表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/240

体当たりのダンジョン攻略

「実は、イメージと違って巨人族(ティターン)はそれほど強くはないんだ」


 確かにヴェルニーは以前ルカにそう話していた。


 実際に見てみて、シモネッタをはるかに超える巨体、三メートルにも及ぶ巨躯はフルプレートアーマーの迫力と相まってダンジョンの通路いっぱいに広がり、まさしく『壁』であった。


 その『壁』が弱い、などということが全く信じられなかったのであるが、実際巨人の騎士はユルゲンツラウト子爵の鉄球の前に滅多打ちにされるのみであった。


 王子のみを守るために身を挺して時間稼ぎを行おうとした忠義の騎士。その心意気やあっぱれ。だが気持ちだけでは足を支えられない。激しい金属音を立てて、二人はその場に崩れ落ちた。


「はて」


 金属くずと成り果てた二人の巨人の上で、ユルゲンツラウトは球形状を解除して人型の姿を現した。


「おかしいな。巨人は一人だったと思っていたが」


 破損した右足を宙に上げ、左足一本だけで二体の巨人の死体の上に立つ。


「巨人がまた増えてるな。それともヴァルモウエはそんなに巨人ばかりの国なのか?」


 腕組みをして首を傾げるユルゲンツラウト子爵。


「まあいい」


 ユルゲンは第四階層に引き返そうとしていたジェリド王子達の方に視線をやる。


「最終的に全員殺せばよいのだ」


 ターゲットを定める。まずは逃げようとする者。


 だがユルゲンには慢心があった。自分が誰を殺して、今誰が残っているのかも確認すらしていなかった。自分の右足を奪った三人が、その変身を解くのを今か今かと息を潜めて待ち焦がれていた事にすら気を払っていなかったのだ。


 その背後から。暗黒回廊の中からまるで射出されるかのように二人の人影が切りかかる。おそらくはグローリエンの魔法か何かで威力を得て、飛び掛かるスケロクとヴェルニー。


「切り札を伏せているのが自分達だけだと思うなよ」


 ユルゲンがそう言葉を発した瞬間、ダンジョンの中に稲光(いなびかり)が放たれた。


「があッ!?」


 何が起こったのか。空中で剣を振りかぶっていたスケロクとヴェルニーが同時に体をくの字に曲げて地に落ちた。


「ただ転がるだけが俺の技だとでも思ったか?」


 多少はルカも魔法に通じている。使えるのは回復系と能力向上(バフ)系だけであるが、以前のメンバーにはスペルキャスターのギョームがいたので、スケロクとヴェルニーが受けたのは電撃魔法だという事は分かった。


 だが、魔力の潮流は感じなかった。


 簡単な話。魔法ではないのだ。ユルゲンの球体での攻撃は、そも本来的に攻撃ではない。体内に静電気を溜めるための予備動作のついでに攻撃していただけなのだ。人間でいえば広背筋に当たる外骨格の隙間から伸びる放電針、すでにそれは体内に収納されているが、ジェリドの方を向いてヴェルニー達に背を向けていた事すらただの油断ではなく放電のための予備動作だった。


 無論その種明かしなどしないが、ここまでの動作は全て計算ずくだったのだ。


「さて、まずはそこの偉そうな奴だ。どこの貴族か知らないがメルヒオール公爵閣下への手土産とするか」


「殿下! 走って逃げて!!」


 本来ならば最低でも二人の護衛を付けて地上まで誘導するつもりだったのだろうが既に是非もなし。正体不明の上級魔人(グレーターデーモン)はジェリドに目を付けているのだ。護衛の二人はこの場にて少しでも足止めをすることに切り替えた。


 窮屈そうな巨人がそれぞれ右側と左側から片手剣で斬りつけてくる。その斬撃はこの狭い通路の中で躱し様などないと思われたが、ユルゲンは床に寝転がってあっさりとそれをやり過ごした。


 まさに巨人の死角。天井につかえるほどの身長の巨人からすれば地に這う虫はどれ程に手を伸ばさねば届かぬ()()か。


 しかも彼らは知らないことだが。


「球状の時にできることは、当然ながら今もできるぞ」


 地に背を付けたまま、一気にジェリドの股を潜り抜けて逃げ道を塞ぐ位置まで移動したのだ。


「さてと、まずはお前からだ」


「ひッ……!!」


 この移動方法を知っていて、対応できる人間はヴェルニーとスケロク、未だ感電による麻痺から復帰できていない。どの時点からか、すでに詰んでいたのだ。


「死ね」


 相手が誰かも確認せずに死を届ける。デーモンにとっては、平民も貴族も王族も関係ないのだ。


「させませんわ!!」


「なにィッ!?」


 一人だけいた。


 ユルゲンツラウト子爵の身体操作能力を目の当たりにしていて、尚且つそれに対応できるだけの能力を持った者が。


 質量とは此れ(すなわ)ち力なり。


 だがジェリド王子の連れてきた騎士達はいずれもユルゲンの変則的な動きの前に全く対応ができなかった。(いず)れにしろ過ぎたるは(なお)及ばざるが如し。


 質量が上がればそれだけ慣性力が増し、敏捷性(アジリティ)が失われる。高い敏捷性と力を両立したままに足歩行にて動き回れる最大限のサイズが、まさに彼女の身長なのだ。


 ジェリド王子の危機をすんでのところで救ったのは、シモネッタ姫だった。


 メイスはどこかに失くしてしまったが彼女の最大の得物、二メートルほどの高さのある扉の如き大盾を持って、ユルゲンツラウトに突っ込んだのだ。

 全くノーマークだった伏兵の突撃を受けて、ユルゲンは通路の壁にめり込んだ。


「殿下、脱出を!!」


 千載一遇のチャンス。巨人の騎士二人はジェリド王子を引きずって第四階層に逃げていく。


「く……クソが」


 脳を揺さぶられる。ようやく何が起きたのかを把握したユルゲンが全身のばねを使ってシモネッタを押し戻す。


「もう一度! 三、二、一、ゴーッ!!」


 グローリエンの声。掛け声とともに背後に空気圧を感じたシモネッタはその風圧に合わせてもう一度全体重をかけて大盾を構え、ぶちかましをかける。


「せぇいッ!!」


 大盾の形に、壁が陥没する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔人強い…… ここで姫の強み全開が熱い!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ