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序章 暁の別離

王国歴842年。

世界は、音もなく、しかし抗いがたい力に引かれるように、緩やかな終焉へとその歩みを進めていた。まるで巨大な砂時計の砂が静かに落ちていくように、避けられない終わりが近づいていた。

始まりは、いつだったのか。どこから狂い始めたのか。正確な記録は失われ、人々の記憶もまた、日々の絶望の中で摩耗していた。ただ、『厄災』と呼ばれるようになった、理解を超えた現象だけが、否定しようのない現実として、かつて生命に満ちていた大地を蹂躙じゅうりんし続けていた。


前触れもなく、豊かな緑は毒々しい紫や灰色へと変色し、生命を拒絶する魔素溜まりへと変貌した。土は生気を失い、風に吹かれては不毛の塵を撒き散らす。草木は苦悶に身を捩るかのように奇怪な形に捻じ曲がり、かつて清らかな水を湛え、人々の喉を潤した小川や湖は、紫色の粘液を不気味な泡と共に湧き上がらせる、悪臭漂う淀みと化していた。空を見上げれば、常に鉛色の重苦しい光。希望という名の色彩は、この世界から急速に失われつつあった。

それだけではない。時空の連続性が綻び、歪んだ裂け目からは、まるで人々の抱く底なしの恐怖そのものが形を得たかのような、異形の魔物が這い出した。常識を嘲笑うかのような異様な姿、予測不能な凶暴性。それらは現実の風景を歪め、遭遇した者の正気を容赦なく蝕んでいった。忘れ去られたはずの古代遺跡は、不気味な共鳴を始め、未知のエネルギーが空気を震わせる。目に見えぬ呪いが瘴気のように漂い、触れた者の精神を蝕み、幻覚と狂気へと誘う。それは、緩慢でありながら、確実に世界を蝕む、悪性の腫瘍のようだった。


かつて、交易のキャラバンが陽気な歌声と共に砂塵を上げ、異なる文化と富を運び合った街道は、見る影もなかった。今は、飢えた魔物と、そして絶望が生み出した人間――倫理観を捨て去った盗賊や、破滅を望む狂信者たちが跋扈する、死と隣り合わせの道へと変わり果てていた。夜のとばりが下りれば、都市に住む人々は震えながら扉に幾重ものかんぬきをかけ、窓という窓を固く閉ざし、壁一枚隔てた外の闇に潜む名状しがたい恐怖に息を潜めるしかなかった。隣人は隣人を疑い、かつて友邦であったはずの国々は、互いに猜疑心を募らせ、痩せ細った資源を巡っては国境線での小競り合いが絶えなかった。東方の帝国連合と西方の王国同盟の間には、深い亀裂が走り、全面戦争の危機が現実味を帯びていた。各地で燻る紛争の火種は、混沌を己の好機と見た者たち――力を渇望する野心家、復讐に燃える亡国の民、あるいはただ混乱そのものを楽しむ破壊主義者たち――によって巧みに煽られ、今にも世界を焼き尽くす大戦の業火へと燃え広がる寸前だった。


為政者たちの無策ぶり、あるいは無能ぶりは、人々の絶望をさらに深いものにした。中央の腐敗は組織の末端まで蔓延し、法の支配は揺らぎ、治安は底なし沼のように悪化の一途を辿る。税は重くなる一方でありながら、人々の安全や生活を守るための施策は、何一つとして実行されない。誰もが、ただ今日一日を無事に生き延びることだけを、心の底から切実に願っていた。


だが、そんな絶望の時代にあっても、なお、抗う者たちがいた。

冒険者。

特定の国家に忠誠を誓わず、ギルドという緩やかな、しかし強固な繋がりの中で生きる彼らは、依頼を受け、あるいは自らの意志で、世界を蝕む脅威へと果敢に立ち向かう。魔物を討伐し、呪いを解き、失われた物資を運び、時には腐敗した権力にさえ挑む。その一つ一つの活動は、吹きすさぶ絶望の嵐の中では、か細く小さな灯火に過ぎないのかもしれない。しかし、その無数の灯火が集まることで、かろうじて、崩壊しかけた世界の秩序を繋ぎ止める、細く、しかし強靭な糸となっていた。


そして、その冒険者たちの中でも、ギルドが最高の実力と数多の功績を持つ者にのみ与える称号、Sランク。それは単なる階級ではない。生ける伝説であり、数えるほどの英雄だけが許された、この灰色の世界における、最後の、そして最も眩しい希望の象徴そのものだった。


ヨシツネ。


その名は、この絶望の時代において、最も強く、最も輝かしい星の一つとして、人々の間で囁かれていた。彼が率いる精鋭パーティ『暁の翼』。リーダーであるヨシツネを含めても、そのメンバーはわずか十四名。しかし、彼らがこれまで打ち立ててきた功績は、常識では考えられない不可能を幾度となく覆し、絶望的な戦況を奇跡のように覆し、打ち砕かれた人々の心に再び希望の灯をともしてきた、まさに伝説そのものだった。


人々は『暁の翼』の、まるで一つの生命体であるかのような奇跡的な連携と、いかなる困難にも決して屈しない不屈の精神を熱狂的に讃えた。吟遊詩人は彼らの英雄譚を歌い、酒場の喧騒の中でその武勇伝は繰り返し語られ、子供たちは目を輝かせてその物語に聞き入った。だが、その目覚ましい成功の大部分が、リーダーであるヨシツネただ一人の、常軌を逸した能力によって支えられていたという真実を、正確に理解している者は、彼ら自身の仲間たちでさえ、驚くほど少なかったのかもしれない。


ヨシツネは、万能という言葉すら陳腐に聞こえるほどの存在だった。剣を取れば、その剣閃は神速を超え、達人級の剣士でさえ目で追うことすらできぬ間に、敵の反応を許さず勝敗を決する。杖を握れば、古代語で綴られた複雑怪奇な魔法の真理を、まるで掌の紋様を読むかのように容易く読み解き、現代の最高位の魔術師でも再現不可能な奇跡を起こす。その知識は現代の学術体系を遥かに凌駕し、失われたはずの古代文明の超技術さえ、まるで玩具を組み立てるかのように、こともなげに再現してみせる。軍略、政略、経済学、心理学、建築学、医学、錬金術…あらゆる分野において、他の誰の追随も許さない、まさに天啓とも言うべき才を発揮した。まるで、この世界の設計図そのものが、彼の魂の最も深い部分に、生まれた時から深く刻まれているかのようだった。


しかし、これほどの途方もない力と知性を持ちながら、ヨシツネという青年は、決して傲慢ではなかった。周りからは、あまり感情を表に出さないように見えるかもしれない。彼の思考は常に冷静で、いかなる状況でも最善の方法を導き出そうと努めている。だが、その根底には、仲間や他者を深く思いやる心があった。物腰は常に柔らかく、仲間一人ひとりの能力や個性、その時々の心の機微や体調の変化に至るまで正確に把握し、深い配慮を欠かさなかった。その圧倒的な能力と、穏やかで仲間思いの人柄が、彼のカリスマ性を形作り、仲間たちの絶対的な信頼と、ある種の畏敬の念を集めていた。


「――バルガス、頼むよ。君のその屈強さと揺るがぬ精神こそが、僕たちの生命線なんだ。前衛を維持して、敵のヘイトを可能な限り集中させてほしい。衝撃吸収のための防御スキルを発動するタイミングは、僕の合図に合わせてもらえるかな? 君のその強さと、仲間を守りたいっていう強い気持ちがあれば、きっと大丈夫だって信じてるよ」彼の声は静かだが、歴戦の重戦士であるバルガスの闘志を的確に、そして優しく鼓舞する。彼はバルガスの持つ限界点と、それを超えるための心理的トリガーを正確に理解していた。


「――リリア、いつもありがとう。バルガスの状態を常にモニターして、守護の祝福を最適なタイミングで。タイミングは…そうだね、敵があの独特の予備動作…右肩の筋肉が微かに収縮する、その直前だ。君の精霊の声が、きっとその瞬間を教えてくれるはずだよ。君の持つ、その稀有な直感を信じて」彼は、彼女の持つ精霊との交感能力という特殊な才能と、彼女自身も気づいていないかもしれない繊細な直感を深く信頼し、自身の複雑な戦術へと巧みに組み込む。彼女の瞳には、ヨシツネへの深い尊敬と、少しだけ憧れにも似た光が宿っているようにも見えた。


「――カイン、記録の準備はいいかな? この戦いも、そろそろ収束するだろう。君が紡ぐ物語が、この困難な時代を生きる多くの人々に勇気と希望を与える。だからこそ、最も効果的な、劇的な場面を提供したいんだ。少し…いや、かなり派手に見えるかもしれないけどね。後で笑わないでくれると嬉しいな」彼は、記録者としてのカインの役割の重要性を深く理解し、その効果を最大化するための演出まで、冷静な計算の中に入れる。彼は常に、あらゆる状況における最適解を、多角的な視点から求めていたが、それは仲間たちの貢献を輝かせたいという想いもあってのことだった。


薄暗く、かびと魔力の澱んだ残滓が混じり合った重い空気が澱む古代ダンジョンの最深部。壁には苔がびっしりと生え、天井からは時折、水滴が滴り落ちる音が、不気味な静寂を破っていた。広間の中心で、悠久の時を経て膨大な魔力を蓄積した巨大な魔石ゴーレムが、地軸を揺るがすかのような轟音と共に、その巨体をゆっくりと動かした。高さは優に十メートルを超え、全身が鈍く黒曜石のような光を放つ未知の魔石で構成されている。その圧倒的な質量と、周囲の空間を歪ませるほどの強大な魔力は、並の熟練冒険者パーティであれば、恐怖に足がすくみ、戦意を喪失してしまうだろう。


しかし、その絶望的なまでの脅威を前にしても、ヨシツネの声はあくまで穏やかだった。彼は迫りくる破壊の化身を冷静に見据え、まるで複雑な多次元チェスの盤面を読むように、瞬時に戦況を分析し、仲間たちに的確な指示を、静かに、しかし淀みなく飛ばしていく。彼の脳内では、ゴーレムの行動パターン、予測される攻撃とその威力、周囲の地形、仲間たちの現在位置、残り魔力、精神的疲労度、そして最適な反撃のタイミングが、高速で演算処理されていた。仲間たちの安全を確保し、この脅威を排除するための最善手を探していた。


「オオォォォ!! 任せろォ、ヨシツネェ!! 俺がいる限り、一歩も退かせん!!」

パーティの不動の盾、重戦士バルガスが雄叫びを上げる。身長ほどもある巨大なタワーシールドを大地に突き立て、家屋ほどの大きさがあるゴーレムの拳を、全身全霊で受け止めた。

ゴォンッ!!

凄まじい衝撃音と共に大地が砕け散り、衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。しかし、バルガスは鋼の意志で歯を食いしばり、足元の地面が陥没しようとも、決して一歩も引かなかった。彼の腕は痺れ、全身の骨がきしむ音を立てている。それでも、彼は仲間を守るという一点のみに意識を集中させていた。ヨシツネの指示通り、彼は完璧なタイミングで防御スキルを発動し、致命的なダメージを回避していた。


その瞬間、精霊術師リリアの唇から、古の言葉が透き通るような声で紡がれる。彼女の周囲に、翠色の、淡い光を放つ精霊たちが舞い集い、その力をバルガスへと送り込む。優しい光がバルガスの全身を包み込み、打ち砕かれたはずの骨を繋ぎ、傷を癒し、彼の限界を超えた防御力をさらに高めた。「バルガスさん、もう少し…!」彼女の瞳にはバルガスへの心配と、必ず守り抜くという強い意志が宿っていた。ヨシツネが指摘したゴーレムの予備動作を、彼女の精霊は確かに捉え、最適なタイミングでの支援を可能にしていた。


「――エルザ、今だ! コアを狙って!」

ヨシツネの短い、しかし完璧なタイミングでの指示。弓使いのエルザが、風のようにしなやかな動きで矢を番える。彼女の金色の髪が汗で額に張り付き、呼吸は荒いが、その瞳は極限まで高められた集中力で、一点を見据えていた。放たれた矢は鋭い風切り音と共に、ゴーレムの胸部で明滅する紅い魔力コアへと、吸い込まれるように飛翔する。寸分の狂いもなく、コアの最も脆弱な部分――ヨシツネが事前に解析し、伝えていた微細な亀裂のポイント――を正確に射抜いた!

ギャリリ、と金属を無理やり引き裂くような嫌な音を立て、ゴーレムの動きが一瞬、明らかに硬直する。


その千載一遇の隙を見逃さなかったのが、影に生きる盗賊のジンだ。彼はまるで存在しないかのように影から影へと疾走し、煙のようにゴーレムの巨大な脚部の背後へと回り込む。その手に握られた特殊合金製の短剣が、魔石の装甲の僅かな隙間、関節部へと深々と突き立てられた。火花が散り、内部の動力伝達機構が断ち切られる鈍い音が響く。巨体はバランスを崩し、大きくよろめいた。「…まだだ!」ジンは即座に次の弱点を狙うべく体勢を立て直す。


他のメンバーも一斉に攻撃を開始した。魔法使いはゴーレムの弱点属性である雷魔法を立て続けに詠唱し、蒼白い稲妻が巨体に叩きつけられる。剣士たちは関節部の隙間から内部回路へと剣をねじ込もうと必死に食らいつく。それは、幾多の死線を共に乗り越えてきた『暁の翼』ならではの、息の合った、完璧な連携プレーだった。一人ひとりが自分の役割を理解し、仲間を信頼し、そしてヨシツネの的確な指示の下で、全力を尽くしていた。


だが、相手は古代の超兵器。その驚異的な再生能力は、彼らの想像を遥かに超えていた。致命傷を与えたはずのコアも、破壊された関節も、不気味な魔力の光と共に、瞬く間に修復されてしまう。戦闘は次第に膠着状態に陥り始めた。メンバーたちの額には玉のような汗が滲み、呼吸も次第に荒くなり、集中力にも翳りが見え始めていた。バルガスの盾にはさらに深い亀裂が入り、リリアの魔力も枯渇寸前だった。彼らの表情に焦りと、わずかな絶望の色が浮かび始める。このままでは、消耗戦の末に全滅する可能性すら見えてきた。


「……潮時かな」

ヨシツネは小さく呟いた。彼の脳内では、戦況、メンバーの疲労度、精神状態、ゴーレムの再生パターンとエネルギー残量、ダンジョンの構造的安定性、そしてこの戦闘を続けることによる時間的損失と、他の進行中の『厄災』への影響…膨大なパラメータが瞬時に計算され、最も合理的な結論が導き出されていた。これ以上の戦闘継続は、パーティ全体の生存確率を低下させ、長期的な目標達成の観点からも非効率である、と。だが、それ以上に、彼は仲間たちがこれ以上傷つくのを見たくなかった。彼はゆっくりと右手を掲げた。

その瞬間、ダンジョンの空気が張り詰めた。彼を中心に、周囲の空間から、まるでブラックホールに吸い込まれるかのように、膨大な魔力が渦を巻きながら集束し始める。空気が圧力を伴って震え、床に散らばっていた小石がカタカタと音を立てて宙に浮き上がる。ダンジョン全体が、彼の放つ圧倒的な魔力に耐えきれず、呻き声を上げたかのようだった。


仲間たちは、反射的に攻撃の手を止め、後退した。言葉はなくとも理解していた。ヨシツネが、その真の力の一端を解放しようとしていることを。それはいつも、戦いの終わりを意味すると同時に、自分たちの存在意義が揺らぐ瞬間でもあった。彼らは、リーダーに対する絶対的な尊敬と、畏敬の念、そして、言葉にできないほんの少しの寂しさと、自分たちの無力さを感じながら、その瞬間を、固唾を飲んで見守るしかなかった。(自分たちがもっと強ければ、ヨシツネはこんな力を使わなくてもいいのに…)そんな思いが、彼らの胸を締め付けていた。


<…カインの記録速度、物語としての劇的効果、そしてメンバーへの心理的影響…特に、最近彼らが僕に対して抱いているであろう、複雑な感情の揺らぎを考慮すると…この術式、この詠唱時間、そしてこの魔法名が、現時点での最適解だろう。仲間たちを守るためにも、ここで終わらせる…!>

彼の思考は、コンマ数秒で、戦闘効果だけでなく、仲間たちの感情や、その後の物語としての波及効果まで含めた、多角的な最適化計算を完了していた。彼は、仲間を守るという強い意志を胸に、自らが演じる「英雄ヨシツネ」の役割を、冷静に、しかし覚悟を持って遂行しようとしていた。


「九層の地獄にて眠る原初の炎よ。万物を焼き尽くす冥府の息吹よ。我が呼び声に応え、今、此岸に顕現し、目の前の愚かなる模造品を、塵芥へと還せ!――『煉獄爆炎弾ヘルフレイム・ノヴァ』!!」


記録者カインが、驚きと興奮で手が震えながらも必死にペンを走らせるのに十分な時間を稼ぎ、ヨシツネは力強く、そしてどこか、自らの力を解放することへの微かな痛みすら感じさせるような響きで魔法名を宣言した。彼の掲げた掌から放たれたのは、凝縮された太陽、あるいは地獄の釜そのものがこの世に顕現したかのような、灼熱のエネルギー球体だった。空間を焦がし、歪ませながらゴーレムへと迫り、そして、着弾した瞬間――


視界が、白一色に染まった。


轟音と共に全てを飲み込む大爆発が引き起こされ、熱波と衝撃波がダンジョン全体を吹き荒れる。仲間たちは咄嗟に身を伏せ、あるいは残った魔力を振り絞って防御魔法を展開し、その圧倒的な余波に耐えた。


やがて、眩い光と耳をつんざく轟音が収まり、舞い上がった粉塵がゆっくりと晴れていくと、そこには信じられない光景が広がっていた。あれほど頑強で、彼らを絶望の淵まで追い詰めた魔石の巨体は、文字通り、跡形もなく消滅していたのだ。残されたのは、高熱で溶け、ガラス状になった岩肌と、立ち込める灼熱の空気、そして硫黄のような焦げ付く匂いだけだった。


「……やった! さすがだ、ヨシツネ!」

「今回も…助かりました、ヨシツネさん!」


仲間たちの安堵と称賛の声が、まだ熱気を帯びた広間に響く。ヨシツネは陽炎の向こうで静かに頷き、しかし勝利の余韻に浸る間もなく、間髪入れずに次の指示を出す。


「まだ油断はできない。全員、周囲の警戒を怠らないで。ゴーレムの残存エネルギーが暴走する可能性、隠れていた同種の個体、あるいは別のトラップが起動する可能性も考えられる。常に最悪のシナリオを想定し、備えること。それが、僕たちが生きて還る確率を最大化する唯一の方法だ」


彼は常にそうだった。仲間たちの安全を何よりも最優先し、最も危険な矢面に自ら立ち、その圧倒的な力で脅威を排除する。敵が強大であればあるほど、その力は顕著になった。物理的な脅威だけでなく、精神を蝕む怪異や、解呪不能とされる古代の呪いに対しても、仲間たちが影響を受ける前に、その根源を的確に見抜き、断ち切ってきた。

それでいて、彼は決して仲間たちの功績を奪うことはなかった。状況が許せば、とどめの一撃を仲間に譲り、彼らの得意な戦術が最も効果を発揮するような状況を、まるで偶然であるかのように、しかし計算され尽くした形で作り出す。任務の報酬も、彼の貢献度が圧倒的に高いにも関わらず、常に公平に分配した。それは、単なる優しさというよりは、パーティという組織の結束力を高め、長期的な活動効率を最大化するための、彼なりのマネジメントであり、そして仲間を大切に思う彼の心の表れでもあった。


そんなヨシツネを、仲間たちは心の底から尊敬し、感謝していた。彼の存在なくして、自分たちがこの過酷な世界で生きていられるはずがない。彼の圧倒的な強さと、その根底にある揺るぎない優しさが、この絶望的な世界で戦い続けるための、何よりの支えとなっていた。彼の広い背中を見ていれば、どんな困難も乗り越えられる。彼らは、そう信じていた。


しかし、同時に、彼らの心の中には、別の感情が、静かに、しかし確実に育つ毒草のように、根を張り始めていた。世界の危機は日増しに深刻化し、『厄災』の規模は拡大の一途を辿り、魔物はより凶暴化し、悪政は蔓延り、国家間の対立は一触即発の状態が続いていた。

自分たちが一つのダンジョンを攻略し、一つの村を救っている、まさにその間にも、世界のどこかでは、もっと多くの人々が苦しみ、もっと大きな悲劇が、止めどなく進行しているのかもしれない。


ヨシツネほどの力があれば。彼の持つ、一個人の範疇を遥かに超えた戦闘能力と、世界の理さえ解き明かすかのような知性があれば。もっと大きな規模で、世界そのものに直接働きかけ、真の救済をもたらすことができるのではないか? 自分たちのような、限定的な能力しか持たない者たちと共に、比較的小さな依頼をこなすことに貴重な時間を費やしているのは、彼の計り知れない可能性を、自分たちが、この『暁の翼』という小さな枠組みが、狭めてしまっているのではないか? いや、もっと踏み込んで言えば、彼の成長、ひいては世界の救済そのものに対する『足枷』に、自分たちがなってしまっているのではないだろうか……?


その疑念は、任務を重ね、ヨシツネの常軌を逸した力を目の当たりにするたびに、仲間たちの心の中で、無視できないほどの重さを持つようになっていった。彼の圧倒的な力を見るたびに、尊敬や感謝と共に、胸を締め付けるような罪悪感にも似た感情が、静かに湧き上がってくる。彼は、私たちと共にいるべき存在ではないのかもしれない。その力は、もっと大きな危機に対処するためにこそ使われるべきだ。だとすれば、我々が、彼のために、そしてこの世界のために、本当にすべきことは――一体何なのだろうか。


夜営の焚き火を囲みながら、あるいは任務帰りのギルドの酒場の喧騒から離れた片隅で、仲間たちは、ヨシツネのいない場所で、密やかに、そして互いの胸の内を抉るように、苦しい議論を重ねるようになった。


「…ヨシツネさんは優しすぎるんだ。俺たちのことを、決して見捨てられない。だからこそ…俺たちが、決断しなければならないんじゃないのか…?」バルガスは、いつもは仲間を鼓舞するその声で、重々しく切り出した。彼の大きな拳は、膝の上で固く握りしめられていた。


「……彼を、追放する…ですって…? そんなこと…彼は、私たちのリーダーであり、恩人であり、そして…大切な友人でしょう…? 彼を一人にしてしまうなんて…!」リリアは信じられないというように、涙を浮かべて反論した。彼女の隣に寄り添う精霊たちも、悲しげに光を揺らめかせている。(彼がいなくなったら、私は…)彼女の心によぎった個人的な寂しさは、言葉にはならなかった。


「友人だからこそだ!」ジンがテーブルを叩き、低い声で言い放った。その瞳には、苦悩と決意が入り混じった複雑な光が宿っていた。「あいつが、本来立つべき場所へ行けるように、俺たちが、その邪魔な鎖を断ち切ってやるんだよ! あいつは俺たちとは違う。もっとデカいことやるべき人間なんだ! 俺たちの感傷で、あいつの未来を潰すわけにはいかねぇ!」


「でも…私たちが彼にしてあげられるのは、本当にそれだけなのでしょうか…? 彼を一人にしてしまうことが、本当に彼のためになるのでしょうか…? 彼は…孤独に耐えられるのでしょうか…?」エルザは不安げに問いかける。彼女の心の中では、ヨシツネの時折見せる、人間離れした孤独の影が、気にかかっていた。


「合理的に考えろ、エルザ」記録者のカインが、いつもより硬い表情で、しかし冷静に言った。「ヨシツネさん自身が、もし僕たちの立場だったら、どう判断すると思う? 彼は常に、全体の最適化を考える。個人の感情よりも、大局的な利益を優先するだろう。僕たちが彼と共にいることが、世界の救済という最大の目標達成のボトルネックになっているとしたら…彼は、自ら離れることを選ばなくとも、僕たちがそう決断することを、論理的には理解するはずだ。それが、彼という存在なのだから」彼の声は冷静だったが、その瞳の奥には、友を切り捨てることへの深い苦悩が隠されていた。


誰もがヨシツネを心から尊敬し、慕っていた。彼と共に戦う日々は、危険に満ちていたが、それ以上に充実していた。言葉では言い表せない、かけがえのない絆があった。しかし、世界の危機的な現状と、彼の持つ規格外の力を天秤にかける時、彼らの思いは、残酷なまでに一つの方向へと収束していかざるを得なかった。それは、想像を絶するほど苦しく、辛い決断だった。仲間であるからこそ、彼の能力と、そして彼の優しすぎる性格を深く理解しているからこそ、下さなければならない、非情な選択。その決断に至るまでの、眠れない夜、交わされた涙ながらの議論、互いの覚悟の確認。それは、彼らの絆の強さ故の、悲劇的なプロセスだった。彼らは、自分たちが愛する英雄を、世界のために、そして彼自身のために、自らの手で突き放すという、矛盾に満ちた決断を下したのだ。


――――――――――


ある日の夕暮れ時。難度の高い魔獣討伐任務を終え、疲労の色を滲ませながらも、いつものように全員無事に王都のギルド支部へと帰還した『暁の翼』。王都の喧騒が、彼らの纏う泥と血の匂いとは対照的だった。いつものように、ギルドの一角にある談話室で、ヨシツネが仲間たちの労をねぎらい、持ち帰った戦利品の確認と、次の行動計画について話し合おうとした、その時だった。


「みんな、本当にお疲れ様。今回も厳しい戦いだったけど、君たちのおかげで乗り切ることができた。戦闘データは後でまとめて、次の戦術改善に活かそう。ドロップした素材の分配については…」

ヨシツネが、タブレット型の魔道具に目を落としながら、いつもと変わらない穏やかな口調で切り出そうとした瞬間。


パーティのサブリーダーであり、誰よりもヨシツネを慕っていたはずの重戦士バルガスが、深く、重い息を吐き出し、意を決したように口を開いた。

「ヨシツネさん。……少し、話がある」


その場の空気が、一瞬で氷のように張り詰めた。バルガスの声は低く、わずかに震え、尋常ではない響きを帯びていた。他の仲間たちの表情も、明らかにいつもと違う。リリアは俯き、唇を噛み締め、その肩は小刻みに震えている。エルザは蒼白な顔でテーブルの縁を、指が白くなるほど強く握りしめている。ジンは硬い表情で虚空を見つめ、まるでそこにいないかのように気配を消している。カインはペンを持つ手を止め、悲痛な面持ちでバルガスを見守っていた。談話室のざわめきが、まるで遠い世界の出来事のように聞こえる。壁にかかった古時計の、カチ、カチ、という秒針の音だけが、やけに大きく響いた。


ヨシツネは、その尋常でない雰囲気を即座に察知し、魔道具から顔を上げた。彼の黒曜石のような深い瞳が、ゆっくりとメンバー一人ひとりの顔へと移される。彼の脳内では、彼らの表情、姿勢、微細な筋肉の動き、呼吸のリズム、そして場の空気の微妙な変化から、彼らが下したであろう結論の可能性が、いくつかのパターンとして瞬時に計算され、絞り込まれていく。

「どうしたんだい、バルガス? みんなも、何か神妙な顔をしているみたいだけど。何か問題でもあったかな? 僕の指揮に、何か不手際でもあっただろうか?」彼の声は穏やかだったが、その瞳の奥には、状況を正確に読み取ろうとする鋭い光が宿っていた。そして、わずかに、彼自身の予測モデルにも、これまで経験したことのない種類の、不確定要素が入り込んでいることを感じていた。胸がざわつくような、今まで感じたことのない不安が、彼の冷静な思考の隙間に忍び寄るようだった。


バルガスはゴクリと喉を鳴らし、傍らに立つ仲間たちの顔を見渡した。彼らの瞳には、深い悲しみと、苦悩と、そして後戻りはできないという、揺るぎない、悲壮なまでの決意の色が浮かんでいる。無言の同意が、重苦しい空気の中で交わされる。バルガスは覚悟を決めたように、再びヨシツネに向き直った。震える声を必死に抑えながら、しかし、一言一句、はっきりと、まるで自分自身に宣告するかのように告げた。


「俺たちは……『暁の翼』は、今日をもって、君を――ヨシツネを、パーティから追放することに決めた」


「…………!」


その言葉は、予期せぬ雷鳴のように、談話室の静寂を打ち破った。

ヨシツネ以外の全員が息を呑む。言葉を発したバルガス自身も、その言葉の途方もない重みに耐えかねるように、顔面が蒼白になっている。リリアは嗚咽を漏らし始め、エルザの目からは大粒の涙が止めどなく溢れ落ちた。ジンは壁に背をもたせ、苦々しげに顔を歪め、カインはペンを握りしめたまま、唇を噛み締めていた。


しかし、ヨシツネだけは違った。

一瞬、本当にほんの一瞬だけ、彼の瞳に深い動揺と痛みが走った――まるで、彼の完璧な予測モデルが、計算外の衝撃によって崩壊しかけたかのように。世界が、一瞬、色を失ったように感じられた。だが、それもすぐに、彼の強靭な精神力によって押し込められた。彼は、まるで複雑なパズルの最後のピースがはまる瞬間を目撃したかのように、静かに、そして深く納得したような表情で…いや、そう見えるように必死で努めながら、その宣告を受け止めていた。仲間たちの思考プロセス、彼らが抱えていた葛藤、彼らを苛む罪悪感、そしてその根底にあるであろう論理を、彼は瞬時に理解してしまったのだ。彼の高速な思考は、この結論に至るまでの彼らの苦悩と、この決断が彼らにとってどれほど辛いものであるかを、正確に計算してしまっていた。それが、彼をさらに深く傷つけた。


「……そうか」

ヨシツネの声は、驚くほど穏やかだった。内心の嵐を必死で抑え込み、怒りも、悲しみも、失望の色さえも表に出さないように。ただ、静かな、全てを受け入れるかのような受容を装うだけだった。その反応は、彼の超人的な自己制御能力を示すものであると同時に、どこか、人間的な感情から切り離されたような、深い孤独をも感じさせた。

「…理由を、聞かせてもらえるかな?」


「俺たちは…ただの冒険者だ」バルガスは、胸の奥から絞り出すように、苦しげに言葉を紡ぐ。「自分たちの手の届く範囲で、少しでも世界を良くしたいと思って、ここまでやってきた。だが、ヨシツネ、君だけは違う。君の力、君の知性、君のその思考そのものが、俺たち人間の理解と能力を、遥かに、遥かに超えているんだ! 君は、こんな小さな水たまりで泳ぐべき存在じゃない!」


弓使いのエルザが、唇を震わせながら、涙声で続けた。「あなたには…私たちには想像もできないような、もっと多くの人々を救い、この歪んだ世界を変革する力があるはずです。それなのに、あなたは私たちという…あまりにも小さな、取るに足らない枠組みの中に留まっている。それは…あなたが持って生まれた、その途方もない力に対する、ある種の『責任放棄』なのではないかと…私たちは、そう、思わざるを得なかったんです…! ごめんなさい…! 本当にごめんなさい…!」


精霊術師のリリアが、溢れ出す涙を隠そうともせず、嗚咽混じりに訴える。「世界には、きっと、ヨシツネさんでなければ対処できないような『厄災』が、もっともっと、たくさんあるはずなんです! あなたは、そこへ…行くべきなんです! 私たちが…あなたの無限の可能性を、これ以上、縛り付けていては…絶対に、いけないんです…! だから…だから…うぅ…」彼女はヨシツネの顔をまともに見ることができなかった。


盗賊のジンが、握りしめた拳を震わせながら、吐き出すように言った。「あんたはいつも最適解を求め、効率を重視する! まるで、感情なんて余計なノイズを完全に排した、高性能な機械のようだ! その『最適化されすぎた思考』故に、あんたは、守るべき仲間への配慮や、俺たちが勝手に押し付けている感傷のために、あんたが本来成し遂げるべき、もっと大きな『世界の最適化』という本当の使命から、目を逸らしているんじゃねえのか…!? 俺たちは…そう結論付けたんだ! 悪く思うなよ…これは、あんたのためでもあるんだ…」


彼らの言葉の裏にある、ヨシツネへの深い敬意と、世界の危機に対する真摯な憂慮、そして彼を縛り付けているかもしれないという、耐え難い罪悪感。それら全てが、彼には痛いほど伝わっていた。彼らは、ヨシツネを憎んでいるのではない。むしろ逆だ。彼の桁外れの才能を、このちっぽけなパーティという檻に閉じ込めておくことへの罪悪感と、彼が本来果たすべき使命へと彼を解き放ちたいという、悲痛なまでの願い。それが、この『追放』という名の、残酷な『解放』を決断させたのだ。


<…そうか。彼らは、そこまで考えていたんだね。彼らの苦悩も、世界の歪みも、そして僕という存在の特異性も…すべて織り込み済みで、この結論に至った、か。確かに、彼らの指摘は、論理的には的を射ている。僕の思考は、常に効率と最適化を優先してきた。それは、時に人間的な感情や繋がりを軽視していると受け取られても仕方がないだろう。僕という存在が、結果的に彼らをここまで追い詰め、このような苦しい決断をさせてしまったのは、僕自身の導き方にも、問題があったということだろうな…あるいは、これは必然だったのかもしれない…僕が、彼らの隣に居続けることは、もう許されないんだな…>

ヨシツネは、静かに内省した。彼の思考は、溢れそうになる感傷を必死で抑え、あくまで状況分析と自己評価に向けられていた。胸の奥が、冷たく軋むような痛みを感じていた。


「…分かったよ」

しばしの沈黙の後、ヨシツネは、静かに、しかし揺るぎない意志を持って告げた。内心の動揺を、声に乗せないように細心の注意を払いながら。

「君たちの覚悟は、確かに受け止めた。君たちの指摘には、反論の余地もない。君たちの決断を、尊重する」


彼の、あまりにも冷静な、まるで他人事のような受容の言葉に、仲間たちは逆に動揺を隠せなかった。もっと取り乱したり、怒りを露わにしたり、あるいは悲しんでくれるのではないかと、心のどこかで思っていたからだ。彼の深すぎる理解が、かえって彼らの胸を締め付け、自分たちが今、犯そうとしている行為の残酷さを際立たせた。


「ヨシツネ…すまない…本当に…すまない…ッ!! こんなことしか、俺たちにはできなかった…! 君のためにも、世界のためにも、これしか思いつかなかったんだ…! 許してくれ…!」

バルガスが、堪えきれずに大粒の涙を流しながら声を絞り出す。他の仲間たちも、俯き、唇を噛み締め、あるいは静かに涙を流していた。談話室の喧騒の中、彼らの周りだけが、悲しみと罪悪感の重い沈黙に包まれていた。


「いや、謝る必要はないよ、バルガス」ヨシツネの声は、どこまでも穏やかだった。彼はバルガスに歩み寄り、その巨大な肩を、労わるように、しかししっかりと叩いた。「むしろ、僕の方が感謝すべきなのかもしれないね。君たちは、僕が進むべき、新たな道を示唆してくれたのだから。君たちの、その勇気ある、そして苦渋に満ちた決断に、心からの敬意を表したいと思う」


ヨシツネは、穏やかな、どこか全てを達観したかのような、不思議な笑みを浮かべていた。その表情には、仲間たちへの恨みや失望など微塵も感じさせない、どこまでも澄み切った静謐さが漂っていた。それは、彼らが知るヨシツネの笑顔とは、どこか違う、人間味とは少し離れた、深い寂寥感を伴う笑顔のようにも見えた。それは、彼がこれから歩むであろう、孤独な道の始まりを予感させる笑顔だったのかもしれない。


「達者で。君たちのこれからの活躍を、期待しているよ。これからの『暁の翼』を、陰ながら応援している」


そう言い残し、ヨシツネは静かに踵を返し、談話室を後にした。彼の背中は、いつもと変わらず、落ち着き払い、揺るぎなく見えた。まるで、ほんの少し散歩にでも出かけるかのように、驚くほど軽やかに。彼は一度も、振り返ることはなかった。振り返ってしまえば、抑えていた感情が決壊してしまうかもしれない、と彼は恐れていた。


残された仲間たちは、英雄の…いや、かけがえのない友の背中が、ギルドの雑踏の中に完全に消えて見えなくなるまで、ただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。彼らは、世界のために、そしてヨシツネ自身のために、最善の選択をしたのだと、必死に信じようとしていた。だが、同時に、自分たちの手で、最も大切で、かけがえのない存在を遠ざけてしまったという、深く、そして決して癒えることのないであろう喪失感と、拭い去れない罪悪感に、打ちのめされていた。談話室の喧騒が徐々に戻り始めても、彼らの周りだけは、時間が止まったかのように、重い沈黙が支配し続けていた。カインの手から、記録用のペンが、力なく床に転がり落ちた。


英雄は、その翼が、あまりにも大きすぎたために、これまでいた小さな巣から、飛び立つことを余儀なくされた。

そして、世界もまた、彼という規格外の存在が解き放たれたことによって、否応なく、新たな、予測不能な局面へと突入していくことになるのであった。



【序章 用語解説】

※ 厄災: 原因不明の異常現象の総称。大地や生物の変異、魔物の凶暴化、時空の歪みなどを引き起こし、世界を緩やかな終焉へと導いているとされる。

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