46話 旦那様と籠編み①
旦那様と別れて、一つ目の玄関扉を開けると、壁一面に防寒着が並んでいた。
こんなに沢山の女性がいるのかな?
ママから習った籠編みは、里ではごく一般的な編み方だったから、褒められるのがなんだかとっても不思議。
「こんにちは~」
防寒着を脱いでから二つ目の中扉を開けたら、熱気が襲い掛かって来た。
「やっと来たのね! 早く入って!」
「温かい空気が逃げちゃうわ!」
「こっちこっち!」
大きな食卓を三つ並べた一番奥に粉屋の奥さんがいて、隣の空席に座らせられた。
驚いている間に、紅いお茶が出され、生クリームがたっぷりのったふわふわのケーキに、クッキー、雪玉、林檎が出される。
お皿は薄くて軽く、美しい絵が描かれていて、とっても上品だ。
皆の前にも同じように様々なお茶菓子が出されているのを見て、頭を抱えてしまった。
「来るなり、どうしたの?」
「ごめんなさい。私、何も持ってきてません!」
皆一斉に笑い出し、エネルギーに圧倒されてしまう。
「そんなのいいのよ。やりたい人がやってるだけだから」
「今日は先生なんだしね」
「初めまして。私は肉屋の妻よ」
「あたしは、八百屋の娘」
次々に名前を教えてもらって混乱してしまう。
えぇと、美人な人が肉屋さんで、愛嬌のある若い人が八百屋さんで?
外との寒暖差も相まって、脳が溶けだしそう。
「少しずつ覚えればいいんですよ」
粉屋の奥さんの言葉に、また皆が笑う。
ケーキは誰の手作りで、クッキーは誰、雪玉はどの店のかと教えてもらい、皆が食べるのに合わせて食べ始めると、口々にお喋りが始まった。
「それにしても、あのベテランが奥さんを貰うとはね!」
「恋愛にとんと興味無しって感じだったのにね」
「押しかけ女房だって言うじゃないの」
「ねぇ、本当なの?」
久しぶりの雪玉を堪能していたら、突然話題を振られて、むせる。
背中を叩いてもらい、お茶を飲む。
「はい。押しかけです」
「ほら! やっぱりベテランさんは押しに弱いのよ」
「エミリアは照れ屋だしねぇ」
エミリアさん?
みんなに混じって、クエスト屋受付の女性がいた。
普段のクエスト屋受付さんは、物腰柔らかだけどてきぱきしている。今は、顔を赤くしてもじもじと隣の人の影に隠れた。
あぁ、エミリアさんは旦那様のことが気になってたのか。
私が旦那様の妻だと言ったときに、様子がおかしかった理由に妙に納得してしまった。
それでも、エミリアさんは私のことを気にかけてくれて、旦那様に苦言を言ってくれたし、私の仕事だって気にかけてくれている。
今まで私が思っていた以上に、エミリアさんは親切なんだ。
「ぽこちゃん、私のことは、気にしなくていいのよ」
わぁわぁ好きなように話している隙間をくぐって、エミリアさんはわざわざ隣に来てくれた。
「あら! 駄目よ! エミリアにもチャンスがあるかもしれなくてよ」
「何言ってるの⁉」
「だって、ぽこちゃんとベテランさんは、まだキスもままならないみたいだし」
「何の話ですか⁉」
ひぃぃっと憐れな声が喉の奥から漏れる。
並んだご馳走への食欲が減ってしまう。
宿り木の話を、青い鷹隊が市場で広めたというのは、本当だったみたい。
でもまさか、こんな直接的に言われるなんて!
「私たち、ぽこちゃんが籠を編めない理由を粉屋さんに聞いちゃったのよ」
「ぽこちゃんが、夜に編もうとしたら、ベテランさんが邪魔してくるんですって?」
「それって、どんな風に?」
「えぇぇ⁉」
「キスもしてないのに、どうやって邪魔するの?」
「ほら、エミリアもちゃんと聞くのよ」
私がエミリアさんと顔を見合わせ、二人して真っ青な顔で抱き合う。
これじゃ、魔女の集会だよ!
粉屋の奥さんに救いを求めるが、奥さんは澄ました顔でお茶を啜り、薄いお皿に杯を置いた。
「男衆ばかり情報通になるのは癪でね。女の悩みは、女同士でしょう? みなさん?」
「そうですわ!」
「で、どんな風に邪魔されるんですの?」
「さぁ! さぁ!」
せっつかれる勢いと、のぼせるような暑さで、上手く頭が回らない。
「私が籠を編み始めたら――」
えぇ、こんなの言っちゃだめだよね?
何て言えばいいの⁉
「編み始めたら⁉」
「旦那様が一緒に寝ようって――」
黄色い悲鳴が上がり、私の顔がさらに赤くなる。
あぁ、言っちゃった。
「一緒に寝ようですって!」
「初々しいわ!」
「子供が生まれるまでの甘い期間よね!」
「そうよー。本当に!」
こほんっと粉屋の奥さんが咳払いし、皆の集中が粉屋さんに集まる。
「キスもままならないのに?」
皆の視線が私に刺さる。
あぁ、誰か助けて!





