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なんでかフラメンコ

「マルコ、分かっていると思うが、今回無理なら、私達『ワンダーランドマジックショウ』はもうこのダンジョンからは手を引く」


「わ、分かってる……」


「いいか、うちはもともとダンジョン探索には向かないパーティーなんだ。この上醜態をさらし続ければ名を落とし、本業の傭兵の方にも悪影響が出かねない」


「分かってるって! 大丈夫、次はうまくやるさ。とっておきのネタを仕込んできたんだ」


 ワンダーランドマジックショウのリーダーのエルフ、リナラゴスと吟遊詩人(バード)のマルコ。


「なんであいつらこんなとこに……私、全然聞いてないよ……」


 怒りでグローリエンの拳が固く握られている。


「落ち着け、気取られたら終わりだぜ? 今の俺たちの格好、忘れてるわけじゃねえだろうな?」


 全裸である。


 知り合いに見られるのは絶対にまずい。一行は直接目視できない位置に隠れながら、二人の後を追って、四階層から五階層に潜っていく。


「汚名返上、ってところかね。だれにも知られずに、どうにかしてこのダンジョンを攻略したかったのか」


 ヴェルニーが小さな声で呟く。


 実際マルコからすれば「悪魔のダンス」を見破れなかったことと、その後試練を失敗したことで二度汚名を被っているのだ。何が何でもいいところを見せたかったのだろう。グローリエンに。


 結局そのたくらみも今グローリエンに知られ、怒りを買うこととなっているのではあるが。


「ついでだ。あいつらがどんな方法で『試練』をパスしようとしてるのか、覗いてやろうぜ。あいつらの後ついてきゃモンスターと接触する危険もねえしな。ヒヒヒ」


 スケロクが悪そうな表情でそう笑った。


 しかし確かに合理的ではある。ヴェルニー達はこの先は初挑戦。道案内にもなるし、前にリナラゴスとマルコがいれば警戒するのは後方だけでいい。一石三鳥の策。


「ところでルカくん、自信のほどは?」


「うぅん……」


 グローリエンに問いかけられてルカは唸りながらリュートの弦に指を伸ばし、指で弾こうとして、やめた。小声で話しているだけならともかく、リュートを鳴らしてしまえばさすがに気づかれる。


「いくつか喜劇の内容を歌にしたものを、と考えてはきたんですが……喪服の女性か……まずは心を落ち着けるような優しい音楽や、楽しい音楽で心をほぐす方がいいのかも」


「おお、なんかプロっぽい発言だねぇ。マルコはダメだよ。あいつ相手を楽しませるとか、そういうこと考えられないもん。自分をよく見せたいだけ。吟遊詩人を装ってる自分が好きなだけだもん」


 同じパーティーでありながらもグローリエンはマルコのことをよほど嫌っているようである。


「マルコ、自信はあるのか?」


 ルカ達の場所からは彼らの姿は見えないが、似たような内容をリナラゴスがマルコに問いかけた。


「今まで僕は、自分を格好よく見せることだけに執着していた」


 どうやら自覚はあったようである。


「だがそんな物はもう捨てる。誇りも何も捨てて、今日のオレは、このリュートにすべてをかける」


強い決意。しかし同時に危うさも感じる。


 第五階層の先は通常のダンジョンと同じようにいくつか分かれ道のある迷宮となっていたが、リナラゴス達についていっているルカ達は道に迷うこともなく安全な距離を保って進む。


 途中オーガなどの危険なモンスターも現れたものの、リナラゴスが風の魔法で切り裂き、一瞬でカタをつける。さすがはS級も間近と噂されるパーティーのリーダーである。その実力は折り紙付き。彼ならば単独でもここまで到達できそうだ。


 やがて一行はこの間石像の悪魔がいたのと同じくらいの規模の玄室にたどり着く。部屋のドアは開け放たれており、ルカ達は壁一枚挟んだ外側の死角から様子をうかがうことにした。


「来おったか」


 聞き覚えのある声。中位の魔人(デーモン)、イゴールの声だ。ルカが入り口の脇から少し顔を覗かせて見てみると、リナラゴスとマルコの前にはイゴールが待ち構えており、そしてそのすぐ後ろには豪奢な椅子に座ったトークハットの貴婦人がいた。


「おぬし、見覚えがある。性懲りもなく再挑戦に来たか。一度ならず二度までもくだらぬ芸を見せにきおったというのならば、もう容赦はせんぞ」


「抜かせ。あの時のオレとは違う」


 マルコはよほど自信があるようだ。言葉を紡ぎ終えるとじゃらんとリュートを一掻きする。


「イマイチ格好つけを捨てきれてない気がするわね」


 小さな声でグローリエンが囁く。全裸の美女が息も吹きかかるほどの距離で囁くのだ。ルカはマルコ達に集中して後ろのことはあまり考えないようにした。


 椅子に座っているのがイゴールの主人、ヴァルメイヨール伯爵であろう。「まるで人形のようだ」とも言われていたが、確かに全く生気を感じない。そもそも、笑いというのはある程度類型化のしやすいジャンルではあるものの、話し手側と聞き手側のある程度のベースとなる文化の共有が求められる。


 ましてや吟遊詩人がレパートリーに持っている喜劇などの類はまさしくそういうものだ。


 そういった点で考えたとき、おそらくは断絶された『向こうの世界』であるガルダリキの出身であろうデーモンを笑わせることなどできるのであろうか。そもそも、イゴールはその限りではないようではあるが、ヴァルメイヨール伯爵は言葉が通じるのであろうか。こんなことならパントマイムの勉強でもしておくのだった、と今更思っても後の祭りだ。


 ジャン、ジャジャン、とマルコは勇ましくリュートを掻き鳴らす。あまり人を笑わせようという感じはしない。英雄譚の叙事詩でも聞かせようというのだろうか。彼の考えていることがルカは全く分からなかった。彼はそのままリュートを弾き続ける。


「オレ!」


 何となく嫌な予感がしてきた。しかし彼の出し物は続く。マルコは弾き続けていたリュートをピタっと止める。


「デュラハンは、いつも借金取りに追われているらしい」


 言葉を一度切り、軽くリュートを弾き、さらに言葉を続ける」


「なぁ~んでか!?」


 ぞわり、寒気がした。ルカ達の前身の毛穴が逆立つ。これほどの恐怖を感じたことはなかったと言っていいだろう。


「それはね、デュラハンは首が回らないから!」


 令和の時代にやるネタではない。

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― 新着の感想 ―
生死の堺にすすむw 
懐かしいっ!! しかし、この貴婦人に対して、ルカ君はなにをするつもりでしょうか。
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