表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伸手  作者: 久志木梓
5/9

五、叫喚

 蒙塵(もうじん)の一行は、輿車(よしゃ)もなく牛車もなく、洛陽(らくよう)大路小路(おおじこうじ)(かち)で走る。

 王城(おうじょう)を焼き落とす(ほむら)で、四方(よも)はまた日の昇りたるが如く、赤く、明るい。

 一行の背で、年古(としふ)りた三百歳(みもとせ)宮々(みやみや)が燃ゆ。冬官(とうかん)の技を競いて建てたる(たま)(うてな)が、春秋秦漢(しゅんじゅうしんかん)御代(みよ)から伝わる玉器神剣(ぎょっきしんけん)が、聖人君子の徳恵(とくけい)真粋(しんすい)たる典籍(てんせき)が、篤学博雅(とくがくはくが)文藻(ぶんそう)精華(せいか)たる文籍(ぶんせき)が、なべて灰燼(かいじん)になろうとしている。男の絶命の喚声(かんせい)耳朶(じだ)を打つ。女の陵辱(りょうじょく)さる叫声(きょうせい)が鼓膜を震わす。中華のあらゆる歴史と人倫(じんりん)蹂躙(じゅうりん)して飽くことのない(えびす)どもの歓楽の声が、通りに響震(きょうしん)す。

 一行の右方左方(うほうさほう)に広がりたるは、廃墟である。(こわ)され焼かれ、(まった)き形を(とど)むものは一つとしてない。かつての西市(せいし)に近き街路を一行は行くが、人のあふるる華やかりし在りし日の姿を想起(そうき)させるものは、皆目(かいもく)ない。

 宦官(かんがん)の足下で、軽く堅いものが踏み割れる。土器(かわらけ)か、あるいは白いので、骨か。

 前に、人の(すね)を咥えし野犬が居る。一行に杖で払われ蹴散らされし野犬が落としたる脛を奪うは、廃墟から這いずり出でし、人であった。


 蒙塵(もうじん)の一行は、ひたぶるに洛水(らくすい)へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ