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第三の手

 右手と左手、それに左足も封じられ、右足は自身の体重を支えるので精いっぱい。


 別に命の危機ではない。この玄室の仕掛けを解除するための手が足りないだけなのだ。彼の目算であればヴェルニー達の方はさほど苦戦しないはず。で、あれば彼らの到着を待ってからこのボタンの仕掛けを解けばよいだけである。


 しかし彼のちっぽけな自尊心はそれを拒否した。


 「せっかく気づいたこの仕掛け、自分だけで謎を解きたい」と。手柄を独り占めしたいと。


 いや、おそらくはルカへの対抗心だとか自尊心だとかよりも、目の前に解きかけの謎があるというのにそれを放置して大人しく待っていられるかという子供っぽい気持ちの方が強かったに違いない。


 彼もまた、冒険者なのだ。そして、彼の冒険者としての本領は、この後おそらく最悪の形で発露することとなる。


「四つ目の穴は……腰の少し下辺りか」


 これがちょうど右足の体重を支えている辺りであれば、無理やり足の親指で押すこともできたのかもしれない。しかしそんな都合のいいことなどない。


 試しにスケロクは一旦他のボタンを離して、四つ目のボタンを押してみたが、しかし何も起きない。


 押す順番があるのか。四つのボタンの組み合わせなので4!(四の階乗)で二十四通り。それほど多い数ではないから順に試してみたものの何か仕掛けが動くという予兆は見られなかった。


 ならばやはり四つのボタンを同時押しするのか。


 何か忍具を使ってボタンを押した状態に保つ、ということも考えたものの、そんな都合のいい道具は持っていない。やはりヴェルニー達を待つしかないのか。


 しかしこれでは収まりがつかない。


 目の前で謎が大きな口を開けて今か今かと待ち受けているのだ。これで飛び込まねばダンジョンに失礼というものだろう。


「……いや、一つ、方法があるはずだ。うまくいくかどうかは分からねえが」


 何か思いついたようだ。スケロクはまっすぐ壁の方に近づき、ゆっくりと先ほどと同じ姿勢をとる。


 すなわち、右手は高く掲げ、左手はできるだけ伸ばし、両手とも穴の中のスイッチを押す。さらに左足の指で床に近い穴のスイッチを押し込む。どれもカチリといい音を立てて押し込まれた。


 残る一つは腰の少し下。しかし右足は体重を支えているために使うことが出来ない。結局開いている手も足もないのだ。此れでは先ほどと同じではないか。


 しかしながらスケロクは当然これで終わるような男ではない。スウゥ……と大きく息を吸い、そして肺をしぼませて最後の1ccまで全て吐き出す。これは、一度見せた。サキュバスとの戦いのときに見せた呼吸法である。


 腹圧を使って、筋肉の動作で臓腑をもコントロールして、肺だけでなく、体のすべてを制御する。瞬間的にスケロクの体温が上昇する。血流を操り、自由自在におのれの支配下に体のすべてを置くヨガの秘宝。


 そう。スケロクは勃〇しているのだ。


 こんな何もないダンジョンの岩陰に己の精の根を怒張させて突き立てているのである。


(この位置なら……)


 おそらくこの玄室の仕掛けは複数人で協力して解除することを想定していたであろう。だが、ニンジャの神妙なる肉体制御技術はそんな思惑など無視して荒れ狂う。


「むん!」


 サイズが合わない。多少無茶ではあるが、スケロクはそんなことは無視しておのれの分身を壁の穴に突き刺した。


 カチリ。


 確かにスイッチを押し込む音が聞こえた。人類の勝利である。


 ゴウン、と背後で大きな音が聞こえた。


 首だけで振り返ってみてみると、なんと玄室の天井がなくなっていた。いや、開き戸のように天に向かって開いたのだ。


「船?」


 そして天井の裏には巨大な木の塊が見えた。確かに船腹に見えなくもない。


 さらにその木の塊はうなり音を上げてゆっくりと玄室の床に降りてくる。


「間違いねえ。船だ。なんでこんなもんがダンジョンの中にありやがる」


 両側に親切なことにアウトリガー(浮材)まで備えた全長六メートルほどの小型の船。それがこんな地の底のダンジョンの中に突如として現れたのだ。まるで神話に出てくる人と動物を洪水から守る船のようである。


 平らになっている船底が床に静かに着地する。どうやらフックで吊り下げられていたものが歯車で降ろされたようである。しかしこの暇では読み切れない。


 すぐに調べたいところではあったが、スケロクには現在新たな問題が発生していてそれもできないのだ。


「ちん〇んが抜けねぇ……」


 ピンチである。


 無理やりに穴に押し込んだ彼の陰茎が抜けないというのだ。しかも怒張した彼のものと壁の岩肌が絶妙な刺激を醸し出し、萎えそうにもない。血流を集めることはできても、それを散らすことは彼はできなかった。


 人生最大の危機である。このままルカ達が戻ってくれば彼はダンジョンファッカーの汚名は免れず、そして運が悪ければこのままダンジョンの奥底で玄室と繋がったまま朽ち果てることとなろう。昆虫採集された虫のように。


「う……いたた。ここは、いったい?」


その時。神か仏か鬼か邪か。脳震盪を起こして倒れていたハッテンマイヤーが奇跡的に目を覚ましたのである。


「ここは……ダンジョンの玄室? でも、こんな船……」


 どうやら船の陰になってスケロクの姿までは見えていないようである。幸か不幸か。いや、これは決して幸ではない。きっと彼女はスケロクの助け舟になるはず。


 この屈辱的な姿をヴェルニーやルカ達に見られるのも端であるが、しかし彼女一人ならばまだ我慢できる。迷った末、スケロクは彼女に声をかけることにした。


「え? スケロクさん。そんなところでいったい何を……いや本当に何をしてるんですか。馬車に引かれた蛙みたいに壁に張り付いて」


 何とも無遠慮な女である。スケロクは手短に経緯を説明する。


「ダンジョンにちん〇んを入れたら、抜けなくなって……」


「全然説明になってないです。スケロクさんそこまで女に困ってたんですか? ダンジョンに射〇しても子供は生まれませんよ。ハッ、もしかしてダンジョンってそうやって増えて……?」


「そんなわけねえだろ。常識で考えろ」


 そんな事を言われても常識で考えたらダンジョンの壁にちん〇んを突っ込むことなどないのだ。お前こそ常識で考えろ。


「とにかく、何とかしてこの穴からマイサンを抜きてえんだ。何か方法がねえか?」


「そんなこと言われてもですねえ。私はあまりちん〇んのことに詳しくありませんし」


 持ってないのだから当然である。


「腰を前後に振って射〇したら萎えて抜けないですかね?」


「無理だ。かなり狭くて腰を振れねえし、何より痛くてそんなことできねえ。確かに射〇すれば抜けるかもしれねえが……」


「なるほど」


 ギラリとハッテンマイヤーのメガネが煌めいた。


「スケロクさん、あなたは大変に運がいい」


 運がいい。運がいいとはどういうことか。ダンジョンの壁にちん〇んが刺さって抜けなくなった男のいったいどこが運がいいというのか。


「書物での知識に偏りますが、私はちん〇んに触れずに射〇させる技術に長けています」


「えっ、何その技術。なに? 何をするつもりなの。なんで俺の尻の前でしゃがんでんの?」


 ハッテンマイヤーはスケロクの尻の前で跪き、祈るように両掌を組んで、人差し指だけを立てた。


「そして私も。まさか失われた神々の技術、『トコロテン』をこの身で実践する機会が訪れようとは。前立腺の神に感謝」


「えっ、ちょっと待って。マジで待って。ねえ、聞いて」


 スケロクの声が玄室にこだました。


「アッーーーーー!!」

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― 新着の感想 ―
チソチソをダンジョンに挿して抜けなくなった話、前にどっかで読んだことあるんですけどぉ!!
スケロク開眼!w
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