一人目
name:jun mochida
age:16
もういいや・・・
俺が死んだって、悲しむ奴なんかいりゃしないんだ・・・
持田純は人生を投げ捨てていた。
先月都内有数の進学校を受験したところ不合格の通知が届き、その影響で母親が唯一信頼できる妹、持田沙織を連れて実家に帰り、父親は今まで勤務していた都庁を辞職し、今では博打、競馬、パチンコに明け暮れる日々。家に帰ると純に暴力をふるい、4年間付き合っていた恋人にさえ自暴自棄になっていた純を見かねてふられる始末だ。
「くそっ」
純は母親が中学校の入学祝として買ってくれたベッドを強く叩き、気分転換に外に出ることにした。
自分の部屋から出て、一階のリビングに行くとそこには母と父の喧嘩の傷はまだ癒えていず、足元には割れた皿がまだそこにあった。
家を出ると表には何人かの近隣の人々が純の家を指差しながら固まって話をしていたが、純を見るなり蟻のように散って行った。
純がなけなしの金で向かった先は繁華街のゲーセンだった。
別に何をするわけでもないがゲーセンないをブラブラしていると
どんっ
「痛ってえな、誰だてめぇ」
どうやら俺は不良にぶつかったらしい。
しかもこの顔には見覚えがある。
よくここらじゃ一番厄介な奴として評判だ。
「すいませ・・」
「うるせぇ」
がっ
殴られるのには慣れている、しかしそれは40すぎた父の拳程度だ。
やはり自分と同じ位の年齢のやつは違う。
へたしたら、何本か逝ったかもしれない。
「せんぱぁ~い、なにしてるんすかぁ~」
「こいつが俺にケンカ売ってきやがったんだよ」
騒ぎを聞きつけた仲間であろう高校生位の不良が来た。
「おい、こいつを裏に連れて行け」
俺はこれからリンチされるらしい。
でもいっか・・・
俺にはもう失うものは・・・
ばきっ
リンチが始まった。
*
不思議と体が痛いとは感じない、俗に言われる無の境地ってやつかもしれない。
俺はゲーセンの裏の空き地に満身創痍の状態で横たわっている。
不良達はスッキリした様子で、どこかへ去って行った。
純は痛みこそはなくても、とても屈辱的な気分だった。
「なんで俺が・・・」
純はどこからかあふれだす涙をぬぐい、近くのベンチに座った。
「なんで俺ばっかりなんだよ・・」
今思うと、俺ぁババァとジジィのしいたレールの上をただ歩いてるだけだったかもなぁ・・・
純はつい1ヶ月前までは親に逆らった事はなかった、むしろ逆らわなかったのだ。
純が以前通っていた中学校の特進クラスにはいじめがあった。
父親は衆議院議員、母親は東大卒という超ド級のボンボンがいて、いつも弱いやつを見つけてはカツアゲしていた。
純はクラスではあまり目立つ程ではないが、2,3回程、被害を被っている。
だがある日、学級委員長の女子が彼に
「いい加減にしなさい、あなたのせいでみんな迷惑してるのよ。」
と注意をした。
すると彼は、舌打ちをして何も言わずに教室の外へ出て行った。
その日、彼女はさながら英雄のようにみんなから扱われたが、翌日から彼女は学校には来なかった。
あのボンボンが何かしたことには間違いない。
しかし、誰も彼には口ごたえはできない。
結局彼女は自殺した。
自分の部屋で首をつったそうだ。
その時に純は逆らうとめんどくさいことに若干13歳で気付いたのだ。
純は朦朧とした様子で立ち上がり、家に帰ろうとするが
「あれっ」
以前あった駄菓子屋が無くなって違う店ができている。
そういやよく小学校の帰りに寄ったな…。
純はその店に引き込まれるように、入って行った。
*
そいつはそこにいた、いやそこにあったといった方が正しいような気がする。
そいつはまるでホテルマンの様で、道化師のような格好をしている。
おろしたてのようなピカピカのスーツ姿になぜか百円均一で売ってるような、帽子をかぶっていて・・
「いらっしゃいませ」
いやに丁寧な店員だ。
「すみません、ここは何屋ですか」
「当店は貴方が最も望むことをすることができ、その代償として貴方の最も大切なものを頂戴する店です」
「はぁ?」
この店員はふざけているのか?
「それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味です」
駄目だ、こいつじゃ埒があかない。
「店長はいますか」
「店長は私ですが、何でしょう?」
どういうことだ?
「それではあなた以外の店員は・・・」
「いません、私一人で十分ですので」
「はぁ」
どうやら俺は変な店にいるらしい。
「どうされました、お客様?」
「いえ・・・、別に」
帰ろう・・
早く家に帰って、受験勉強しないと・・・
「!」
そっか・・・、もう終わったのか・・・
もう一回やり直せたなぁ・・・
その刹那、純の頭の中でフラッシュバックの様に変人の言った言葉が再生された。
貴方が最も望むことをすることができ・・
俺の一番望むもの・・
「すみません」
「何か御用でしょうか?」
どうせ一度死んだ身だ・・・
「本当に俺の望みがかなうんですか?」
「もちろん」
「どうすれば・・・」
「あちらで手続きを」
純は案内されるがままにホール中央に進み、カウンターの前に立った。
「それではお伺いします、あなたの最も望むことは何ですか?」
「受験の一か月前・・・、今年の2月に行くことです」
「かしこまりました、2月にタイムスリップということでよろしいでしょうか?」
「はい」
「それではあちらへどうぞ」
「えっ」
これだけ?
「手続きは以上で終了です」
次に変人に案内されたのは古ぼけた扉の前だった。
「それではあなたの最も大切な物をいただきます」
「大切なものといっても・・・」
俺はもうそんなもの・・、あっ
「これでよければ」
純はポケットから前にある扉と同じ位ぼろぼろのお守りを変人に差しだした。
「これは?」
「妹がくれたお守りです」
今改めてあの時のことを思い出すなぁ・・・
沙織が受験の日の朝に玄関に来て
「純兄ぃ、今日頑張ってきてね、純兄ぃなら絶対受かるよ!」
あのころは良かったなぁ・・
「それでは扉の中へどうぞ」
純はおそるおそるドアノブをひねった。
扉の中は白い部屋だった。
「ここは・・!」
変人の手には銃が握られていた。
「それ・・・」
「あなたには一度死んでもらいます」
「なんで・・・」
「元来、肉体と精神は同じ時間に存在するものであり、精神だけを過去に戻すということは矛盾が起きるのです」
「はぁ」
「なので肉体が朽ち果てれば精神だけ過去に戻ることが可能になります」
「それじゃあ、もう今の時代に戻れないんですか」
「はい、しかしそれがあなたの望むことでしょう?」
「でも・・・」
「あなたに幸あれ、good luck」
「ちょ、まっ・・」
ドキューン
午後2時57分俺は死んだ。
*
ひどく頭が痛い。




