2_迷いの森
「タマは姫の落とす雫を後からわからぬよう食すのだ ・・・・・・そうすれば タマ以外の者は帰り道がわからなくなろう」
「どうゆことですにゃ?」
「姫のまわりに敵の内通者と見られるものがおるのだ いや もう殆どが内通者の駒であると考えておる そうだ サドラもすでに敵の策の中 ・・・・・・」
王は深いシワを眉間によせながら更に続けた
「お前はこの城を出ることすら許されておらん そしてサドラにも信用されておらんのであろう 故に私はお前に姫を託すのだ 姫を どうか あの子を守ってやってほしい」
私はこの国に自分の国を滅ぼされここへ連れこられた 国王も私のそういった素性を知らないわけではなかろう しかしそういった事情をふまえた上でも私に姫を託さなければならないほどにこの城の中身は腐ってしまっているのだろう そして私の頭に一筋の考えが浮かぶ・・・・・・
迷いの森で雫を吸収した後は一人で逃げればよいと・・・・・・
「わかりましたにゃ」
私は少しだけ微笑を含んだ顔を王に返しながら返事をした
「タマ こちらへ来い」
「は はいにゃ」
私は操り人形のように王の前まで歩く
「すまない」
そういって王は私の頬に魔力で光る手をやさしくかざすとしばらく詠唱をした
そしてそのあと部屋においてあった手鏡をもってくると不思議な顔をしている私に持たせた
自分の顔を見た私ははっとする なんと頬には先程王が私にかざした手のあとがくっきりとあざとなってついていたのだ
「タマ すまぬ サドラに気取られぬよう顔にあざをつけた 心配せずともよいそのあざは明日の晩には消えよう サドラにはこういうのだ 姫について王より直接叱りを受けたと・・・・・・そしてこのあざはそのとき受けた傷だと 奴のことだタマのこのあざを見て私から殴られたとでもいえば 疑いもせずほくそ笑むに違いなかろう・・・・・・」
「さてと・・・・・・」
王は普段見せないようななにかふっきれたような顔を見せると部屋をでていき謁見の間へと帰っていった
私はその後を追って頬を抑えながら足をひこずりながら謁見の間へと入る ちなみに足の負傷は私のオプションだ
謁見の間へ入るとすでに王は玉座へと座っており厳しい目を私に向けていた
・・・・・・
「今回の件 本来なら目付役サドラが負うべきの呵責 私が個人的にタマへ罰を与えた サドラよ 今後このようなことが無いようしっかりと姫への忠誠を誓え」
「ははああ」
私の顔を見たあと王のこの言葉でサドラは一度真っ青になりそのまま平伏した
そしてその後私の方をむくと王に見えないようニヤリとほくそ笑んだ
(っく 王の言うとおりにゃ 分かっているけど腹立たしいにゃ)
私は悔しい思いを抑え神妙な顔でサドラを上目遣いで見ることしか出来なかった
・・・・・・
次の日まだ夜も開けきらぬ頃 私と姫 サドラの従者2人は城から迷いの森へと出発した
サドラの従者2人はサドラが王の衛兵の中から選任したものだ サドラとの会話の親密さを考えるとおそらく敵の工作員で間違いないだろう
「姫様 タマは後方で安全を確認しながらついて来てもらいます 大丈夫です タマもちゃんと見えるところにいますからね」
サドラはそういってサドラと2人の従者で姫を囲むように陣をつくった
「姫様がお前が見えるギリギリのところをついてくるんだよ お前は言われたことだけしてればいい わかったか」
「は はいにゃ・・・・・・ 姫様 それではタマは後ろの方を見ながらついていきますにゃ 祠ではお話もできるかとおもっていますにゃ」
私はそう姫につげると姫に尻尾と手をふりながら後ろの方へ向かい待機した
サドラにはなにか考えがあるのか私を姫から遠ざけるよう画策しているようだ
だが雫を食しながら道を歩くよう王に教えられた私にはかえって好都合である
「それでは出発する」
サドラの声により私達はゆっくりと森の中へと進みだした
「姫様 ここで」
サドラの指示により姫が根源の証明に手をかざすとそこに光る小さな雫がぽたりと落ちそこが標となっていく
しばらく歩き私の存在がサドラたちにとって薄くなった頃 私は気づかれぬよう地面に落ちている光る証明の雫を拾い口へと運んだ
そして飲み込む
「ぐあ にゃ」
体中に駆け巡る底しれぬ黒いパワーが一瞬吐き気を催すがぐっとこらえる 大丈夫 サドラは私のこの異変にきづいていないようだ
そして雫を体へと取り込めば取り込むほど私は体に魔力が宿るのを感じている
祠へつくころ気がつけば姫の落とした証明の雫の殆どは私の腹の中へと収まっていたがサドラや従者たちはそんなことも露知らず祠での儀式の準備を始めていた
「さあ 姫様 あそこに湧いている一口お飲みになってください・・・・・・」
サドラは姫に優しくそう言うと姫をそっと押し出した
「タマ・・・・・・」
姫が私の方を不安そうにながめたため私は微笑をつくりそっとうなずきその行動を後押しした
姫はトボトボと歩き湧き水のところまで歩き立ち止まるとサドラに習ったであろう作法をそつなくこなし水を作法で使う神器ですくったあとそれに口をつけた
私達にはこのとき姫に何か異変があるようには見て取れなかったが実は姫はこの儀式により王族のみが持つことができる特殊なスキル 王気の波動を会得していたのにきづいたのはもっと後のことであった
「どうかされましたか?姫・・・・・・」
「い いいえ ばあば はやくお家へ帰りましょう タマ タマ 帰りはこっちにいてください ばあばたちは後からついてきて なにか祠の中がとてもこわいの」
「しかし ばあばは姫のおそばにいなければ・・・・・・」
「いいの タマと一緒がいいの!」
サドラはひどく焦った様子で姫に近寄ったが姫は厳しい表情でこれを拒絶し私を近くへと引き寄せた
サドラは急に態度の変わった姫に目を白黒させるとしぶしぶ従者たちに命令をくだし少し後方を歩くよう指示した
「走って!タマ」
サドラたちと少しだけ距離が取れたその瞬間姫は私の手をとると森の中を駆け出した
どういった理由かはわからないが姫がサドラと離れようとしたことは私としてはこれとないチャンスであった
姫はしばらく走った後落としてきた標がなくなっていることに気づく
「タマ・・・・・・帰り道 わかんなくなっちゃった」
姫はたちどまると泣きそうな顔を私に向けてきた
その時私は不謹慎にもにやけていた