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決闘裁判

「Show Down!!」


「はぇ?」


 裁判長がひと際大きな声で叫ぶと、裁判官達が柵や机を片付けはじめ、あれほど盛り上がっていた野次馬達も大きく後ろへ下がってルカ達を中心に広場があらわれた。


「これは……いったい何が起きているんだい?」


 聴衆たちと共に後退しながらヴェルニーがハッテンマイヤーに尋ねる。


「決闘裁判です」


「決闘裁判?」


 ヴェルニー達のいるトラカント王国では聞いたことのない制度である。


「ええ。証拠や証人が不足していて裁判の決着がつかない時、被告が問われている罪を否定し、原告が現状の裁判に満足していないのならば、議論は拳によって解決することを法として認める制度がマルセド国にはあるんです」


 ヴェルニーは眉間に皺をよせ、鼻梁を思いっきり摘まんだ。


「んなアホな……」


 要は、腕力によって裁判の結果を覆していいという制度だ。無茶苦茶である。


 とはいうものの、実際そういう制度があるのだから仕方あるまい。ハッテンマイヤーが知っているのだからこれはおそらく革命以前からある制度なのだろう。ヴェルニーは気持ちを切り替え、背負った剣の柄を手で握りながら前に出ようとする。


「こうなったら仕方ない。僕が出てあの巨人を倒してくるしかあるまい」


「ダメです!」


 しかしそれをハッテンマイヤーが引き留めた。何故止めるのか。ルカは戦闘要員ではないのだ。スケロクを倒したモンテ・クアトロを相手に渡り合うにはさすがに荷が勝つ。


「ヴェルニーさん、あなた弁護士資格って持ってます?」


「えっ、なぜ」


 全く予想していなかったことではあるが、このマルセド巨人国では決闘代理人となるには裁判の代理人と同じく弁護士資格が必要なのだ。ようやくなぜ弁護士が段位制なのかがヴェルニーに理解できた。


 しかし、理解できたところで事態は好転しない。


「決闘裁判を発動する。原告側はモンテ・クアトロ議員。被告側は市民シモネッタと、弁護人ルカ殿によるタッグマッチとなる!」


 裁判長が声高らかに宣言した。ようやく事態を把握したルカの表情が困惑に歪む。要するに戦わなければならないのだ。シモネッタとルカの二人で、あのモンテ・クアトロと。


「すまない、ルカ君、僕達にできるのはどうやらここまでのようだ」


 ヴェルニーとハッテンマイヤーがルカとシモネッタの元に歩み寄り、シモネッタの大盾とメイスを彼女に渡し、下がっていく。


 こんな事態にはなってしまったものの、盤面としては力で無理やりひっくり返すという事態にまでは陥っていないのだ。


 暴力での解決を望まれている事態ではあるものの、まだ社会の規範に則った暴力であるというのが非常に混乱を招く。しかしこの戦いに勝利さえすれば、まだことを穏便に納められる可能性がある。


「いっそのこと、ハッテンマイヤーさんが弁護人になっていれば幻魔拳でヤツを倒せたんじゃ……」


「ルカ様! もう始まっています!!」


 ぶつぶつとルカが愚痴っているとシモネッタが注意を促した。その直後、地震のような揺れと爆発音がモンテ・クアトロの方から聞こえた。慌ててそちらに視線をやるが、クアトロはいない。


「上です! とにかく距離をとって!!」


 シモネッタの声に空を見上げると、確かにモンテ・クアトロがいた。空中にだ。彼の身長は五メートル。シモネッタの倍以上ある。


 体重は体積に比例するので身長が倍であれば体重は二の三乗に比例する。つまり八倍。シモネッタが二〇〇キロならばモンテ・クアトロの体重は実に二トンにも及ぶのだ。


 信じられないことに、その巨体が天高く舞っている。


 これはいったい如何なることなのか。どれほどの修練を積んだとしたら、これほどの芸当ができるようになるというのか。


 しかもモンテ・クアトロの技はただ跳躍するだけに留まるはずがないのは当然の仕儀である。


山岳(ジャコバン)派カラテ究極奥義」


 落下しながらモンテ・クアトロが空中で蹴りを繰り出す。


「ジャコビニ流星脚ッ!!」


 極超音速の蹴りが真下に向かって放たれた。


 そう、その蹴りはシモネッタ達に向かって発射されたわけですらなかったのである。彼は垂直に飛び上がり、そして真下に。落下しながら何もない虚空を蹴った。


 途端、地津波が起こる。


 土砂を巻き上げ土の壁が放射状に波紋として広がる。咄嗟にシモネッタは大盾を構えてルカを庇うように立った。


 虚空を蹴ったモンテ・クアトロの技は、決して狙いを外したわけでもなければただの威嚇でもない。スケロクを倒した時と同様超音速の技による衝撃波が周囲を襲ったのだ。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図とはこういうものを言うのだろう。事前に野次馬どもは周囲を離れて安全な場所にまで移動したつもりであったが、それよりもまだ衝撃波の広がりの方が大きかったようだ。


 地津波に巻き込まれた一般市民の悲鳴が轟く。


「る……ルカ様、大丈夫ですか……?」


「な、なんとか」


 さきほどまで公開裁判所の設えられていたベルネンツェ中心部の広場には、裁判のセットも、常設の噴水や花壇も消滅し、その代わりに小型のクレーターが発生していた。


「上手く行けばこの一撃で終わるかと思っておったが、さすがにそこまでぬるくないか」


 土煙の中から巨大な影が姿を現す。


 裁判中は貴族の様なキュロット姿であったモンテ・クアトロ議員。しかし地震の発生させた衝撃波によってその衣服はボロボロに破け、かろうじて残った白いキュロットと、そして黒い帯の姿はまさしくカラテ家のそれであった。


「逆転の目を、探さないと……」


 通常であればルカは後方支援。


 敵の攻撃の届かない後衛で味方の能力を上げるバフか、若しくは敵の能力を下げるデバフの魔法を旋律に乗せて送り、戦闘をサポートするのがルカの役目だ。


 ナチュラルズのオリジナルメンバーがいないこの状態で、その必勝パターンに乗せることが出来るのか。ルカはサンタ・ヴァルブルガの弦に指を乗せるが、それよりも早くモンテクアトロが体を大きく捻った。腰を深く落として右手を大きく引く。正拳突きの予備動作である。


「ルカ様、盾の影に!!」


「ジャコビニ流星拳ッ!!」

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