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第一村人発見

「ついた……陸地だ」


 とにもかくにも、ルカ達はようやくゆらゆらと揺れる不安定な船上生活から解放されたのだ。


「ここはいったいどこなんだろう……」


 本当ならば全員、久しぶりの陸地を踏みしめ、砂浜を蹴る足の感覚を満喫したいところなのではあるが、そんな彼らの気持ちをくじくほどに沿岸は寒い。


 ヴァルモウエの大陸は北の大断絶にて太陽が昇降する。海流の影響はあるものの、その太陽から離れれば離れるほど、基本的には寒いのだ。ルカとグローリエンが交代で体温を保つための魔法をかけているものの、そんな生活をダンジョンからこちら既に二週間ほども続けている。いい加減疲労が蓄積している。


「補給もしたいですね……でもそれよりは、まずは服かな」


 メレニーを抱きかかえたルカが船から降りながら言う。


 そう。服がないのだ。


 未だナチュラルズの三人と、新生児のメレニーは全裸のままである。彼らの衣服は竜のダンジョンの入り口に封じられたままである。正規の入り口に戻ることなくテレポートされてしまったのだから仕方あるまい。


 おそらくダンジョンを作った者も、まさか土足厳禁だった大正時代の日本のデパートよろしくダンジョンの入り口で全裸になってから入ってくる奴らがいるなど予測もしていなかっただろう。温泉じゃないんだから。


 そんなわけで、彼らは今、外なのに全裸なのだ。


「こっからは、全裸で歩き回ってるのを誰かに見られちゃうかもしれないってことだよね。ひぇ~、興奮してきた」


 寒いはずなのにグローリエンの肌がほんのり上気してきた。見られたいのか見られたくないのか、いったいどちらなのだ。しかし、彼女らにとってもこれほど長い間全裸で過ごすのは初の体験。マンネリ化してきた全裸冒険に、何か刺激が欲しかったのかもしれない。


 刺激が欲しいからと言って全裸になるのがそもそもの間違いなのだが。


「とにかく、人里を探しましょう」


 船から降ろした鎧をハッテンマイヤーに着付けしてもらいながらシモネッタが言う。


 その通りだ。この全裸の状態で人前に出るわけにはいかないが、しかし人を探さねばならないのだ。水も食料もすでに底をついている。じきにシモネッタの母乳も出なくなるだろう。その前に何とかして人に会わねばならない。


「そうですね。とにかく人に会わないと。お腹がすいた……」


「ルカ様、お腹がすいたのならこれをどうぞ」


 そう言ってシモネッタが水筒を差し出す。空腹からか一瞬何の疑いもなくそれに口をつけようとしたルカであったが、その甘い香りと「そんな栄養を取れる飲み物など持っていたかな」という疑問に手を止め、水筒の香りを嗅ぐ。


「これ……母乳じゃない?」


「母乳ですわ」


「あの……なんで母乳を飲ませようとするの」


「お腹がすいたんでしょう?」


 腹はすいているが。


 母乳。


「ククク……母乳はビタミン、ミネラル、たんぱく質、そして糖分が含まれている完全食ですわァ」


「いやあのね、母乳を飲ませようとしないで」


「なんでですの? メレニーの飲まない分が余ってもったいないですわ!」


 そうは言われても、やはり抵抗がある。抵抗はあるが、それが何に対する抵抗なのかはよく分からない。別に人から排出された液体が汚い、と思っているわけではない。むしろ飲みたい。飲みたいのだが、飲んではいけない。えっちだ。


「そう言わずに。一口、一口だけでも飲んでくれればきっと良さが分かりますわ!」


「ちょっ、シモネッタ! くっ、まだこんな力が残ってるなんて!」


「先っちょだけ! 先っちょだけでいいですから!」


 無理やり口に水筒の飲み口を押し込もうとするシモネッタ。彼女も食事が出来なくて体力を消耗しているはずなのに、やはり巨人族だけあって力が強い。


「なんでそんなに飲まそうとするの!」


「自分の排出した体液を愛する人に飲んでほしいという乙女心が分からないんですの!?」


 そんな乙女心は聞いたことがない。ないし、「体液」などという言われ方をするとルカの方も増々意固地になってこれを拒否する。


「いらねんなら俺が貰うぞ」


 しかしそんな二人のやり取りを見ながら、スケロクが横からスッと水筒を奪った。


「ダメに決まってるでしょうが!!」


 しかしこうなると今度は逆にルカが彼の手の水筒を奪った。自分は飲みたくないが他人にはもっと飲ませたくない。男心とは複雑である。


「ん? 人の足音がすんぞ」


「隠れろ!」


 スケロクが何者かの気配を感じ、すかさずヴェルニーが茂みに隠れさせた。しばらくすると釣り道具を持った二人組の男達がのそのそと浜の方に歩いて行った。背は低いが肌が浅黒く、がっちりとした筋肉質な体型である。


「星の位置から何となく予想はしていましたが、どうやら南洋国家のジャンカタールみたいですね」


 南洋国家というと暖かいイメージではあるが、前述の通りこの世界では寒冷な土地であり、二人も毛皮を着込んでいた。それはそれとして……


「なんで隠れちゃったんですか」


「いやあ……全裸だし」


 ヴェルニーの返した答えはしごく当然のものであったが、ではしかしどうすればいいというのか。服を手に入れるには人に近づかねばならないものの、しかし人に近づけば全裸を見られてしまう。ヤマアラシのジレンマである。


「遭難してる間に、暖を取るために服を燃やしたってストーリーはどうだ?」


「それでいきましょう! 早速さっきの人達を追いかけて……」


「君達、考え方がぬるいよ」


 グローリエンの声に振り替えると、彼女はそこいらの木の葉を持っていた糸でつなぎ合わせたビキニを着ていた。


「ちょっ、ぐ、グローリエンさん!?」


 ルカは目が離せなかった。


 なぜだ。


 木の葉が小さすぎて、完全にマイクロビキニになっている。それは仕方あるまい。その大きさの葉っぱしかなかったのだから。仕方がないのだが、「なぜだ」はここから先にかかる。


 なんと、全裸の時よりもエロイのだ。


 見慣れたグローリエンの全裸が(見慣れるのもどうかと思うが)葉っぱビキニをつけたことで五割増しでエロく見える。これはいけない。これ以上よくない。茂みの中にしゃがんで身を隠していたルカであったが、立てなくなった。体力を大変に消耗していたが、「種を残す」という本能が働いたのかもしれない。詳細は語らないが。


「考え方がぬるいから、こんなごまかしをする」


 そう言ってグローリエンはビリビリとはっぱを破いて全裸に戻る。


 さっきまでの姿に戻っただけのはずなのだが、これもより煽情的に感じる。いったいこの女は何がしたいのか。自分が大変にエッチな状態だということが分かっていないのか。


「全裸にごまかしはいらない。おお~い!!」


「ちょっとグローリエンさん!?」


 グローリエンは先ほどの男達を追っていった。

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