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第二階層へ

「ぼんやりと光ってますね」


 やはりディフィニットからもらったペンダントの石は方位磁針のようにある一定の場所を指し続けている。


 そして、星明りから離れて木陰に入ると周囲を照らすほどではないものの、蛍光塗料のようにぼんやりと光っていることも分かった。


「微弱だけど、魔力を帯びてるみたいね」


 この竜の世界パータラには月がないのか、もしくは今たまたま出ていないだけなのかは分からないのだが、空にあるのは星の光だけなので大変に暗い。

 互いの位置を見失わないのにもこのペンダントは役立っていた。


 それはともかくとして、ディフィニットはこれの事を「座標」と言っていた。


「この竜のダンジョン、特にこちら(ガルダリキ)側は普通のダンジョンとはかなり勝手が違うわ」


 ヴァルモウエ側も七層以降はかなり特異なつくりになってはいたが、それでもまだ「ダンジョン」という体裁は整っていた。


「こちら側はなんというか……その、別世界?」


 ルカの言葉にグローリエンが大きく頷く。


 ヴァルモウエ側もモンスターやサキュバス三姉妹の様な変な奴らが住み着いてはいたものの、それとは大きく様相が違う。


 ダンジョンの一層というよりは、彼の言う通り別世界と繋げられているようなイメージに近かった。ここにはたしかに「世界」があり、「暮らし」がある。家畜小屋や、ナフェクたちの身体に合わせて作られている家屋もそうだ。そしてこの月のない空も。


 そんな広大な世界の中のどこかにぽつんと、異世界への……ガルダリキともう一つ、第二階層への出入り口がある。


 これは確かに羅針盤がなければ迷ってしまうだろうし、そしてこのペンダントは「鍵」でもあると、そう聞いている。


 ガルダリキに無関係な現地の生物が、間違って出入りしてしまわないための。


「そこの岩場の亀裂が、どうやら第二階層への出入り口のようだね」


 ヴェルニーの指さした先を見ると、確かに人がやっと一人通れるくらいの幅の小さな洞穴が岩場の斜面に空いていた。彼がペンダントを高く掲げ右から左へとゆっくりと動かすと、石は確かに洞穴の入り口の方を指したまま手の動きに合わせて揺れている。


 さて、一行は順々にダンジョンの中に入っていく。町に置き去りにしてきたが、もしシモネッタが同行していたら通行に難儀していた事だろう。


「バルトロメウスはあんな巨体でしたけど、いったいどうやってこのダンジョンを通ったんでしょうね?」


「あ~、人間に変身できるとかじゃないの? もし本当にこの世界を作ったっていうんならそれくらいのことは朝飯前でしょ? 今はボケちゃって、見る影もないけどさ」


 グローリエンはそう言いながら永続光コンティニュアスライトを洞窟の中に発する。この光のその先に、次の階層、というよりは次の世界があるのだろう。


「まあ正直言って、たいして危険な世界じゃなくって助かったぜ。パータラ? だっけ?」


 洞穴の中を進みながらスケロクは事も無げに言う。ルカは竪琴を抱きしめるように抱えながらなんとも言えない表情を浮かべた。


 そう、危険な世界ではなかったのだ。


 環境はヴァルモウエとたいして変わらず、住人は穏やかで、(一部無法者がいたものの)全体的に言えば秩序だった安全な世界。


「否が応でも、自分がこの世界の一員なんだと思い知らされました」


「はぁ? それが感想?」


 ルカの気持ちが十全にグローリエンに伝わったのかどうかは分からない。しかし彼はそれ以上は言葉にしなかった。


 ヴァルモウエは人間の支配する世界だ。ガルダリキの主な住人は魔族だというが、彼はそれをほぼ実体験していない。しかしパータラでは違った。


人間はこの世界の「主役」などではなく、ただの「一員」でしかないと、そう思い知らされたのだ。


 自分達がごく自然に体験している安全で平和な世界が、ほんの薄氷一枚の上に成り立っているものに過ぎないと。そしてそれはまさにデーモン達の侵攻によりヴァルモウエの世界でも崩れようとしているのだ。


「次は……どんな世界なんでしょうね」


「じきに分かるさ。ほら、もう出口が見えてきている」


 ヴェルニーの指さす方を見てみると、確かに少し明るい外の空気が見える。洞窟内もグローリエンの魔法で照らしてはいるものの、やはり自然光の雰囲気は違う。とはいえ向こうも夜か、非常に弱弱しい光ではあるようだ。


 どうやら夜のようである。昼間ではない。しかし薄ぼんやりと辺りが照らされている。しかし光源がよく分からない。


「月も星もないのに……何が光っているんだ?」


 ルカ達が出てきたのは巨大な木のうろのようなものに繋がっていた。


 森の中、キラキラと光を放つ蝶が辺りを飛んでいる、何とも幻想的な雰囲気である。


「まるで妖精の森だ。こんな世界があるなんて」


 詩人の(さが)か、ルカはいつの間にか持っている竪琴の弦を弾き始めた。月の光に染み込むように音の輪が広がり、それにつられてきたかのように彼の周りに蝶が集まり始める。


 夢と現の境が、現世と幽世(かくりよ)が混じり合いそうな、そんな光景であった。


「しかし一体ここはどこなんだろうね。さっきの世界もそうだが、こんな世界が、大陸のどこかにあるんだろうか」


平行世界(パラレルワールド)とかいうやつかねぇ」


「平行世界?」


「そう。この世界には……ていうか宇宙? には重ね合うようにたくさんの平行世界が存在しているんじゃないか、って話よ。確か。私も詳しくはないんだけどね」


「平行って……じゃあここはヴァルモウエの上か下にあるパイの層みたいに重なった世界、ってことですか?」


 ルカは目を凝らして空を見つめて見るものの、当然ながら別の世界が空の向こうに透けて見えたりはしない。


「いや、平行ってのは物のたとえっていうか、そう意味じゃないよ。私も上手く説明できるわけじゃないんだけどね」


「平行というよりは、ねじれといった方が近いイメージかもしれませんね」


 聞きなれない声。全員が驚いて振り向くと、そこには妙に落ち着いた雰囲気の、しかしまだ二十歳そこそこといったところだろうか。若い男性が立っていた。


「失礼、驚かせてしまいましたかね。ようこそ、ティルナノーグへ」

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