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衝撃

 モンテ・ビアンコ司法官の肩口に叩き込まれた手刀は鎖骨を切断し肺を……いや、心の臓にまで達しているように見えた。致命傷である。


「く……」


 自らに叩き込まれた手刀に手を当て、苦しそうに顔を後ろに向ける。


「クアトロ……なぜ」


「恥知らずめ。貴様の行為は革命に対する反逆だ」


 大量の血を吐き出し、モンテ・ビアンコはその場に崩れ落ちた。


 飛来した巨大な人間。その身の丈は巨人族にしても破格にデカい。五メートルはありそうな巨躯。これが一体どこから飛んできたというのか。


「ちっ、厄介そうなのが現れたぜ」


 スケロクが舌打ちする。


 まさしく巨人、としか言いようのない体。シモネッタの倍以上の身長を誇る巨躯はもはや亜人という言葉にも収まらない、モンスターという方がふさわしいだろう。スケロクの体躯で、素手であれにダメージを与えるのは難しいだろう。


「モンテ・クアトロ……噂では原初の巨人族の血を受け継ぐと聞いたことはあったが、ここまでデカいとは」


 ジェリド王子が驚愕の表情を見せる。やはりこの五メートルの巨躯は非常識な大きさなのだろう。


「そ、その、クアトロ議員、我らは反対したのですが、司法官殿が、その……」


 騎士達も怯えているようである。仕方あるまい。先ほどのモンテ・ビアンコですら本の一撃にて騎士を一人屠ったのだ。このモンテ・クアトロの逆鱗に触れることなどがあればたとえフルプレートアーマーを着込んだ騎士であろうとのし紙のように綺麗に折りたたまれてしまうだろう。


「よい」


 スッと手を上げ、騎士を控えさせる。一挙手、一投足。そして言葉の一つさえも。全ての言動に力を感じさせる。圧倒的な存在感。


「指示通り首都へと連れていけ」


 言葉少なに指示だけを伝えるモンテ・クアトロ。騎士達は彼の指示に素直に従い、ジェリド王子とシモネッタを連れてゆく。当然これを承服しかねるのはスケロクだ。


「おっと、デカブツ。そんなことこの俺様が許すとでも思ってんのか? 脳みその位置が高すぎて血が回ってねえみてえだな」


 騎士達がスケロクの言葉に反応して一瞬足を止めたが、モンテ・クアトロは無言で首都の方角を指さす。すると一言の反論もなく再び道を進み始める。


 スケロクは舌打ちをしたが、しかし結局のところ騎士達とスケロクの間に立ちはだかっているこの男、モンテ・クアトロ議員をどうにかしなければ何もできないのだ。


「退け、小人。うぬらにこの国のことは関係あるまい」


「そうはいくかよ。あのとっつぁん坊やの方はともかくシモネッタは俺らの仲間なんでね」


「ならばどうする?」


 どうする、とは聞いてくるものの、しかし答えは一つしかあるまい。実際モンテ・クアトロはその言葉の後、構えを取った。


 十字を切るように腕を交差させ、右腕は脇に引き、左腕はまっすぐに降ろす。それと同時に右足を後ろに引いて半身(体制を斜めに相手と相対すること)に構える。


 その深く腰を落としたか前は、間違いなくカラテのものである。腰を深く落とした構え、といってもその状態でも三メートル、通常の巨人の身長ほどの高さがある。


 さきほどはほんの一瞬のうちに巨人の騎士二人の首を素手で落としたスケロクであったが、モンテ・ビアンコには内臓にダメージを与えるのが精いっぱいであった。この規格外に巨大なティターン族に果たして彼の攻撃が通じるのか。


「むんッ」


 攻撃事態は先ほどのモンテ・ビアンコとそれほど変わり映えはしない。牽制の前蹴りである。だが体格差が大きく違うのだ。下段の関節蹴りのような高さで人の胴ほどの幅のある中足(つま先立ちの時に床につく部分)が飛んでくる。


 速度はビアンコよりも速い。しかし体が大きい分予備動作も大きく、躱すのは難なくできる。


「クッ……」


 十分に引き付けてから横にそれて躱す。しかし直接触れなくともすさまじい風圧に吸い込まれそうになる。


 これまでスケロクの戦ったことのある相手では、巨大な生き物であればあるほど敏捷性で翻弄することができ、回避は簡単であった。しかし、これは格が違う。直撃を避けても風圧が襲ってくるのだ。


 そして体勢を立て直す前に次の攻撃が飛んでくる。打ち下ろし気味の正拳。スケロクは滑るように躱し、同時に右腕にまとわりつくように上り、肩口の外側から飛び膝蹴りをこめかみに入れる。


 テンプル(こめかみ)にクリーンヒットをすれば平衡感覚を失い、歩行が困難になる。だが、モンテ・クアトロの体幹は全くブレる気配はない。それどころか打撃をものともせずに宙に浮いたままのスケロクの腕をがしりと掴んだ。


 直感的に分かった。


 これだけの膂力があれば、カラテの技など必要ない。


 腕を握り潰されるか、それとも引きちぎられるか。いずれにしろただでは済まない。即座にスケロクは掴まれていない方の手で掴まれたての親指の関節を外し、一息に肺の中の空気を吐き出して脱力してスルッと引き抜いて難を逃れた。


「おのれ、ネズミのようにはしこい奴だ」


「そいつぁどうも」


 指の骨を繋げながら答える。しかしその余裕を持った態度とは裏腹に、スケロクは内心では焦っていた。


 先ほどの膝の攻撃は会心の一撃と言っても差し支えないほどの手ごたえがあった。それがこうもあっさりと返されてしまったのだ。


 それともう一つ。これまでの山岳(ジャコバン)派のカラテカは幻魔拳やビブリオバトルのような普通のカラテとは違う奇妙な攻撃方法を得意手として隠し持っていた。


 もしかすると、この巨躯の男もそんな攻撃を隠し持っているかもしれない。


「うぬの攻撃は我には届かぬが……少し捕まえるのには苦労しそうだな」


 そういうとモンテ・クアトロは再び大きく腰を落とし、右腕を引いた。そのままぐっと体を捻り、さらに腕を引く。まるで右腕を隠すように。


(なんだ……?)


 この構えにスケロクは困惑した。ただでさえ攻撃が当たらないというのにこんなテレフォンパンチ(予備動作で攻撃を相手に知らせてしまうような技)が当たるとでも思っているのか。


 もしくはカウンター狙いの迎撃態勢なのか。だがそれではこちらから仕掛けなければ時間が過ぎゆくのみ。ここで時間稼ぎをしていればヴェルニー達が後から追いついてくるはず。そうすればグローリエンの魔法で勝機が見えてくるはず。


 ここは見の一手か。そう考えて様子を見るスケロクであったが、予想外に先に動きを見せたのはクアトロの方であった。


 極限まで捻転した体全体の力が、一気に反転する。つま先、足首、膝、腰、肩、肘、そして手首へと、大地を蹴って全ての力が拳に集まる。


 それは、一見すればただの素振りに過ぎなかったかもしれない。


 だが、違う。


 虚空に放たれた正拳突き。恐ろしく速かったが、それ以外は普通の技に見えたが、直後、風景が歪んだ。


 空気の層が、レンズを形成して風景を歪ませたのだ。


 拳の攻撃ではない。衝撃波が、スケロクを襲ったのだ。

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― 新着の感想 ―
ひゃ、百歩神拳やーん(驚)! しかしなんでこんなにカラテカ多いの!? ってか、巨人全員がカラテやれば、兵士いなくても最強国になるんじゃ……!?
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