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地下組織

「奴らって……グリフィスさん達市民に永遠の命を与えた?」


 ルカの問いかけにダグザと名乗った中年男性は深く頷く。


「やはり接触したか、社会のダニめ」


 ルカ達の後方で声がした。振り向くと後方、ほんの十メートルほど離れた場所に紺色のユニフォームに身を包んだ体格のいい男性が二人立っている。


「つけてきてる奴がいるな、とは思ってたが、たった二人か」


 どうやらスケロクは尾行に気づいていたようである。しかしあえてスルーしていたのだ。たとえ咎めたところでどうにもならないという考えもあったのだろう。


「市民から通報があったんでな。異世界からの人間が監視もつけずに行っちまったから、もしかしたらダグザが接触するかもしれんとな。まさかビンゴになるとはな」


 制服の男はホルスターから伸縮式の警棒を取り出して構える。ヴェルニー達の装備に比べれば子供の玩具の如きものであるが、おそらく彼らもグリフィスのように不思議な力を備えているであろう。戦えば不利は明らか。


 しかしヴェルニー達と制服の男達の間に先ほどのダグザと名乗る男が入った。


「下がっていろ、客人。奴らの狙いは俺だ」


 その力を知ってか知らずか、男は大口をたたいた。焦ってスケロクが語り掛ける。


「お、おい! 奴らは不思議な力で……」


「だからだ。俺にハッキングは効かん」


「なに? ハッキ……」


 誰かが問いかけるよりも早く、ダグザと名乗った男は敵の懐に飛び込む。二人が為す直線の延長上に立って挟まれる最悪の事態を避けると関節蹴りを叩き込み、バランスを崩したところにアゴへの一撃。早くも一人は脳震盪を起こしてその場に崩れる。


「舐めるな!!」


 それに臆する敵ではない。振りかぶった警棒にはバチバチと電撃がはしっている。


「今だッ!」


 しかしその時であった。子供の声であったように思える。その掛け声とともに制服の男の膝裏に複数のさすまたが突撃、バランスを崩した男は何とか状態を維持しようと両手を広げ、その隙にダグザの一撃を受けてあえなく倒れたのである。


 ことが終わって見てみれば、バラックの建物の中から隙をうかがっていた十歳くらいの子供達がダグザの戦いに加勢したようであった。


「子供……あんた、随分ここの住民に慕われてんだな」


「そうしなければ生きていくこともできんからな……」


 ダグザはスケロクの問いかけに答えながら制服の男達を紐の様なもので拘束する。


「おい、お前ら。こいつらはシティの片隅にでも転がしておけ」


「了解!」


 元気よく答える子供達。ルカ達は未だ状況がよく呑み込めていない状態である。


「あの、ダグザさん……あなたがグリフィスさんの言っていた、『反政府勢力』なんですか? なぜ、そんなことを……」


「……ここじゃなんだ。大したもてなしはできんが、俺達のアジトに案内しよう」


 ルカは逡巡する。別に何かをしたわけでもなければ、ダグザから話を聞いたとて反政府組織に協力する気もない。しかしそれでもグリフィスの「決して問題など起こさぬよう」言われたことを思い出したからだ。


 彼らとの対話は結果的に内容に不穏さを覚え、ヴェルニーの気持ちを大変害したものの、直接何かされたわけではないし、むしろ一宿一飯の恩がある。表面上は親切さを受けただけなのだ。それを裏切ることになるのでは、とも思ったのだが、最終的にはグローリエンの強い希望もあってダグザについていくことにした。


 コンクリートと金属で構成された建造物はルカ達には馴染みがないものの、それでもここがアンダーグラウンドな雰囲気を孕んでいることだけはよく分かる。


 あまり小奇麗とは言えない建物の地下に通される。階段を下りて部屋につくと、ボロボロのソファに囲まれたローテーブルが見えた。そこにたどり着くまでも怯えたような眼の子供達が身を寄せあって、こちらを見ていた。


「すまないな、面倒事に巻き込むつもりはなかったんだが」


 特に礼儀作法などは必要なさそうである。何も言わずにダグザが先にソファに着席したので、ルカ達も空いているソファに遠慮なく座る。


「はい」

「どーぞ」


 子供達がルカ達の前にコーヒーカップを置く。可愛らしい動作に思わず笑みがこぼれるが、ふとあることに気づいた。


「そういえば……町の中心部の方には子供がいませんでしたね」


「子供は、町では犯罪だからな」


 首をかしげる。何かの「行為」が犯罪に該当する、というのならわかるのだが「子供」が犯罪とはいったい如何なることなのだろうか。


「市民がみな不老不死者なのは聞いているだろう? ここの住人はその数が完璧に管理されている。何らかの不具合で市民が減少しなければ新たに補充されることもない。よって……子供はティルナノーグに存在を認められていないのだ」


「認められてないって……見つかったら捕まっちゃうってこと? でも……ん? どうなるの? 罪を償って釈放……なんてことにはならないよね?」


 市民の数が管理されていることが問題なのだ。釈放などはされまい。しかしそれではまさか、子供であるというだけで「極刑」にでもなってしまうというのか。


「ティルナノーグでは人道的観点から『死刑』は廃止されている。だから既定の年齢以上の非市民は終身刑に処される」


 つまりは捕まりでもしたら一生牢屋の中から出ることはできないということである。


「犯罪者を養うのもタダではないからな。だからさっきみたいな警察に捕まると、『抵抗した』って名目で、ほとんどの場合はその場で始末されることになる」


「ええっ!?」


 思わず大声を上げてしまうルカ。当然と言えば当然だろう。一方では「人道的観点から死刑を廃止」などと謳いながら、一方では裁判を受けさせることもなくその場で殺してしまうというのだ。


 表面上は綺麗事を言いながらもその裏では残酷な事実が待ち受けている。このティルナノーグ実態を象徴しているような話である。


「既定の年齢……以下の場合はどうなるんですか?」


「うむ」


 ヴェルニーの問いかけにダグザは唸るように返事をして少し考え込んだ。いや、考え込むというよりは答えるかどうか迷っているようである。


「これを言うと……君達からすると非常に不快感を催すような内容から、義憤を覚えるかもしれない。あまりこの世界に深入りしない方が君たちのためでもあるとは思うが、それでも聞くか?」


「教えてください。どうなるというんですか」


 ヴェルニー。彼は以前はストリートチルドレンであったとスケロクから聞かされている。この町の子供達と以前の自分を重ね合わせているのかもしれない。


「既定の年齢は……類人猿や一部の海洋哺乳類の、すでに絶滅してしまっているが、それらの知能が人間の年齢と比較して同等であるとされるところから決められているようであるが、実際には非市民には戸籍などないからな。適当にでっち上げられて『規定以下』とされることもあるが……」


 回りくどく前置きをするダグザ。よほど言いたくない事なのか、歯切れが悪いように感じられる。


「既定の年齢以下は、食用児に回される」

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