本番
「ガチイキ生本番種付けフ〇ック?」
「そう、ガチイキ生本番種付けフ〇ック」
時が止まった。
「ガチイキ生本番種付けフ〇ックをすることで、身の証を立てます」
そして時は動き出す。
というか公衆の面前で何度もフ〇ックとか言うな。
「あのね、シモネッタさん。一応公共の場でね。その、今までみたいに好き勝手な感じに行動するとね?」
奥歯にものの挟まったような言い方ではあるが、遠回しにシモネッタの奔放な言動をやんわりと注意するルカ。
「しかしですね、ルカ様。どうやら私のスパイダー騎乗位を見せないとこの方達は納得してくれないようですし」
そんなものルカも見たことはない。見たことはないが、見てみたい。が、どちらにしろ今はダメだ。ルカも性に興味津々なお年頃ではあるものの、公開フ〇ックに踏み切る度胸などない。
「あの……夫婦の証明はもう、いいので」
とうとう裁判長が折れた。
そもそもだ。
この女は公共の場に出していい人物ではない。
そのことに気づいたのだろう。放っておくとそのうち搾乳も始めかねない。
どちらにしろ、ルカが弁護側に立つことで何かが変わるわけがないのだ。法律にも詳しくなく、弁護士資格もなく、その上この国の人間ですらない。そんな人間が弁護したところで何かが変わるわけがない。
何となく納得がいかないものの、ルカはゆっくりと被告席に近づいていく。最初は怯えて、疲労の色を濃くしていたシモネッタも、今のやり取りで大分緊張がほぐれたようであった。一方のルカは裁判が始まる前から疲労の色を見せているが。
「なんかこう……抜けられない底なし沼に絡めとられていくような」
よりにもよってこの国における直近の最大のイベントごとの最中に外堀を固められてしまった。まあ、しかしそれはいい。大事の前の小事。シモネッタを助け出すことの前には些事に過ぎない。これまでになく群衆が湧いているような気もするが、ルカは雑音をシャットアウトする。
「ルカ様……必ず来てくれると、信じていました」
ご満悦のシモネッタ姫。彼女からすればたいして知りもしない弁護士が来るよりもルカが来た方が遥かにうれしいのだろう。
だが当然ながらルカは裁判などというものに関わったことなどない。都市部であろうと田舎であろうと、この世界では揉め事は基本的に「極めて小さな集団のルール」で決まる。一族の掟、村の掟、町の掟、ギルドの掟、教会の掟、領主の決めた掟。
それでも揉め事が収まらない極めて限定的な場合においてのみ裁判が行われ、そしてその善悪を判断するのも専門の裁判官ではなく、集団のリーダーであることが多い。
要は、ルカはこれまで全く関わったことのない世界なのだ。
「ではまず、一人目の証人を」
モンテ・クアトロの召喚した人間は、鎧を着込んだ男。どうやら光栄兵と呼ばれる革命軍の兵士のようであった。
「あれは、彼女をこの町まで護送し、拘置所に案内した時の話です」
逮捕された後の話になる。容疑が固まって、逮捕、という流れのはずなのに、最初に来るのがこれなのだ。この国の司法が体裁だけ整えて、まるで機能していないのがよく分かる。
「拘置所への狭い通路の途中、彼女を案内すると、彼女は私とすれ違う時に……」
いったい何があったのか。シモネッタは温和な性格ではあるが、大胆な行動もとることがある。まさか脱走を試みて暴力を働いたのではあるまいか、とルカは訝しんだ。
「……彼女は、右に避けて道を開けたんです」
観衆がざわめく。
悲鳴が上がり、シモネッタを非難する野次が飛び交う……のであるが、ルカには何のことなのかが分からない。騎士は続けて言葉を話す。
「これは彼女が右派であること、保守反動勢力であることを示唆しています」
そこまでいって騎士は証人席を下がった。証言は終わったようなのだが、ルカとシモネッタはぽかんとした表情を浮かべている。
次の証言……次の証人もまた光栄兵というわけのわからない兵士のようである。身なりを見るに、前政権からの正式な騎士、というわけではなさそうではあるが。しかし言っていることがトンチンカンすぎる。
「昨日の朝食なんですが、パンに塗るジャムをイチゴかブルーベリーかを選ぶとき……」
無駄に溜める光栄兵。もうなんとなく先の読めてきたルカとシモネッタは何とも白けた目で証言台を見ている。
「……ブルーベリーを選んだんです!」
観衆からは悲鳴が上がるが、ルカとシモネッタの反応は「あっそ」である。
「革命の象徴たる人民の象徴の色である赤を選ばなかったばかりか、王家の象徴たる色である青を選ぶなど……ッ!!」
「どっちかっつうと青じゃなくてブルベリー黒くない?」
その後も何人かが証人として出てきたものの、やれ右が左がどうのこうのだの赤色がどうのこうのだのでルカとシモネッタは首をひねるばかりであったが、なぜか民衆は沸いているようである。
「これだけの証拠がそろえば、市民シモネッタが『反革命容疑者法』を犯している反動分子であることは揺るぎない事実だ」
「ちょっ、ちょっとちょっと!!」
どうやら原告側の証言は一通り出たようで、モンテ・クアトロ議員はこれまでの証言から何やらよく分からない罪状を述べた。ルカはあまりにも無体な進行に抗議しようとするが、クアトロは止まらない。
「死刑」
「し、死刑!?」
「そうだ。専制政治への支持、革命への関与の欠如、そして何よりもこれが重い。元王族の家族。これらの条件を満たすものとして反革命容疑者法のもと、死刑を求刑する」
「ちょっと待ってくださいよ!!」
ご丁寧にもモンテ・クアトロ議員はその『反革命容疑者法』なる法律のどこに抵触しているのか、その詳細を説明してくれた。法律に詳しくないルカとしてはこれには助かるのだが、ここから逆転の目はあるのか。
「いったい彼女が何をしたというんですか。最も重い罪が、『王族の家族』であること? そんな馬鹿な話があるか!」
生まれが罪などという与太話を、当然ながらルカに許容はできない。いくらこの国のことはこの国の法が裁くとしても、者には限度がある。
モンテ・クアトロ議員はルカの言葉を聞いて、ゆっくりと座り直し、そして答えた。
「私は、この国に理想の国家を作るつもりだ。この国に、あまねく人民のためのカラテ民主制の国をな。そのためには、人民でない者には消えてもらうしかあるまい」




