつかれて出すのとでは違うのだろうと思い当たった。


「やはり、二階のベッドを二人で使ってくれ。大切なお客様をここで寝かせるわけにはいかない」


「あら、いいのよ。あたしたちにとっては落ち葉の方が落ち着くものだし」


 レナはレナで、譲らない。

 勘違いしていると言い訳したいが、ぽことどういう関係なのか、説明するのだけは御免こうむりたい。


「何、ぽこの葉っぱコレクションは、俺のお気に入りでね」


 ぽこが俺の脇から腰に抱き着いて来る。


「旦那様!」


「はいはい」


 頭を鷲掴みにして引きはがして、納屋から出る。

 あれこれ揉める前に、実力行使だ。


 どういうわけだか、ぽこはレナと俺の板挟みになって、たぬきとたぬきの化かし合いができないらしい。

 ぽこのレナへの被害者意識をひどくさせるより、事情を知る俺が間に入るべきだろう。



 母屋に戻る際に、夜通し燃やす用の薪を手に取る。

 母屋の中は、納屋とは雲泥の差だった。温かく、生きた心地がする。

 握り拳の大きさの石を暖炉に放り込み、焼く。

 焼いた石を抱いて寝れば、長時間温かい。


「せめてキルトだけでも持ってきますね」


 ぽこが止める暇なく二階へ上がっていく。

 毛皮の敷物の位置を暖炉側にずらしていると、レナが逆側を持ち上げてくれた。


「ぽこは、まるで子供みたいね」


「そうだな」


 背中におぶらされたり、抱きついて来ることを言っているのだろう。


「ぽこは、ドン・ドラドにもあんな風に甘えたりしなかったわ」


 キルトを取るだけのはずが、何か思いついたのか、物音はするが降りてこない。


「ぽこは辛抱強く、我儘を言わない子だった。あなたが変えたのね」


 レナの視線が鋭く俺に刺さる。

 悪いことはしていないはずなのに、罪悪感を感じさせられる。


「俺ぁ、何もしてないがね」


「あたしのやり方だと、ぽこを傷つけることの方が多いのは知ってるわ」


 全て自分のしたいようにしている印象のレナだが、ぽこのことになると不器用なのか、裏目に出てしまうようだ。


「旦那様! 受け取ってくださいね!」


 二階から丸められたキルトが落とされる。追加でぽこにやった羊毛の防寒着を渡された。


「袖のところは、ちょっと時間がかかっちゃうんですけど、丈は元に戻したので、身体にかけられると思います」


「ありがとよ」


 ぽことレナを二階に見送り、毛皮の上にキルトを敷いた。

 暖炉に放り込んだ石を取り出して、ミトンに包む。それで暖を取りながら、羊毛の防寒具を羽織った。


 その夜、遅くまでぽことレナは小声で話していた。



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