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ダグザハンマー(笑)

「ダグ……なに?」


「ダグザハンマーだ」


 武器に自分の名を。


 ヴェルニー達は少しクールダウンした。


「このハンマーさえあれば、俺達……地下組織『ダグザ』が反撃の狼煙を上げることが出来る」


「地下組織『ダグザ』」


 組織名も自分の名。


 ヴェルニーは大分クールダウンしてきた。


 ルカ達はひとところに集まり、ダグザに聞こえないように小さい声で話す。


「大分……我の強い人ですね」


「そうだな……やたらと自分の名前を付けたがる人みたいだな。組織名と自分の名前が全く同一って少し不便じゃないのか?」


「なんかあんま深入りしちゃいけねえ奴の様な気がしてきたな」


「とりあえず話を聞こっか」


 それぞれに冷静さを取り戻し、再びダグザとの対話に臨む。


「あの、ですね。ティルナノーグの人達って不老不死なんですよね?」


 一番気になるところはそこである。スケロクを拘束した技、ダグザはハッキングと言っていたがそれが彼に効かないのは分かった。しかしだからといって不老不死の敵に対抗する手段があるのか。


「このダグザハンマーを使えば……」


「ぷふっ」


「対象を『死』の状態にすることがなんで今笑った?」


「え?」


「今笑ったよな」


「いや笑ってないスけど」


「……いや、絶対笑っただろ」


 ルカとダグザのコントを見ているうちに、ヴェルニーの気持ちは大分平静を取り戻した。もう通常時と変わらないと言ってよいだろう。


「まだ奥の手だから知られるわけにはいかないからな。さっきの警察には使わなかったが」


 その後も表側で叩くと「死亡」状態にし。その状態から反対側で叩くと「復活」させられるだとか、「それ意味あるのか?」と聞きたくなるような説明や、今後の展開などをダグザは話していたが、正直あまり頭に入ってこなかった。


「あのですね、てっきりダグザさんは……いや、ふふっ、個人名の方のダグザさんは何故僕達にコンタクトを」


「君はなんでさっきからちょくちょく笑っているんだ?」


「いや笑ってないスけど」


「……絶対笑ってるだろう」


 すでにルカ達の中では目の前のダグザは「この世界を作り出した悲劇の英雄」から「やたら自己主張の強いイタイ人」に成り下がっている。


「そうだな……」


 ダグザは、ハンマー(笑)を横に置いて、少しため息をついた。


「端的に言えば、話がしたかっただけだ。よそから来た人間と話すことで、自分の位置を確かめたかったのかもしれん。そうすることで、自分が何をしようとしているのか、何をなすべきなのかを、もう一度冷静に見てみたかったんだ」


 おそらくは以前に一度間違いを犯しているから。目先の戦争を終わらせるために不老不死化の技術ティトノシスを広めた結果こんな世界になってしまったのだ。


 同じ過ちを二度としないよう、自分を冷静に見つめ直す機会が欲しかったと、そういうことなのだろう。


「そして、ヴェルニー君と言ったな、君の気持は大変うれしいのだが、やはり君たちはこの世界の問題にかかわるべきではないと思う」


 言われなくてももうあんまりそういう気分にはなっていない、というのが実情ではある。


 が、当然そんなことは口にしない。それが大人の態度というもの。


「僕達は、次の階層へと進むことにします。ダグザさん、あなたの作戦が上手くいくことを、祈っていますよ」


「君達もな。私も、君達と対話することで自分の考えをまとめることが出来た。感謝しよう」


 こうしてルカ達はダグザと袂を分けることとした。外の景色は大分明るくなっていたが、やはり光源がどこにあるのかはよく分からない。


 この人造的な世界、やはり違和感を受けた通り理想郷などではなかった。いや、理想郷などというものは存在しないのだ。


「多分なんですけど」


 ペンダントの指し示す方向へと歩みを進めながらルカが呟く。何か考えがまとまったのだろうか。


「『生きる』っていうことは、それ自体正常なことじゃないんです。ただ『いる』だけで生きていくことはできない。生きるっていうのは世界に逆らい続けることなんです。だから、理想郷なんてものはあるはずがないんだ」


 あるはずのないものを存在させようとするからどこかにしわ寄せがくる。当然の仕儀である。そしてその「しわ寄せ」が今回の場合最悪の場所……『子供達』に来てしまったのだ。


 そのしわ寄せを解消するために、今は雌伏の時を過ごすダグザ。おそらく彼が行動を起こせば、ティルナノーグの世界に虐殺の嵐が吹き荒れることとなり、理想郷は消滅するだろう。


 だがそれは、必要なことなのだ。命が広がっていくために。


 どちらが正義などと軽々に断言できるものではないだろう。やはり、誰かが言った通り社会の問題は現地の人間が解決すべきものなのだ。


 「そろそろ、近そうですね」


 ペンダントの反応が少しずつ強くなってきた。


 辺りは貧民窟も抜けて、森の中へと入っている。虫の鳴き声や小鳥のさえずりが聞こえる。市民が自然を楽しむためのものなのか、それとも狩りでもするのか分からないが、このコロニーにはかなり広い範囲で自然が存在しているようである。


 斜面になっている部分の岩の陰、そこに出入り口があった。おそらくはこれが第三階層への入り口なのだろう。


「スケロク、頼む」


「おう」


 いつも通り、五感の鋭敏なスケロクが前衛として進む。


「ヴェルニーさん、大丈夫ですか?」


 穴へ入ろうとしたヴェルニーにルカが声をかける。


「すまないな、最近の僕は心配をかけるようなことばかりしているかもしれない」


 おそらく、ヴェルニーの抱えている歪みは彼の幼少期の体験に基づいたものなのだろう。以前にシモネッタの母に食って掛かったこともあったし、今回は子供が犠牲になっているということに異常に反応した。


 ともすればそれは正常な反応でもあるが、普段温厚なヴェルニーが感情をあらわにするのはただ事ではない。


「もう平気だ。次の階層へ行こう」


 あけすけ過ぎるほどに全てをさらけ出すナチュラルズのメンバーであるが、しかしその朗らかな笑顔とは裏腹に、ヴェルニーからはそこはかとなく「壁」を感じる。


 しかし未だ彼はその壁の先を開示するつもりはないようであった。ならば追及するのは無粋というものであろう。一行は岩間の穴に吸い込まれていった。

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