55話 ぽこのいない仕事③
「ベテランさん、お味はいかが?」
回って来た料理は、じゃがいもと玉ねぎを小魚の塩漬けと焼いたものだった。
一口食べた途端に感想を求められて、舌を焼く。
「うまいです」
冷たい水を飲んでから、ようやく返事ができた。
どういうわけだか、奥さんと受付が顔を見合わせ、声を挙げて喜ぶ。
「それはエミリアが作ったものでしてよ」
「はぁ」
「うちの娘も大きくなりましたでしょ」
「立派なものです」
「親の私が言うのも何ですが、このくらいの年齢の娘は眩いばかりに美しいわよね」
「仰るとおりです」
この家族で一番お喋りなのは奥さんなのは間違いない。
世話焼きで、何でも口を突っ込んでくる。
再び渡された受付が作ったじゃがいも料理を、仕方なくもう一すくい皿に盛った。
「あなた、結婚したとか、してないとか両方の噂を聞くけど、本当のところはどうなの?」
何と言えば適切なのか、返事に窮する。
以前ほど誤解を解く気はない。
「妻ではないと仰ってましたよね」
「あぁそうだ」
この人らに、妻だと言えば、結婚証明書を提出しろと言われるはずだ。だから、ここははっきり言うべきだ。
受付が一呼吸おいて、何か言い出そうとすのがわかった。だが、ぽこがいない今、何か言われるのは嫌だった。
「押しかけられて迷惑してるくらいでね」
本当は、違う。
だが、ぽことの関係が保留のままなら、身綺麗なままでいさせた方がいいだろうと思った。
俺のお手付きになっていないのが明らかなら、押しかけた過去も清算しやすいだろう。
お暇の意味が分からないのだから、こうしておくしかない。
これ以上、何も聞かれたくなくて、せっせと出されたもんを口に運んだ。
俺の気持ちが伝わったのか、奥さんはそれ以上何も言ってこなかった。
当たり障りのない話題が俺以外の家族三人だけで交わされる。
食事が終わるタイミングでちょうどよく、外の吹雪が止んだことをいいことに、そそくさと食事の礼を言い、クエスト屋一階へ降りる。
暖炉の傍で、遭難者の仲間が、静かに看病しているのを横目で見てから、玄関からそっと外に出た。
防寒具は所長宅にいる間に乾かさせてもらった。腹もいっぱいだ。家に帰る前に、近くの林を探そう。
歩き出そうとしたとき、背後で扉が軋む音がした。
振り返ると、クエスト屋受付が防寒具なしで立っている。
「オズワルドさん」
受付は、俺に走り寄って抱きついた。
動けずに、されるがままに突っ立っているしかない。
暫くそのままでいたが、また雪が降り始める。
「もし、押しかけているのが私でも、ご迷惑でしょうか?」
意味がわからず、返事ができない。それでも、何か返事をせねばならないようだ。
「俺ぁ、もう身内はいらない。ただそれだけで、相手が誰であっても同じです」
「私、ずっと待ってたのに、何故です?」
何を待っていたのか、何が何故だろうか。
「私、今からオズワルドさんの家に行きたい」
「悪いが、ぽこを探させてください」
もしかしてとは思うが、それなら態度をはっきりせねばならず、受付の肩を掴んで引きはがした。
ぽこより肉厚で、柔らかい。女のいい匂いがする。
うなじに垂れたおくれ毛のその先を想像させる。
確かに、受付はいい女になった。
「私のどこが駄目でしょうか?」
首を振って否定する。
「すまないが、先刻言ったのが全てだ。俺はぽこもまだ待たせたままだ。いつまで待たせるかわからない。あいつがウマいこと隙間にねじり込んで来ているだけで、俺はそれだけで手一杯だ」
受付は、上目遣いで俺を見上げた。
「直すところがあれば直します。私にもチャンスをください」
「受付さん――」
「エミリアです。名前を呼んでください」
弱り切って、首巻を外して、受付に巻き直す。
「受付さん。あなたは美しい。俺には手に余ります」
甲斐性なしだ。
そんなもんいらない。
今はぽこを探したい。
あんな別れ方は嫌だった。
今日何度となく思ったことを再度思う。
そのまま踵を返し、自宅への道をぽこを探しながら歩いた。





