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熱線

「今頃気づきましたか」


 全ての攻撃を受けも躱しもせずに無防備に受け続け、その度に腹部の球体が回転を増していく。


「はっきりと言いましょう、あなた達の攻撃は全て無駄です。全て私の真皮層下部のブレース構造上の伸縮性梁状細胞で熱エネルギーに変換、吸収され、このフライングスフィアに蓄積されます」


 何やら難しい言葉を使って説明はしているが、要するに敵の攻撃を吸収して自分のエネルギーにするという事である。


「さて、もらったものはちゃんとお返しせねば」


 ガパリと口が開いて砲身が再びその姿を晒す。遮蔽物はない。射程距離がどのくらいかは分からないが、おそらく十分な距離もない。


「不死隊! 壁になれ!!」


「無駄だ。壁ごと吹き飛ばしてやる」


 ミゲルアンヘルとシグヴァルドとの間に彼の作った石像が割り込む。しかし先ほどもポールの右半身を跡形もなく吹き飛ばしたのだ。これでも耐えられるかどうか。


「あぶない!!」


 ちょうどシグヴァルドの立っていた場所は丁字路の交点となっていた。そして、今にもシグヴァルドが攻撃を仕掛けようとしたまさにその時、何か巨大な固まりが彼を圧し潰したのだ。


 命拾いをしたクレッセンシア達であったが、状況がまるで呑み込めない。白銀のフルプレートアーマーに身を包んだ巨躯。それが自分達を助けたのだろうということまでは分かるが、全く思い当たるものがない。地上にいる冒険者にも、マリャム王国に残してきたゲー・ガム・グーの他のメンバーにも、そんな者はいなかったはず。


「シモネッタ様、状況も分からず突っ込むのは危ないと!」


 無骨な全身鎧に不釣り合いなほどに美しいブロンドの髪とまだ幼ささえ残っているように感じさせる可愛らしい顔立ち、そして遠近感が狂っているのではないかと思うほどの巨体。


 クレッセンシア達を危機から救ったのはシモネッタ姫のシールドバッシュであった。背後にはメレニーを抱きかかえたハッテンマイヤーも控えている。


「くっ……何者だ」


「あれッ、まだ動けるんですの!?」


 ユルゲンツラウト子爵ですら一時的な活動不能に追い込んだ彼女のシールドバッシュであったが、なんと壁と盾の間に挟まれたシグヴァルドは挟まれたその隙間から手を伸ばし、こじ開けて脱出を試みた。


 シモネッタはそれを必死で抑え込もうとするものの、彼女の半分以下の目方しかないように見えるシグヴァルドの力が溢れ出る。


「邪魔をするな、巨人め」


 こじ開けられた隙間から魔人の仮面のような顔が覗き、そして口の中の砲身がシモネッタの方を向く。それが何かは分からないものの、危険なものであるという事は彼女にも分かる。


 シモネッタは一旦シグヴァルドの顔を手で押し退けるが、やはり魔人は異常な力の強さ。これは敵わないと感じ、盾を外して思い切りシグヴァルドの身体にケリを入れてから距離をとった。しかし丁度そのタイミングでシグヴァルドは熱線を放射したのだろう。視界が真っ赤になってそこらじゅうを照らし、焼き尽くしたのだ。


「キャアッ……ハッテンマイヤー、無事ですか?」


「……なんとか。メレニー様も無事です」


 熱線が通路の壁や苔を焼き、水分を蒸発させ、辺りにはもくもくと煙が充満している。シモネッタが周囲を確認すると先ほど助けた女性、クレッセンシアと、ヴァイオリンを持った老人が倒れていた。


「う……あんたたち、何者なの?」


 クレッセンシアからすれば本当に訳が分からない。突然出てきた巨人の女も分からないし、連れてる女がなぜか侍女のような黒いロングスカートでダンジョンにいる意味も分からない。さらに言うならその女が乳幼児を抱きかかえているのがもっと分からない。なぜこんな危険な場所にそんな者を連れてくるのか。


「な、何者なの、あんた達……?」


「何者と言われても」


 そういう聞き方をされると意外と答えるのが難しい。


 逆にシモネッタの方も彼女らが何者で、どういう答えを欲しているのかが分からないからである。彼女自身はルカに言いつけられて家で待っているように言われたのだが、やはり家でじっとしているなど我慢できずルカ達を助けるために来たのである。


 しかしそれをそのまま言ったとてクレッセンシアがルカを知っているとは限らないし、どちらかというと知らない可能性の方が高い。


「愛する人を助けにきました」


 なので、要点だけ伝える。


「ところであなた達は? ギルドの冒険者さんですか?」


「あ、ああ……私達はその、西のマリャム王国から要請を受けて応援に来た冒険者なんだが……」


 さて、そこまで言って、この先はどうしようかと考える。当然ながらグラットニィを始末するためにダンジョンに入ったなどと真実を言うことが出来ないことは分かっている。しかしじっくり考える時間などないことも十分承知している。


 ここはあれこれ自分で考えて判断するよりは、ミゲルアンヘルに任せた方がいいだろうという考えになった。


「そこにいるじじいはホルヘ、他にディエゴ神父とミゲルアンヘルという奴がいるんだ。詳しい話はそいつに……くそっ、煙で見えないな。みんなどこに行ったんだ。


 クレッセンシアは目を凝らすがまだ煙は晴れそうにない。こうしている今にもシグヴァルドが次の攻撃を仕掛けてくるかもしれないというのに。


「あの、ミゲルアンヘルさんというのはもしかして黒髪で、髭の生えた方ですか?」


「え? うん、そうだけど、知ってるの?」


「ディエゴ神父というのはひょろっとした背の高い方で?」


 クレッセンシアは「ああ」と返事をして辺りを見回す。もしかして自分が気づいていないだけで彼女には見えているのかとも思ったのだが、シモネッタは自分のすぐ近くの足元を指差した。


「もしかして、ここに転がってる死体が、ミゲルさんとディエゴさんですかね?」


「え?」

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― 新着の感想 ―
〉「ディエゴ神父というのはひょろっとした背の高い方で?」   シモネッタ基準ではディエゴも背が低いので、「人間の中では」と加えるか、ハッテンマイヤーが口を挿んだカタチにするかー、云々
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