62話 ぽこと従姉①
「これがジョアンが作ったっていう畑ね」
ぽこはレナと手を繋いだまま、畑を紹介し始めた。
揃いの丸くて分厚い耳、と尻尾を見たら、二人が本当に親戚だぬきだと実感が湧いた。
ぽこは男兄弟ばかりだと言っていたから、おそらくレナは、ぽこにとっては姉のような存在なのだろう。
レナの気風の良さは姉御肌とも言い換えられる。
ぽこの実家は権力があるようだし、父親は実の娘からも恐れられているようだ。
俺は、ぽこの父親のことをそれだけしか知らないが、末の娘が可愛くないわけがない。
今まで一人で外に出さずにいたほどなのに、居場所がわかった後も兄弟すら来ない。何かしら事情があるのだろうと思っていた。
雪深い地域だから、春になればその機会にも恵まるだろうと、呑気に構えているところに従姉殿である。
心配の末、事情を押して来てくれたのだろうと察した。
ぽこの里は、赤壁山の奥だというから、まだ雪は解けていない。
俺の家まで来るのは大変だったはずだ。
食糧庫の奥から、林檎の蜜煮を出してくる。
鍋に赤ワインと林檎の蜜煮、スパイスを入れて温める。
隣の鍋で、中途半端に空いた豚肉、羊肉の塩漬け、ガチョウや鴨の脂煮と一緒に香味野菜、インゲン豆を煮ていると、ようやくぽことレナが入ってきた。
家の中の案内は、あっという間に終わった。
部屋数は少ないし、家具もほとんど置いていないからだ。
二人は、ホットワインを見たら、大喜びした。
「お酒も出してもらって、その上料理までしてもらえるの? 確かにこれなら嫁になるのもいいかも」
少しずつホットワインを飲みながら、レナが脚を組みなおす。
なんだって、この寒い中、二人そろって短いスカートなのかね。
見ているこっちが寒くなる。
「ぽこが旦那様の妻になりたいのは、そういうことじゃありません」
「なぁに? これ以上のサービスがあるってわけ? 期待しちゃう」
フフフと笑うレナに対し、ぽこは眉間に皺を寄せる。
明らかにぽこに余裕がない。
ムキになって言い返しては、返り討ちにあっている。
「ほら、できたぞ。熱い内に食おう」
食卓に土鍋ごと出す。
インゲンマメと肉の煮込みは、土鍋で焼くのが最大の特徴だ。
暖炉の炎で表面が炙られ、表面に散らしたパン粉が香ばしく焦げている。
音を立てて表面を割り、それぞれの皿に盛る。
できたてのインゲン豆の煮込みを一口飲み、レナは平らげるまで食事に専念した。
ぽこもそうだが、年若いもんが満足するまで食うのを見るのは楽しい。
二人の様子をおかずにホットワインをちびちび飲む。
相変わらず熱いのが食べられないぽこは、スプーンですくったスープに何度も息を吹きかける。その度に、香味野菜と肉の香りが部屋に漂う。
ぽこは、鼻をひくつかせた後、飲みごろになったスープを味わった。
「豚肉に、羊肉、それにこれは鴨と?」
「ガチョウだ」
流石たぬきというべきか、ぽこは材料を見分けるのがうまい。
各種肉の旨味を吸ったインゲンマメが、ほくほくに炊けている。
「四種類も! こんな贅沢なの勿体無いですよ」
ぽこが、頬を膨らませた。
「あたしのためよね」
「遠くから来たレナさんのためにね」
言葉が重なり、レナが俺にウィンクすれば、ぽこが黙ってしまった。
たぶんレナと違う理由でぽこは黙ったのだろう。
だが、それを従姉とはいえ、人前で取りなせるような俺ではない。人目や建前を気にしないタイプなら、もっと早くにどうにかなっている。
居心地悪く、俺の家のはずなのだが、と思って苦笑いで逃がした。
他の人と暮らすというのは、こういうことの連続だ。
自己完結するしかない生活で、寂しかった俺にとっては、不満すらも心地よい。
「片付けはぽこがやります」
宣言したぽこにお願いして、俺は客人に酒を勧めた。
首を振って断られ、三人分のお茶を淹れることにする。
レナの視線はぽこに集中していたが、お茶を淹れた後は、俺をじっと見る。
品定めされているのだろうが、見栄を張るようないいもんでもない。
あるがままで判断してもらうっきゃない。
気付かないフリをして、お茶を啜る。
「片付けおーわりっ」
ぽこが食卓に向かった瞬間、レナが食卓の上に無造作に置いた俺の指に指を絡めた。
「駄目っだったら‼」
金切り声に、耳がキーンとする。
ぽこも、こんな声が出せたのか。
「旦那様はぽこのもの! 横取りは許さないから!」
ぽこが食卓と俺の、存在しない間に割り込んだ勢いで、食卓の上の杯が転がり、床で割れた。
「あっ!」
急いで拾うぽこを脇から、割れた杯の欠片を拾う。
床に大粒の液体が追加で落ちた。
他人の前だからと、遠慮している場合ではないらしい。
「ぽこ、片付けは後でいい。ちょっといいかい?」





