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どうなってるの?

「いったい僕の身体に何が起こってるんでしょう」


 と、言われても。


 誰にも何が何やらさっぱりである。


 何とか暗黒回廊から脱出して、一行が見たルカの姿。それは自分の生首を大事そうに抱える、首無しの彼の姿であった。


 端的に言って、落とされた自分の首を持ってここまで歩いてきた、という状態である。


「おいカマソッソ、どうなってんだこれ」


 ヴェルニーのツヴァイヘンダーに串刺しにされたままのカマソッソの身体を踏みつけながらスケロクが尋ねる。


 改めて一行はカマソッソの状態を確認する。そもそもこいつに今死なれては面倒だ。


 端的に言ってカマソッソは人間大のコウモリ、といった風な化け物であった。ネズミのような顔に大きな耳、顔は確かにコウモリのようであるが、体全体の特徴としては人間に近い。


 ただ、足はサルのように大きな掌のような形になっていて、これで天井にぶら下がっていたのだろう。最大の特徴はやはり腕であろう。人間の倍ほどの長さがあり、指と指の間に被膜があって翼を形成している。まあ、コウモリのそれであるが、人差し指だけが翼から飛び出て、曲刀のような爪を備えている。これでルカを襲ったのは間違いあるまい。


 間違いあるまいが、なぜそれによって首を落とされたルカが普通に生きているのか。それが分からない。


「スケロク、悪いが道を引き返して後方から来てるのが何者か確認してきてくれるか? こいつへの尋問は僕がしておく」


「お、おう。頼んだぞ」


 確かに彼が適任であるし、他の人員にはできないことだ。後ろ髪引かれつつも、スケロクは再び闇の中に消えていった。


「思ったんだけど、これホントにルカくんだよね?」


 まずそこから疑うのか、とも思うが確かにそれは疑わしい。暗闇の中で人が入れ替わるなど初歩の初歩に疑わなければならない事項であるが、「ルカの首が落とされ、しかもその上で生きている」などという異常事態が起こってしまうと、そこにまず目を疑われてしまって基本的なことを見落とすという事があり得る。


「そ、そこは信じて下さいというほかないですけど」


 これへの弁明は他ならぬルカ自身が行った。生首の状態で肺から空気が送られてこないのにどうやって声を出しているのか。分からないことだらけである。


「そこは、今疑うとキリがないからやめておこう」


 五感の鋭敏なスケロクも気づかなかったのだ。別の物がルカと入れ替わったなどという可能性はとりあえず置いておくしかあるまい。それよりはカマソッソへの尋問である。


「で? ルカ君は今どういう状態なんだ?」


「うぅ……」


 カマソッソも謎が多い。大剣で体を貫かれ苦しそうではあるが、こいつは死なないのか。そもそも人の言葉が分かるようではあるが、こいつは何者なのか。


「く、首を落とされた状態だ……」


 そんなのは見ればわかる。当然ながら「なぜ首を落とされているのに生きているのか」という事である。


「まさかとは思うけど、魔人(デーモン)の世界じゃ首を落とされても死なないのが普通なのか?」


 こんな異形の身体をしているのだから人間と全く違う生態をしていても不思議はない。だからといってルカが首を落とされても生きている理由にはならないのだが。


「死神は……魂を奪うことは出来ても、殺すことは出来ない」


「死神?」


「俺は……冥界の死のコウモリ、カマソッソ」


 そういえばそんな事を最初に言っていた気がする。


「弱らせてから魂を奪おうと思ったけど、グギギ……」


「冥界シウカナルの住人という事ですか」


 ルカが喋るとどうも変な空気が流れる。それはそれとして、本題に戻ろう。


「あの世とか地獄とか言われる世界の事か? 僕は詳しくは知らないけれど」


「僕もそれほど詳しくは……まさか実在するどころか、そこの住人に会うことになるなんて」


「じゃあさ、冥界はガルダリキに協力してるってこと? なんで死神がダンジョンの番人なんてしてるのよ」


「番……人?」


「え?」


 いまいち話がかみ合わない。このコウモリは暗黒回廊でいったい何をしていたというのか。デーモンに協力していたという事ではないのか。


「いや、特に理由はなく魂を収集してただけだけど」


 全く理解の範疇を越えている事態ではあるが、人間の世界の貴族も特に理由もなく狩りをしたりもする。ここは信じるしかあるまい。


「じゃあもうそれはいいや。どうやったらルカくんを元に戻せるの? まさか戻せないなんて言わないわよね?」


「ぅ……」


「あるんでしょ? 言いなさい」


 ここで「ない」と言われたらもうどうしようもないのだ。ルカは不安そうな表情でグローリエンとカマソッソのやり取りを見つめている。


「冥界にあるマツのヤニを付ければ、そのうちくっついて繋がると思う……多分。切断するような怪我をした時は、俺達はいつも使ってるから。ただ……」


「ただ?」


「人間にも効くのかどうかは分からない。やった事ないから」


 効かなければこのまま一生デュラハンである。もうそれに賭けるしかないのだ。是非もなし。


「で、そのマツヤニはどこにあるの? あるならすぐに出しなさい」


「こ、ここにはない。冥界に取りに行くから、お願い、逃がして……」


 全員がううむ、と唸る。当然ながら、果たしてこのまま逃がしてしまっていいのかどうかという事である。とはいえこんな死にかけのコウモリをパーティーに加えるのもそれはそれで嫌であるが、と思案していたところ、スケロクが戻ってきた。


「まずいことになったぞ」


 その割には落ち着いているように見える。表情をゆがめてはいるが、緊迫した様子はない。もし後方にいた連中が敵対的で襲ってきたというのならこんなにのんびりとは戻ってこないと思うのだが。


 後を追ってきていた連中は、いったい何者だったのか。


「後ろに居た奴ら、ルカの知り合いだ。確かメレニーとかいう奴、お前の女だろ?」

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