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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第6章 葉っぱの置手紙
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55話 ぽこのいない仕事③

「ベテランさん、お味はいかが?」


 回って来た料理は、じゃがいもと玉ねぎを小魚の塩漬けと焼いたものだった。

 一口食べた途端に感想を求められて、舌を焼く。


「うまいです」


 冷たい水を飲んでから、ようやく返事ができた。

 どういうわけだか、奥さんと受付が顔を見合わせ、声を挙げて喜ぶ。


「それはエミリアが作ったものでしてよ」


「はぁ」


「うちの娘も大きくなりましたでしょ」


「立派なものです」


「親の私が言うのも何ですが、このくらいの年齢の娘は眩いばかりに美しいわよね」


「仰るとおりです」


 この家族で一番お喋りなのは奥さんなのは間違いない。

 世話焼きで、何でも口を突っ込んでくる。


 再び渡された受付が作ったじゃがいも料理を、仕方なくもう一すくい皿に盛った。


「あなた、結婚したとか、してないとか両方の噂を聞くけど、本当のところはどうなの?」


 何と言えば適切なのか、返事に窮する。

 以前ほど誤解を解く気はない。


「妻ではないと仰ってましたよね」


「あぁそうだ」


 この人らに、妻だと言えば、結婚証明書を提出しろと言われるはずだ。だから、ここははっきり言うべきだ。


 受付が一呼吸おいて、何か言い出そうとすのがわかった。だが、ぽこがいない今、何か言われるのは嫌だった。


「押しかけられて迷惑してるくらいでね」


 本当は、違う。

 だが、ぽことの関係が保留のままなら、身綺麗なままでいさせた方がいいだろうと思った。

 俺のお手付きになっていないのが明らかなら、押しかけた過去も清算しやすいだろう。

 お暇の意味が分からないのだから、こうしておくしかない。


 これ以上、何も聞かれたくなくて、せっせと出されたもんを口に運んだ。

 俺の気持ちが伝わったのか、奥さんはそれ以上何も言ってこなかった。

 当たり障りのない話題が俺以外の家族三人だけで交わされる。



 食事が終わるタイミングでちょうどよく、外の吹雪が止んだことをいいことに、そそくさと食事の礼を言い、クエスト屋一階へ降りる。

 暖炉の傍で、遭難者の仲間が、静かに看病しているのを横目で見てから、玄関からそっと外に出た。


 防寒具は所長宅にいる間に乾かさせてもらった。腹もいっぱいだ。家に帰る前に、近くの林を探そう。


 歩き出そうとしたとき、背後で扉が軋む音がした。

 振り返ると、クエスト屋受付が防寒具なしで立っている。


「オズワルドさん」


 受付は、俺に走り寄って抱きついた。

 動けずに、されるがままに突っ立っているしかない。


 暫くそのままでいたが、また雪が降り始める。


「もし、押しかけているのが私でも、ご迷惑でしょうか?」


 意味がわからず、返事ができない。それでも、何か返事をせねばならないようだ。


「俺ぁ、もう身内はいらない。ただそれだけで、相手が誰であっても同じです」


「私、ずっと待ってたのに、何故です?」


 何を待っていたのか、何が何故だろうか。


「私、今からオズワルドさんの家に行きたい」


「悪いが、ぽこを探させてください」


 もしかしてとは思うが、それなら態度をはっきりせねばならず、受付の肩を掴んで引きはがした。

 ぽこより肉厚で、柔らかい。女のいい匂いがする。

 うなじに垂れたおくれ毛のその先を想像させる。

 確かに、受付はいい女になった。


「私のどこが駄目でしょうか?」


 首を振って否定する。


「すまないが、先刻言ったのが全てだ。俺はぽこもまだ待たせたままだ。いつまで待たせるかわからない。あいつがウマいこと隙間にねじり込んで来ているだけで、俺はそれだけで手一杯だ」


 受付は、上目遣いで俺を見上げた。


「直すところがあれば直します。私にもチャンスをください」


「受付さん――」


「エミリアです。名前を呼んでください」


 弱り切って、首巻を外して、受付に巻き直す。


「受付さん。あなたは美しい。俺には手に余ります」


 甲斐性なしだ。

 そんなもんいらない。


 今はぽこを探したい。

 あんな別れ方は嫌だった。


 今日何度となく思ったことを再度思う。


 そのまま踵を返し、自宅への道をぽこを探しながら歩いた。


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