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ペンは剣よりも強し!!

「光栄兵の者五人が何者かに撲殺された」


「まあコワイ。下手人は捕まっておりませんの?」


 フルプレートアーマーに身を包んだ巨人の騎士達はそれだけで凄まじい威圧感を放っている。その騎士達を前にいつもののんびりとした態度を崩さずに対応できているベルナデッタもなかなかの胆力の持ち主である。


「市民の自由と平等をもたらす光栄に預かった正義の兵士に刃を向ける不逞の輩、決して見逃すわけにはいかぬ。館を改めさせてもらっても?」


「もちろん。ベルナデッタ・サンティは議会派のサンティ親方(うぇーかた)の娘ですから。協力させてもらいます。ところで、光栄兵が五人も? 何かの間違いじゃなくてですか?」


 応対するベルナデッタ達を物陰からルカ達が確認していた。


「なかなかに度胸がありますね。ベルさんは」


 ルカも彼女の胆力には驚いているようであった。


「思わぬ拾い物かもしれないね。彼女は。ここは彼女らに任せて、僕達は裏口から脱出するとしよう。いいね、ジェリド王子?」


「くっ、奴らせいぜい十人程度だ。ここを拠点に迎え撃って返り討ちに出来んのか」


「む、無理です。数が多いし、巨人はしぶとい。やりあってるうちに援軍を呼ばれる」


「いずれ戦うことになるのだ。ここで臆してなんとする」


 どうにもジェリド王子は巨人族の血がそうさせるのか、好戦派のようである。スケロクが何とかなだめすかして後方に退避させる。実際王子の護衛の騎士とヴェルニー達が力を合わせれば撃退できる相手ではあろうが、こんな局地戦で危ない賭けに出ていいことなど何一つないのだ。


「そもそもここは処刑された市民ウェリゴの屋敷ではなかったのか。なぜサンティ家の者がいる」


「父上が破格で買い取ったんです。そこが今問題なんですか?」


 ベルナデッタが時間稼ぎをしているうちにヴェルニー達は裏口へと抜けていった。


 大人数ではあるものの当然ながら巨人の国で巨人がうろついていることは珍しいことはない。このフォルギアータの町ではヴェルニー達のようなマニンゲン種も決して珍しくはない。


 待ち伏せなどされていなければそう脱出は難しい事ではなかっただろう。


 されていなければ。


「おや、こんな夜更けに大人数でどういたしましたかな? 市民トリエステ」


「くっ、貴様は……モンテ・ビアンコ司法官!!」


「モンテ……? 山岳派のカラテ使いか?」


 ヴェルニーが背負った剣の柄に手をやる。


 彼らを待ち受けていたのは表にいたのと同じほどの数の騎士を引き連れた、巨人としても大柄な、三メートル半ほどの大男。司法官のローブに身を包み、帯剣はしていないがマニンゲン種では両手で把持することも難しそうな分厚く、巨大な本を片手に持っている。


「いかにも。君の御父上に死刑判決を下した時は裁判長を務めさせていただいた。市民トリエステ、公正な法の裁きにご協力いただこうか」


「何が『市民』だ無礼者!!」


 一瞬のスキをついてジェリド王子の護衛の騎士が剣を抜き打ちした。


「いけませんな。私は行政官ではないのだが」


 しかしその瞬間ビアンコは逆に間合いを詰め、まだトップスピードに乗らない騎士の剣の刃を手に持っていた本で挟み止めた。


「六法全書白刃取り」


 そしてあいている左拳で騎士のあごを打ち抜く。ひしゃげた兜が宙を舞い、騎士は糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。


「退け! モンテ・ビアンコ! 光栄兵の殺害など俺は知らん!!」


「左様なものは些事。市民トリエステ、あなたには反革命罪の嫌疑が持たれている。ご同行願おうか。都合のいいことに姉殿もおられるようだ。なぜ武装しているのかは知らぬが」


「騎士ども、道を開けて! 魔法が使えない!!」


 敵味方合わせて二十人ほどの巨人がいる場は貴族の館の裏門ですら藪の中のように身動きが取れない。グローリエンは早々に魔法を使うのを諦めて大きく息を吸い込み、闇のブレスを吐き出した。月明りだけの心許ない視界に闇のヴェールが覆いかぶさるが、人が多すぎて目くらましとしては不十分である。


「くらえッ!!」


 巨人たちの体躯を踏み台にしてヴェルニーが飛び上がり、全体重をかけてモンテ・ビアンコ司法官に切りかかる。昼間に光栄兵と相対した時はその巨人鋼の篭手に剣を弾かれてしまったが、モンテ・ビアンコは鎧を着用していない。


 先ほどのような小手先の技で受けられるほどヴェルニーの剣は鈍くない。ビアンコもそれを分かっていたのだろう。今度は両手で法律書を把持して正面からそれを受けた。


「その程度で!!」


 あえなく本は両断される、と思われたが刃は中ほどで止まった。千ページを超える紙の多重装甲が上級魔人(グレーターデーモン)をも両断した剣を受け止めたのだ。


「ペンは剣よりも強し!!」


 だが光栄兵達を浮足立たせるには充分であった。裏門を覆っていた光栄兵達に向かってシモネッタが大盾を前にして突っ込む。王子の護衛の騎士達も動きを察して光栄兵達を押しのけて道を作った。


「王子! 脱出を!!」


 真っ先に反応したのはスケロク達ナチュラルズのメンバーであった。ヴェルニーは一瞬のスキをついて回りこみ、モンテ・ビアンコの膝裏に蹴りを入れて体勢を崩すと先頭になって走り抜ける。それに続いてスケロク、グローリエン、ルカ、ハッテンマイヤーも走り出す。


「逃すな! 取り押さえろ!!」


 体重の重い巨人族は一度体勢が崩れると復帰に時間がかかる。モンテ・ビアンコが号令をかけるものの走り出したヴェルニー達は止められない。


「一気に町の外まで駆け抜けるぞ!!」


 はしこい小人達を巨人は止められない。未だ闇に飲まれて混乱状態にあるベルナデッタの屋敷を抜けて走るナチュラルズのメンバーであったが、シモネッタが振り返って立ち止まった。


「ジェリド!!」


 なんと、肝心のジェリド王子が光栄兵に捕らえられてしまっていたのだ。


「シモネッタさん! 一旦逃げるんだッ!!」


 それに気づいたルカが声をかけたが、しかしシモネッタが引き返す方が早かった。自分を殺そうとした愚弟のことなど捨て置けばよいものを、彼を助けるために戻ってしまったのだ。


 それをルカが追おうとするが、スケロクが彼の肩に手をかけて引き留めた。


「一旦退く! 取り戻すチャンスはいくらでもある!!」


「くっ……」


 もとよりメレニーを抱きかかえた状態で巨人たちの騎士相手にルカができることなどそう多くはない。彼も頭ではそれを分かってはいたのだ。


「奴は裁判をすると言っていた。抵抗派の首魁となる二人をこの場で殺したりはしないはずだ! 一旦退いて体勢を立て直すんだ! 必ず首都までの間に取り戻す!!」


 最終的にはヴェルニーに説得されて彼も退くことになった。町の闇夜に紛れて、ナチュラルズは分断されてしまったのだ。

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