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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
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63話 ぽこと従姉②

「ぽこ、片付けは後でいい。ちょっといいかい?」


 ぽこのしな垂れた尻尾が震える。

 二階への階段橋子を先に登って、カンテラをつけた。


 薄ぼんやりした灯りの中、ベッドの脇に二人で立つ。


「山はまだ雪がかなり深い。その中、来てくれた従姉に、どうしてあんな態度を取る?」


「どうして愛想よくしなきゃいけないんですか?」


「どうしてって、そりゃ……」


 インマーグの街の人々に、ぽこは愛想がいい。可愛がられ、料理を教わったり、籠編みを教えたり、すっかり馴染んでいる。

 街の大切な仮面の祭りに運営側として短期間で迎えられたのは、ぽこの努力の結果だと俺は思っていた。


 誰に対しても愛想がいいのか。それとも、そういう企みなのか。

 企みだったとしても、何も悪いわけではない。

 そうなりたくて、努力しているのだから、いいことだと言える。


 だが、ぽこのレナへの態度の悪さはどうだろうか。

 家出までしたのだから、ぽこにとって親戚であるレナは捨てたはずの何かなのか。


「誰にどんな態度を取るのかは、ぽこの自由だ」


「そうです」


 これまで何度かぽこを泣かしてきた。けれど、今回のようなのは初めてだ。


「俺を睨むのも、お前さんの自由だが、それで俺がどう思うかは知らんぞ」


 ぽこが顔を真っ赤にして、煙を上げて小爆発を起こした。

 煙の中から出てきたのは、人間のぽこのままだったが、何だかおかしなことになっていた。

 胸の膨らみが大きくなり、普段着ている四角い襟元のシャツが、深い切り込みに変わっており、谷間が見える。


「旦那様は、こっちが好きなんでしょ⁉」


 ぽこの気持ちを受け止めるのが先だと思っていたが、思いもよらぬ方向からの攻撃だ。


 深く、深いため息が出て、ベッドに腰掛けた。

 床を見て、短い髪を掻きむしり、顎髭を撫でる。


 こんなのどうすりゃいいんだ。


「旦那様は、例えお世話になってるクエスト屋さんでも名前を覚えないのに、レナの名前はすぐに覚えたじゃないですか」


 俺の隣に座り、腕に胸をあててくる。

 したいようにさせ、脳内でアイスラビットの捌き方を復習する。


「四種類も肉を入れて」


 ふへんと、ぽこがしゃっくりを上げた。


「林檎の蜜煮は、とっておきだと思って、ずっと楽しみにしてたのに!」


 とっておきだから、特別な客に出したわけだが、反論はしまい。


「レナは、小さいときからずっとぽこの大事なものばっかり盗っていくんです」


 二の腕に当てられたぽこの顔の辺りが熱い。


「南方の親戚がくれた特大どんぐりも、ママのレースも、雪玉も!」


 うぅん。たぬきの大事なものってのはおもしろいもんだ。


 巾着から骨が出てきたのを思い出してしまう。

 ぽこは、こんなチビなのに食いしん坊だ。

 そう思えば、林檎の蜜煮や肉も納得だ。


「旦那様だけは盗られたくない」


 小さな声だったが、ちゃんと聞こえた。


「旦那様が物じゃないのも、自由なのもわかってます。でも、黙って見過ごすわけにいきません! ぽこは戦います!」


 なるほど。事は食べ物ではない。吐露した本心を聞いて、ようやく切り出せる。


 ぽこの腕を掴んで、身体を離す。

 これでようやくまともに話せるってもんだ。


「あのな、俺がレナさんに親切にしているのは、ぽこの親戚だからだ」


 ぽこが首を傾げる。


「ジョアンのことも、レナさんのことも、ぽこが関わってなけりゃ覚えなかっただろう。薄情だろうが、俺は身内以外のことは遮断して生きてる。わかるか?」


 ぽこが頷く。


「本当にわかってるか? ぽこは客じゃない。家族みたいなもんだ」


 あぁ、くそっ。

 耳の先まで熱い。


 ぽこの大きな瞳が光った。


「ぽこは旦那様の家族ですか?」


「何度も言わん」


「妻の親戚だから、親切にしてるってことですね?」


「妻とは言ってないぞ」


 ぽこが立ち上がって、俺の首に抱きつく。


「ぽこが特別なら、ちゅーってしてください」


 小さな唇を尖らせてくるのを、掌で押さえて引きはがした。

 勢いよく立ち上がって、階段橋子を降り始める。


 一階では、割れた杯が片付けられていた。

 俺を見てレナが肩をすくめてみせる。


 あぁ、嫌だ。こんなのを誰かに聞かれてるなんて吐きそうだ。


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