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作戦開始

「ということでまあ、何とか単独行動の許可を取り付けることはできたよ」


 そう話すヴェルニーの左目には青タンが出来ていた。


「なんかこう、グラットニィさんって、粗暴ながらもヴェルニーさんに敬意を払ってる、って感じなのかと思ってたんですけど、普通に殴るんですね」


「普通に殴るよ」


 青タンと引き換えの自由行動。


 現在(サン)アルバン率いる冒険者ギルド連合軍は恒常的に竜のダンジョン入り口付近を見張っており、モンスター達が町の方へと侵食してこないように定期的に集まって打撃を加えている。


 しかし相手の規模も判然としない上、サン・アルバンの方針もあり、威力偵察の域を出てはいないというのが実情である。


「基本的に僕とグラットニィは対等だ。剣の腕もね。ゲンネストのリーダーは僕だけど、ただの役割分担でしかない。その彼に今回は王子と冒険者の橋渡し役をやらせてしまってるんだから、申し訳ないとは思うよ」


 適材適所というものがある。グラットニィは見た通り前線で戦うファイタータイプなのだろう。本来は中間管理職には向かない性分なのだがヴェルニーが行方不明のため仕方なくベネルトン最強の冒険者パーティーのトップとしてサン・アルバンの下についていたのだ。


 ともかくこれで筋は通した。


 そろそろ陽の光は山の向こうに消え、夜の(とばり)が降りようという頃。モンスター達の動きも活発化し、冒険者達との戦いが始まるだろう。


「ヴェルニー」


 だんだんと殺気を孕んでゆく冒険者達の一団を眺めていると、件のグラットニィが声をかけてきた。


「どうせこっちはあのアホ王子の指揮下だ、今日も大した動きはできねえ。せめて派手に陽動はする。そっちできっちり手柄たてろよ」


 どん、と拳でヴェルニーの胸を叩き、そして顔を近づけて小さい、しかし低く響かせる声で言葉を続けた。


「だが、ゲンネストを抜けようなんて考えるんじゃねえぜ。おめえの本性を、そいつらは知らねえんだろ」


「心配は、無用だ」


 前線の方から、グラットニィを呼ぶ声が聞こえる。戦いが始まったのだろう。


 幸いと言っていいのかどうか、今までこの作戦にて冒険者側には深刻な被害は出ていない。それはサン・アルバンの「いのちをだいじに」作戦が功を奏しているのではあるが、このまま続けていけばじり貧になるのは明らかだ。


 モンスターやデーモンを討伐していっているとはいえ、何の成果もなく冒険者の疲労だけが蓄積されていくことになる。


 いずれそれは綻びとして現れ、表面化した時には一気に総崩れとなること請け合い。この作戦は、それをほんの少し先送りしているにすぎないのだ。


 ゆえに、サン・アルバンの指揮とは別に動いて、事態を収束する必要がある。


 サン・アルバン指揮下の部隊(実質的にグラットニィ指揮下)とは別に動く集団、ルカ、ヴェルニー、スケロク、グローリエンの四人。


 シモネッタとハッテンマイヤー、メレニーは町に残してきている。非戦闘員のハッテンマイヤーとメレニーを連れてくるのは気が引けるし、メレニーの面倒を見る人間としてシモネッタにも残ってもらった。


「他はともかくシモネッタは連れてこなくってよかったの?」


 グローリエンの言葉にルカは(ほぞ)を噛む。しかしこれでよかったのだとも自分に言い聞かせる。


「子供のことを考えたら、母親は必要ですから……」


 時間があれば実家に帰ってメレニーを預けることもできたかもしれないが、何しろ今は非常事態。そもそも「メレニーが赤ん坊になってしまいました」などいったいどうやって納得してもらえるというのか。


 現実的な選択肢としては、こうするほかなかったのだ。シモネッタには家を守ってもらって、父親である自分がしっかり稼いでくる。なんだか随分と所帯じみた考え方になってきてしまった。


 ルカは首を振って雑念を飛ばす。今考えることは一つ。


 デーモン達が突如として町を襲いだした理由は分からない。おそらくはそれこそこの人間の住む世界、ヴァルモウエを侵略せんとしているのだろう。


 だがデーモン側も全く話の分からない邪悪な者ばかりとは限らない。少なくともヴァルメイヨール伯爵とは話ができるはずなのだ。ならば相手側の本拠地に潜入して、解決のとっかかりだけでも作りたい。それが今回の彼らのミッションである。


「それにしても、どう進んでいけばいいものか」


 ヴェルニーが呟く。本隊と離れ、戦闘音は遠くに聞こえる。竜のダンジョンの入り口がある場所は把握しているものの、そこまでどう近づけばよいものか。


 何しろモンスターもデーモンもどういう能力を持っているのかが全く分からないのだ。


 すなわち、足音、匂い、魔力……何がきっかけになってこちらの存在を認知されるかが分からない。おそらくは入り口は封鎖されているとは思うが、そこまで近づくことすらできないのだ。


「気配を遮断するわ。……まどろみの中、我らの手掛かりを朝靄の中の羊の如く消し去り給え……」


「待て」


 気配を曖昧にする魔法をグローリエンが唱えようとした時であった。彼らのすぐ近くにある木の上から声が聞こえた。


「ガルノッソ!」


「デカい声を出すな」


 ぼろきれで身を隠した巨大なトカゲの体。ガルノッソは姿を現すとスルスルと木を下りてくる。


「ついてこい。一度だけ……一度だけ協力してやるが、そこまでだ。ダンジョンの入り口までは手薄なところを案内してやる」


 大きく背中を丸めた姿で、左右に体を振りながらガルノッソは歩く。前肢は類人猿のように地面につき、二足歩行ができるのかどうかも不明である。


 先日はその異様さよりも懐かしさに再会を喜んでいたルカではあったが、これほどの変化があったのだ。流石に彼に何があったのかが気になる。


「あの……ガルノッソ、なんでまたそんな姿に?」


「おめえに言われたくねえが……」


 少し立ち止まってルカの方を見る。普通は首は取れない。


「前に言った通り、デーモンにこんな体にされたのさ」


 歩きながら、ガルノッソはゆっくりと喋り始めた。

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