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たぬきの嫁入り2  作者: 藍色 紺
第6章 葉っぱの置手紙
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54話 ぽこのいない仕事②

 犬が騒ぐ場所には、帽子が落ちていた。

 帽子を拾うと、上に積もっていた僅かな雪が落ちる。


 雪が積もっていてわかりにくいが、確かこの先には窪地があったはずだ。

 雪が割れ落ちた跡に注意して、落下せぬよう下を覗き込む。

 そこには小さな男が雪に埋もれていた。


「見つかったぞーー!」


 俺の声に、ウシュエとクエスト屋所長が駆け寄ってくる。

 犬に合図して、降りる場所を探し、回り込んだ。

 身体を揺すり、頬を叩くと、男はうっすらと目を開けた。


 ソリに乗せて上にあげる。三人で大急ぎでインマーグの街へと遭難者を連れ帰った。



  ❄



 クエスト屋に着く頃には、再び風が強くなってきた。

 空から雪が降るだけでなく、新しく積もった雪が舞い上がり、視界が奪われる。


「ベテランさん、医者を呼んでくれ」


 離脱してインマーグに一人しかいない医者と一緒にクエスト屋に帰った。

 ソリから降ろされた遭難者の濡れた着衣が脱がされたところだった。

 肌の色が悪い。

 医者がてきぱきと処置を指示し、クエスト屋の娘が言われた物を揃えて対応する。

 ウシュエはクエスト屋所長から、早々に報酬を貰って帰ったらしい。


 結局ぽこは見つからなかった。


 雪を払っていなかったのを思い出して、手で払うが、既に溶けた後だった。

 手が濡れ、短い前髪から雫が落ちる。

 ぼんやり医者の処置を眺める。


 どうやら指数本を失うようだが、それでも命があるだけマシだと医者は言った。


 マシ――?


「ベテランさん、報酬だ」


 クエスト屋所長に呼ばれて、覚醒した。

 手渡された大金貨一枚を見て、処置が終わって寝たままの遭難者をまた見る。

 意識的ではなく、ただぼんやりと見てしまう。


 どうしたって、ぽこのことを考えてしまう。

 目の前の遭難者とイメージが被ると、喉を締められたように苦しい。

 ゆっくり深く息を吐き、吸うのを繰り返す。


 インマーグでは、どうしたって遭難者が出る。だから、こんな光景には慣れているはずだ。

 それなのにこうもダメージがでかいのは、目の前の遭難者とぽこに隔たりがあるってことだ。


 遭難者を発見して緊迫感が緩み、部屋の暖かさに茫然としちまった。

 そういうことにしておこう。

 ぽこだったら、なんて考えないでおこう。


 いつの間にか、遭難者の仲間の男四人が駆け付けていた。

 命令した貴族らしきやつはいない。当然といえば当然か。

 医者から予測される経過と看病方法を教えて貰っている。


 クエスト屋受付が、所長と俺に大きな杯を手渡してくれた。

 それで、俺の隣にクエスト屋所長がいたと気づいた。

 中には、温めた赤ワインが入っている。


 果物と香辛料を入れた甘いホットワイン……。

 甘い酒は俺の好みではないが、ここ最近は口にする機会が多かった。


「あの……。ベテランさん?」


 柔らかい声に呼ばれ、無意識に顔を合わせる。

 クエスト屋の受付だった。

 ホットワインを持って来たままで俺を見ていたらしい。


「お食事でもいかがですか?」


 食事?

 家の暖炉にかかった鍋を思い出す。


 冷えてしまい、脂が浮いたスープは、いつもと同じように作っているのに、味気ない。

 だが、家に帰らねば、ぽこを探せない。


「いや、それには及ばな」

「食ってけ!」


 クエスト屋所長のだみ声が響く。


「いいか? これは所長命令だ」


 十年前、大怪我した俺に治癒術を受けさせてくれ、体力が回復するまで家に置いてくれた。

 仕事する気も起きずに、弱り切った俺にクエストと称した雑用を割り振って、ベテランさんの土台を作ってくれたのもクエスト屋所長だ。

 あの時、何度も所長命令を喰らった。

 命令でなければ、動けなかったからだ。


「では、お邪魔します」


 ちっとは俺も成長したのか、霞でもかかったような頭がすっきりする。



 そのまま、クエスト屋二階の所長のお宅へお邪魔した。

 所長の奥さんに挨拶し、所長から酒を勧められたが断る。


「仕事終わりに飲まないとは珍しい」


「ホットワインを頂きましたから」


 酔っ払うわけにはいかない。

 帰ったらすることがある。


 久しぶりの奥さんの手料理は凝っていて懐かしかった。

 あの時と違うのは、台所で料理するのが奥さんだけでないことだ。

 クエスト屋受付は、あの頃はまだ恥ずかしがりやの少女だった。

 この家に世話になっている間に、この辺りの少年少女たちが冒険と称したピクニックに出て、遭難したことがある。そう、今回のように雪の中の救出だった。

 あれは方々探して苦労させられた。それ以来だ、この家に犬が飼われるようになったのは。

 あの時は、運良く俺が見つけることができた。


それが、今や所長である父親が奥から睨みを利かさずとも、冒険者をうまく捌いている。

 立派になったもんだ。


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