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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第7章 春の来訪者
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61話 旦那様と従姉

「腕を放してやくれませんかね」


 レナが旦那様の腕を放して、髪を耳にかけた。

 仕草がいちいち色っぽくて、イライラしてしまう。


 レナは私の二つ年上の従姉で、要領がいい。

 二人でお手伝いをしていても、レナは大人がいないときは仕事をサボる。大人が来たら、私がやった仕事を自分の手柄にして褒められる。

 私が欲しい物は、昔からレナが横からかっさらっていった。


 旦那様だけは、渡したくない。


 ぎゅうぎゅう腕に抱きつくと、旦那様は私を見て短くため息をついた。


 あ、腕を放すのは私も一緒なのか……。


 泣きたい気持ちを抑えて、旦那様から離れる。


 レナが抱きつけば、大きな胸の谷間に腕が挟まれる。でも、私のじゃできない。

 雄は、子を沢山産める雌を好む。

 レナと自分の見た目の違いにも嫌になる。

 そういえば、ジョアンが旦那様を騙すために化けた人間の女の人も、胸が大きかった。


「私、家出娘じゃないわ」


 レナに勝てる部分を探して、何も思いつかず、やっと出た反論がこれっぽっちだ。


「あぁ、ジョアンの話は聞いたわよ。でも、あたしは騙されないわ」


「別に騙してないもん」


「そう? ジョアンの様子がおかしいから、ちょっと突いてみたら、すぐにゲロったわよ。ぽこが人間の男と暮らしてるってね。いいのかなぁ? 人間にあたしたちが化けられることをばらしたりしてさぁ」


 最後の部分はこそこそ話のように小声だった。

 言い訳できずに、困る。


 レナに口で勝てるわけない。


「心配せずとも、誰にも言わない」


 やっぱり旦那様だ。

 言わずとも通じるとは、夫婦っぽくて素敵。


「そうだよね。ばけ狸に言い寄られているなんて、頭がおかしくなったのかって思われちゃうもんね。言わないほうが身のためよ」


「レナは旦那様に対しても失礼すぎるよ!」


 本気で怒っているのに、レナは悪びれもせずに、続ける。


「あぁ! それとも、この男を化け術で骨抜きにする作戦なの? それなら、あたしが協力したげるわ」


 ちらっと旦那様を見ながら、わざと聞こえるように言う。

 レナの唇の端が上がった。


「違うってば! ぽこは人間になって、旦那様をと本物の夫婦になるの!」


 レナが驚いた後、笑い出した。

 やっぱり、私を困らせて喜んでいる。


「そんなことできるわけないじゃない。相変わらず夢見がちなのね。やっぱりあんたにはあたしが必要よ」


「おばぁの昔話にあったでしょ。人間になったたぬきの話をレナも一緒に聞いたじゃない」


「あんなの子たぬき用のおとぎ話でしょう?」


「そんなこと!」


 旦那様を見る。旦那様も、種族変更の薬なんてないと思っているだろうか?

 そんなわけない。

 私が人間になったら、たぬき姿が見られなくなるのが嫌だって言ってくれたもの。

 

「信じてくれなくってもいいわ。これはぽこと旦那様の問題で、レナに関係ないもの」


 レナの瞳孔が小さくなった。

 怒っているのだろう。


「あんたがそのつもりなら、あたしにも考えがあるわ」


 腕組みをして、ふんぞり返る。


「ドン・ドラドに言って、無理やり連れ帰ってもいいのよ」


「それだけは駄目!」


 里の長であるパパは、身内には優しいけれど、敵に容赦はない。


 隣の里がうちの里の領地をちょろまかそうとしたとき、血で血を洗う抗争になった。

 人間と取引をしたときも、納得いかない相手なら、歓待と称して招待し、まずは風呂にでも入りなさい。次は全身の毛を剃りなさいとかうまいことを言って、最後は魔獣に食べさせようとした。

 パパに歯向かう者は徹底的に駆除される。


「そうでしょう? あんただって、ドン・ドラドにバラされたくないわよね」


 どうしたらいいの?


「俺は、ぽこの父親にバラされても困らないがね」


 旦那様の言葉に驚いてしまう。


「言いたければ言うがいい。レナさんが来たのは、それが目的かい?」


 今度はレナが黙った。


「ぽこ、帰るぞ」


 旦那様に促されて、歩き出す。

 レナは、何も言わないまま、私の隣を歩く。


「たぬきってのは、どいつもこいつも押しが強くていかんねぇ」


 旦那様の呆れ声に、レナが私の顔を見た。


「ぽこの押しが強い?」


 いつだって押しが強いのはレナで、私はそのおまけだった。

 言われてみれば、レナっぽいことをしているのかもしれない。


 レナがぐるりと大きな目を回す。


 どちらともなく、小さく笑い出し、里でいるときのように手をつないで歩き出した。


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