表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第5章 白い季節を越えて土地に根付く
2/48

46話 旦那様と籠編み①

 旦那様と別れて、一つ目の玄関扉を開けると、壁一面に防寒着が並んでいた。


 こんなに沢山の女性がいるのかな?


 ママから習った籠編みは、里ではごく一般的な編み方だったから、褒められるのがなんだかとっても不思議。


「こんにちは~」


 防寒着を脱いでから二つ目の中扉を開けたら、熱気が襲い掛かって来た。


「やっと来たのね! 早く入って!」

「温かい空気が逃げちゃうわ!」

「こっちこっち!」


 大きな食卓を三つ並べた一番奥に粉屋の奥さんがいて、隣の空席に座らせられた。

 驚いている間に、紅いお茶が出され、生クリームがたっぷりのったふわふわのケーキに、クッキー、雪玉、林檎が出される。

 お皿は薄くて軽く、美しい絵が描かれていて、とっても上品だ。

 皆の前にも同じように様々なお茶菓子が出されているのを見て、頭を抱えてしまった。


「来るなり、どうしたの?」


「ごめんなさい。私、何も持ってきてません!」


 皆一斉に笑い出し、エネルギーに圧倒されてしまう。


「そんなのいいのよ。やりたい人がやってるだけだから」

「今日は先生なんだしね」

「初めまして。私は肉屋の妻よ」

「あたしは、八百屋の娘」


 次々に名前を教えてもらって混乱してしまう。

 えぇと、美人な人が肉屋さんで、愛嬌のある若い人が八百屋さんで?

 外との寒暖差も相まって、脳が溶けだしそう。


「少しずつ覚えればいいんですよ」


 粉屋の奥さんの言葉に、また皆が笑う。

 ケーキは誰の手作りで、クッキーは誰、雪玉はどの店のかと教えてもらい、皆が食べるのに合わせて食べ始めると、口々にお喋りが始まった。


「それにしても、あのベテランが奥さんを貰うとはね!」

「恋愛にとんと興味無しって感じだったのにね」

「押しかけ女房だって言うじゃないの」

「ねぇ、本当なの?」


 久しぶりの雪玉を堪能していたら、突然話題を振られて、むせる。

 背中を叩いてもらい、お茶を飲む。


「はい。押しかけです」


「ほら! やっぱりベテランさんは押しに弱いのよ」

「エミリアは照れ屋だしねぇ」


 エミリアさん?

 みんなに混じって、クエスト屋受付の女性がいた。

 普段のクエスト屋受付さんは、物腰柔らかだけどてきぱきしている。今は、顔を赤くしてもじもじと隣の人の影に隠れた。


 あぁ、エミリアさんは旦那様のことが気になってたのか。


 私が旦那様の妻だと言ったときに、様子がおかしかった理由に妙に納得してしまった。

 それでも、エミリアさんは私のことを気にかけてくれて、旦那様に苦言を言ってくれたし、私の仕事だって気にかけてくれている。

 今まで私が思っていた以上に、エミリアさんは親切なんだ。


「ぽこちゃん、私のことは、気にしなくていいのよ」


 わぁわぁ好きなように話している隙間をくぐって、エミリアさんはわざわざ隣に来てくれた。


「あら! 駄目よ! エミリアにもチャンスがあるかもしれなくてよ」


「何言ってるの⁉」


「だって、ぽこちゃんとベテランさんは、まだキスもままならないみたいだし」


「何の話ですか⁉」


 ひぃぃっと憐れな声が喉の奥から漏れる。

 並んだご馳走への食欲が減ってしまう。


 宿り木の話を、青い鷹隊が市場で広めたというのは、本当だったみたい。

 でもまさか、こんな直接的に言われるなんて!


「私たち、ぽこちゃんが籠を編めない理由を粉屋さんに聞いちゃったのよ」


「ぽこちゃんが、夜に編もうとしたら、ベテランさんが邪魔してくるんですって?」


「それって、どんな風に?」


「えぇぇ⁉」


「キスもしてないのに、どうやって邪魔するの?」


「ほら、エミリアもちゃんと聞くのよ」


 私がエミリアさんと顔を見合わせ、二人して真っ青な顔で抱き合う。


 これじゃ、魔女の集会だよ!


 粉屋の奥さんに救いを求めるが、奥さんは澄ました顔でお茶を啜り、薄いお皿に杯を置いた。


「男衆ばかり情報通になるのは癪でね。女の悩みは、女同士でしょう? みなさん?」


「そうですわ!」


「で、どんな風に邪魔されるんですの?」


「さぁ! さぁ!」


 せっつかれる勢いと、のぼせるような暑さで、上手く頭が回らない。


「私が籠を編み始めたら――」


 えぇ、こんなの言っちゃだめだよね?

 何て言えばいいの⁉


「編み始めたら⁉」


「旦那様が一緒に寝ようって――」


 黄色い悲鳴が上がり、私の顔がさらに赤くなる。


 あぁ、言っちゃった。


「一緒に寝ようですって!」

「初々しいわ!」

「子供が生まれるまでの甘い期間よね!」

「そうよー。本当に!」


 こほんっと粉屋の奥さんが咳払いし、皆の集中が粉屋さんに集まる。


「キスもままならないのに?」


 皆の視線が私に刺さる。


 あぁ、誰か助けて!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
あなたの楽しみになるよう、更新していきます!


jq7qlwr6lv5uhtie2rbp8uho30kr_zjl_2bc_1jk_5lz4.jpg
『たぬきの嫁入り3』へ



〇 更新情報はX(旧Twitter)にて

▶https://x.com/aiiro_kon_



〇 ご感想・一言メッセージをどうぞ

→ マシュマロ(匿名)
https://marshmallow-qa.com/ck8tstp673ef0e6



〇 新しい話の更新をお届け

こちら ↓ で、『お気に入りユーザ登録』お願いします。
(非公開設定でも大丈夫です)
▶▷▶ 藍色 紺のマイページ ◀◁◀




いいねや反応を伝えてもらえると、
新しい物語の活力になります☺️


本日もお読みいただき、ありがとうございました。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ