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カマソッソ

 結局、歩きながらヴァルメイヨール伯爵から下賜されたアイテム、純金のY字型の棒についていろいろと考えてはいたものの、分からなかった。


 伯爵に聞いてみてもそれが何なのかは知らなかったし、どうやらそれは彼女が生まれるよりも昔に作られたものらしい。


「魔力が込められてるわけでもなさそうだし……なんなんだろうね?」


 人よりも長い寿命を持つエルフであるグローリエンは博識ではあるものの、やはり分からない様子。


「武器にも見えないし、何かの鍵なんだろうかね?」


 冒険者としての経験が豊富なヴェルニーにも。


「純金製だし、換金用のアイテムなんじゃねえの?」


 スケロクにも分からない様子。


 分からないものはとりあえず保留にするしかあるまい。一方ダンジョンの方は伯爵達のいた玄室の奥は第六層への階段になっていた。ここからは完全に初挑戦の階層になる。


「いつも通りグローリエンはマッピングを。ルカ君は何か能力向上(バフ)を望める曲でも弾いてもらえるかい? これが僕達『ナチュラルズ』の基本的な隊列になる」


 それが基本的な形になるのではあるが、しかし第六層のダンジョンはその作戦も全く役に立たないものであった。


「なにこれ……真っ暗」


 階段を下りてすぐ。暗黒空間が展開していた。


永続(コンティニュアス)(ライト)!!」


 グローリエンがすぐに照明のための魔法を使用したが、ろうそくの炎のように一瞬光が灯ったかと思うとすぐにまた真っ暗になってしまった。


「あれ? 魔法に失敗した?」


「いや……」


 少し、引き返す。すると暗闇は薄くなり、全員の姿が再び見えるようになり、永続光の魔法の光球も姿を現した。


「『暗い』んじゃない。『光を吸収している』んだ」


「光を吸収?」


 ヴェルニーの言葉にルカが聞き返す。


「『色』っていうのは光を反射している状態を指す言葉だ。全ての光を反射する色を『白』といい、全ての光を吸収する色を『黒』という。おそらくは空気中の何かが光を吸収しているんだろう」


 要は黒い、無味無臭のスモークのようなもの。


「風の精霊よ、力を」


 グローリエンが口の前で人差し指をくるくると回す。


()りて束ねて()く、(はし)れ。ウィンドショット」


 ひゅうひゅうと空気の流れができ、彼女の人差し指に集まっていくのが感じられた。そのままグローリエンは呪文を唱えると自身の指先にフッと息を吹きかける。


 すると空気の塊が彼女の前方に発せられた。とはいっても威力は大分抑え目ではある。通常攻撃で相手を吹き飛ばすのに使っている魔法を、薄く広くして発射したようなイメージだ。


「あらら」


 風で吹き飛ばせば視界が晴れると考えたのだろう。だが実際には闇が撹拌されただけだった。


「この闇の中を進め、って事だろうね」


 視界を塞がれた中での進行を強要されるという事なのだろう。ルカはごくりと生唾を飲み込む。ただでさえどんな強敵がいるのか分からないダンジョンの中、視界も封じられるというのだ。


「乗り越えられない試練は、ない……」


 ルカが小さく呟く。すると、スケロクが小さく笑う。


「それはどうかな? ダンジョンは、そもそも侵入者を歓迎してねえんだぜ?」


 それはそうである。元々クリアすることを前提としたレクリエーションではないのだ。侵入者を皆殺しにするための罠である可能性もある。いや、本来的に言えばそのはずであろう。しかしそれでも進まねばならない。ヴェルニーとスケロクは躊躇なく、しかし慎重に暗黒回廊に進んでいく。


「ま、当然ながら、何かいるな」


 当然と言えば当然。この暗黒回廊を用意した者は侵入者が何も見えなくて壁に頭でもぶつけてくも膜下出血を起こすことを意図したわけではない。


 何かが羽ばたく音が聞こえ、同時にスケロクが小さく息を吐き出して動く。


「多分だが、こいつぁコウモリだな」


 ドサリ、ドサリと何かが落ちる音がする。おそらくはスケロクが飛び掛かってくるそのコウモリを小太刀で撃ち落としたのだろうが、音からするとどうも犬ほどの大きさがありそうなコウモリだ。


「気を付けろ、ルカ君。第六層の敵が、デカいだけのコウモリのはずがない」


 見渡す限りの完全な闇。おそらくは鼻をつままれても気づくまい。月や星の明かりすらもない墨のような暗闇の中で活動できる生物となれば限られてくる。


 たとえば音を使い、エコーロケーションで物を見るコウモリ、クジラなどはその代表格である。


「待って」


 グローリエンの声が聞こえたかと思うとひゅん、と杖を振る音がした。その後、コォン、と地面を打ち鳴らす音。


 ルカはこの音に聞き覚えがあった。そう、前にもこれは聞いたことがある。杖に魔力を乗せ、そのまま床を叩き、魔力を振動波に乗せてその反射を見ているのだ。


「いるね。人間くらいの大きさの奴が天井にぶら下がってる」


「僕にもなんとなく感じられる」


「俺はダメだな。魔法の素養がないせいか、全く分からん。とりあえずは小さい奴らの攻撃を凌ぐぞ」


 光の吸収される暗闇の中、どうやって敵の場所を把握するかの方向性はすぐに決定されたのだ。おそらくはこういった不測の事態も初めて経験する事ではないのだろう。ルカは自分にも何かできないかと考えながらもただまごついているだけだった。


「蛇……蛇も暗闇の中で狩りをするって聞きますが……」


「それについては今は考えなくてもいい。とりあえずはコウモリだけに気を付けて」


 暗闇の中で狩りをする動物は多い。夜行性の肉食獣は殆どがそうであるが、その多くの場合は目がよく、月や星の明かりで十分な光量を得られるからである。洞窟の中などの完全な闇の中で活動する、そもそも光を必要としない生き物は少ない。


 ヘビはそのうちの一つではある。蛇は目隠しをした状態でも目と鼻の間にあるピット機関によって赤外線を検知して獲物を狩ることが出来る。しかし、所詮は赤外線も光である。

 よって、「明かりがない」のではなく「光が吸収される」今の状況ではどちらにしろ「見る」ことが出来ないのだ。尤も、ヴェルニーがそこまで知っていてこの発言をしたのかどうかは分からないが。


「キッキッキ、なかなかやるねぇ。この『ヤミゴケ』の生み出す漆黒の世界で、これだけ持ちこたえるとはねえ」


 甲高い耳障りな声が聞こえる。


「冥界シウカナルの使者、カマソッソ様の攻撃がかわせるかな」

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