幽霊に取り憑かれている青年は霊能事務所を訪れた
「ああ、見えてきました……最近の貴方の不幸の原因が……取り憑いている幽霊が……」
困ったような表情を浮かべて落ち着きなく椅子に座っている青年に向かい、霊能者を名乗る女性が目を閉じたまま厳かな口調でそう言った。
そのまま女性は見えたという幽霊の特徴を挙げていく。
「年老いた男性ですね……貴方と関わりのある……貴方がまだ子どもだった頃に亡くなっています……その方が貴方のことを心配するあまりに取り憑いてしまい、霊的なバランスが崩れたのでしょう……」
そしてこれこれこういうものがあれば除霊できる、一般的にはなかなか手に入らないので代わりにこちらで用意できる、このくらいの代金が必要である、というようなことを言った。
青年は財布を確認すると、少し足りないのでまた後日持ってきます、と言った。女性は穏やかに微笑み、お待ちしておりますと言った。
霊能者を名乗る女性の事務所を出た青年は思い切り伸びをすると、自分の後ろに話かけた。
「年老いた男性だってさ」
「私のどこが? なんにも見えてないじゃん!」
青年の背後では若い女性の幽霊がぷかぷかと浮かび、両手を振り上げて先ほどの霊能者に対して文句を言っていた。
青年はスマートフォンを取り出して先ほどの霊能事務所の紹介ページにアクセスすると最低評価を付け、コメントで一言「インチキ」とだけ書き込んで再びポケットにしまう。
「にしても君さ〜、幽霊に取り憑かれてるのに全然動じないよね」
「だってあんた、全然怖くないし。あと悪意も感じないし」
青年の言葉に幽霊は微妙な表情になる。そしてさらに言葉を続けた。
「しかも私を連れ回してわざわざインチキ霊能者を炙り出してネットで低評価つけるだけって……」
「僕は幽霊を有効活用してるだけだ」
そしてニヤニヤと笑みを浮かべると、次の霊能事務所行くかと言った。
その後ろをふよふよと追いかけながら幽霊はため息を吐き、「悪趣味」と一言呟く。
その顔は青年と同じようにニヤけていたが、それを見て似た者同士だと指摘する人は誰もいなかった。
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