第十六章 「わたしに未来を任せて」
「だれ……?」
闇の底にゆらぎが生まれた。波紋がゆっくりと確実に聖杯の底に広がっていく。クレアには止められなかった。
「なんで……今さら来たって、遅いよ……」
うつむくと、真っ黒で毛むくじゃらのごつごつした体が現れる。大木のように太い四肢の先には、子どもをにぎりつぶせそうな手と、地の底を力強く踏みしめる大きな足があった。
「この子といっしょに、ワタシは消える」
神話型イドラの体さえあれば、どんな恐怖や痛みも怖くない。
「じゃま、させない」
クレアは拳を固めて前を向く。大きなスポットライトの光が降り注いだ。そして、もう一つのスポットライトが目の前を照らす。その小さな灯りの元に一人の女性が現れた。
「うわっ!」
驚きの声を上げたのはジニーだった。
「他人の聖杯の中って、ホント不思議だわ」
ISCIの制服姿だった。胸元を大きく開けたブラウスに、丈の短いスカートで腰に手を当てている。ジニーはどんな場所でも自然体だった。
「あんたが、クレアとサスカッチの融合体? ここで退治したら、クレアの聖杯浸食を止められるのかな……」ジニーが不敵な笑みを浮かべた。「ま、このタイミングでこの展開なら、ありえるよね♪」
「ここから、出ていけ!」
クレアの叫びが、漆黒の空間に響き渡る。ジニーの向こうから、真っ赤な夕焼けが燃え広がってきた。真っ暗だった聖杯の底に、紅く照らされた四階建ての校舎と校庭が現れる。
「クレアの学校かな? いいステージじゃん」
「出ていかないなら……叩き出してやる!」
巨体であることを忘れるほど軽い体で機敏に飛び出し、固くにぎった拳を振り下ろした。ジニーが後方へ飛び退く。拳が校庭にめり込んだ。
「やってみなよ」胸に手を当てたジニーが若草色の輝きに包まれて輝化を宣言した。
「輝けっ!」
ジニーが変身した直後。クレアはさらに詰め寄って襲い掛かる。
「そんなに、焦んなしっ!」
ジニーが慌ててさらにバックステップする。現実世界での彼女よりも動きが鈍いことに気づいた。さらにもう一歩踏み込んで、右手を伸ばす。
「なっ!」
宙に浮いた彼女の脚をつかみ、校庭に向けて力任せに叩きつけた。
「ぐっ、うぅっ!」
ジニーは受け身をとり、くるっと後転して着地する。痛みをこらえるように歯を食いしばって、ライフルを抜いた。右手一つのレバーアクション。銃口がピタリと静止する。
「おかえしっ!」
ばぁんっ、と目の前で大きな花火が開く。クレアは両腕で顔を覆い、アドミレーションの散弾を受け止めた。ものすごい衝撃で両腕が吹き飛びそうな気がしたが、皮膚の表面が焦げるだけで済んだ。そのまま大股でジニーに殺到する。
もう一度、ジニーがトリガーを引く。押し負けないよう突撃をつづけ、体ごとぶつかった。ジニーは突き飛ばされ、再び校庭に転がる。
「くっ、そ……やりたい放題じゃん」
「さっさと出ていってよっ!」
「出てけって言われても……どこが出口だかわかんないし」
「……それなら、アナタを消滅させる」
「へぇ、そんなことできんの? 一昨日、アタシにぼこぼこにされたくせに」
「ここならできる! アナタは今、力を出し切れていない」
ジニーが苦笑いをする。
「ばれてたか」
「仕返ししてやる」
クレアは憎しみの視線を投げつけると、ジニーから見つめ返された。彼女の穏やかな瞳に、静かな迫力を感じる。
「あんたの退治が無理そうなら……覚悟、決めないと」
ライフルをホルスターに納めながら、ジニーがつぶやいた。
「覚悟って、なに……」
「ん? アタシも聖杯浸食を引き受けることだよ」
「……なんのために? なにをする気?」
「クレアとアタシ、二つの聖杯に、あんたを分け合う。連携してあんたと戦えば、白のアイドルに早く戻れる」
「それは、プロデューサーの力。アイドルができることじゃない!」
「そうかもね。でも、ワンチャンあるかもよ。できたら、すごいじゃん♪」
「そんなこと、できるもんか!」クレアは胸を押さえる。「できたとしたって、この黒い感情を鎮められっこない! 自分にも理解できないものを、誰がどうやって癒すのよ! このままサスカッチと痛みと苦しみを我慢しあって消えるしかない。もうどうにもならないのよ!」
ジニーが、目を伏せてじっと考えている。
「なにか、言ってみなさいよ!」
「クレアとアタシなら、どうにかできるかもしれないよ」
ジニーの視線がまっすぐ突き刺さった。ここまでの軽薄な響きとは異なる重く低い声音には、裏を感じなかった。
「そんなこと……あるわけないっ!」
クレアの視界が縦に割れる。視界が暗転し、亀裂から夕焼けが漏れてきた。闇が上から順に左右に割れ、ジニーの真摯な瞳を再び受け止めた。
「へぇ、そうなってるんだ。着ぐるみだね」
大猿の顔を左右に割りひらくと、クレアは中に満たされた粘つく黒いアドミレーションを、ずるっ、ねちゃっ、とかき分けて外に出た。
「その、体……」
ジニーが顔をしかめる。しかし、目は逸らさなかった。
着ぐるみから抜け出したクレアは、宙に浮いたまま小さな体を確認する。全身くまなく傷や腫れ、あざで覆われていた。母親や同級生から受けた心と体の痛みすべてが表れているのだ。
古い傷ほどどす黒くただれている。一番新しいのは、右手に負ったナイフの切り傷だった。どくどくと真っ赤な血が流れ出ている。
「ほら、こんな傷だらけのワタシをどう癒してくれるの!」
「クレア……」
「ワタシは十二歳のまま大きくなれないの……。どうにもならないって、わかった?」
ようやくあきらめてくれる。そう思っていると、「それでも」とジニーが言った。
「なんとかなる」
「はぁっ!? なんで、そうなるのよっ!」クレアは苛立ちを抑えられなかった。「この傷は、くそみたいな母親と、いじめでしか自分の機嫌が取れない同級生たちに与えられたの! アイツらが、ワタシの人生をめちゃくちゃにした! ワタシは不幸で、ワタシは被害者!
だから、ワタシはダメなのよ! なにをしたって思いどおりにならないし、上手くいかない。それなら、自分が消えるのを静かに待つしかないじゃない!」
クレアは、サスカッチの着ぐるみの中に戻った。左右に分かれていた顔が元に戻ると、大猿の全感覚と自分のそれがつながる。
「あのさ」ジニーが尋ねてきた。「クレアが不幸なのは、母親や同級生のせいってこと?」
「そうだよっ! ほかになにがあるっていうの!」
ジニーが不機嫌な顔をする。「あんたが嫌い」と言われたときと同じ顔だった。
「あるよ。あんたが不幸なのは、あんたのせいなんじゃない?」
「なっ、なに言ってるのっ!」クレアは、我を失ってジニーをわしづかみにした。「そんなこと、あるわけない!」
衝動的な怒りに任せてにぎりしめる。ジニーの顔が苦悶に歪んだ。
「アナタも、いじめられる方が悪いって言うの!」
突如ジニーが、かぁっと輝く。アドミレーションが急速に励起される。
「あつっ!」
思わず手を開く。ジニーが校庭に降り立った。すかさずライフルを抜き、トリガーを引く。視界がまばゆい緑で覆われて、激しい衝撃が襲い掛かってきた。
「ぅぐっううぅ!」
着ぐるみの顔が吹き飛ばされていた。クレアの上半身が完全に露出している。ジニーがライフルを下ろして、言った。
「なに言ってんの? いじめる方が悪いに決まってるし。あんたは紛れもなく被害者だよ」
「だったら、ワタシが不幸なのは、アイツらのせいってことじゃない!」
「違うよ。あんたが不幸なのは、虐待やいじめと直接関係ない」
ジニーがクレアを見上げて、懸命な様子でつづける。
「クレアは成長してる。虐待やいじめから逃げることができるし、居場所だって自分で探せる。なにが幸せかも自分で決められる」
これ以上聞きたくなくて、クレアは大声で否定した。
「そんなこと、できない……。ワタシに、そんな力はない!」
ただれた傷から、紅い血が噴き出した。ぱたたっとジニーの体や、校庭に飛び散る。
まっすぐに向けられるジニーの瞳が急に怖くなった。
「ワタシには許されてない……」
ライフルで吹き飛ばされた痕が盛り上がってサスカッチの顔を再生する。
「ワタシは、ずっと被害者なんだっ!」
組み合わせた両手に渾身の力を込めて、ジニーに振り下ろす。
そのとき、校庭に散った血液が、小さな紅い結晶となった。それが何千倍、何万倍と急速に成長し、飛び退いたジニーと同じ大きさになる。
結晶に両の拳がぶつかった。
ひびが広がって地面にまで達し、破裂する。紅い欠片が舞い上がった。
そこには、クレアとまっすぐ向き合う凛々しい少女がいた――
「やっと、たどり着いた」
振り下ろした両手をだらりと垂らしたまま、大猿がこちらを呆然と見つめている。
後ろから、肩をぽんと叩かれた。
「出てくんのが遅いよ、クレア。いいとこぜんぶもらうとこだったぞ」
「すみません。なかなかここまで降りてくることができなかったんです」
「あのさ、リンといっしょに来たはずなんだけど、どこにいるか知らない?」
クレアは胸に手を当てて言った。
「彼女は、ジニーの中にいます」
他人の聖杯の中では、自分の意志を持って長時間活動することはできない。今、ジニーがサスカッチの姿をしたクレアと戦えているのは、リンからアドミレーションが供給されているからだった。そう伝えると、ジニーが驚愕の表情を浮かべる。
「すご……あの子って、いったい何者なの?」
大猿のクレアが大きな声を上げた。
「アナタは、だれ!」
クレアは大猿の顔を見上げる。
「わたしは、クレア。あなたもクレアだよね。十二歳の。ようやく会えた」
「ワタシと会いたかった? なぜ?」
「会って話さないと、先へ進めないなって……なんでもいいから、いっしょに話そう?」
「話すことなんか、ない!」
「それなら……わたしの話を聴いて?」
表現できる。それは、とても嬉しかった。ずっと言いたかったことを伝える。
「わたし、強くなるよ。向き合っても卑屈にならずに、自分を大切にする」
「……それが、なんだって言うの?」
「だから、そんなに絶望しなくてもいいよ、ってことかな」
「どうして……そんなこと言えるのよっ!」
着ぐるみの拳が振り下ろされる。校庭が揺れた。
「虐待されて、いじめられて、裏切られて……最後は屋上から飛び降りて、たくさん傷ついた。アイドルになって、その傷は癒えたと思ったのに、心の奥深くに残っていてワタシを苦しめる。これは、被害者として生きる運命は変えられないってことでしょ? 扇動者のライブの後、もう一度自殺しようとしたじゃない!」
クレアは大猿の拳に手を触れた。
「でも、そのあとジニーたちから大切なことを学んだよ。それで、キャメロットのみんなと本音でぶつかり合って、気持ちや自分のやりたいことをちゃんと伝えた。されるがままじゃなくて、わたしだって自分の意見をもってぶつかってもいい。ぶつかってダメなら逃げたっていい。そうやって生きてもなんとかなる、ってわかった。だから、わたしは被害者なんかじゃない。わたしは、自分を大切にできるし、誰かと向き合って、その人を大切にすることもできる」
十二歳のクレアが手を引っ込めて、頭を抱える。
「だって……それでも……」
クレアは歩み寄って、さらに手を伸ばした。
「わたしは、ちゃんと成長しているよ。だから、わたしに未来を任せてほしい」
ジニーがクレアの横に並ぶ。
「がんばったね。クレア」ジニーが大猿のクレアの方を向く。「で、あんたはどうする?」
大猿が、頭をかきむしる。皮が破れて、ぶしゅっと黒い液体が噴き出る。破れ目にぐっと両手の五指を差し込むと、生々しい音を立てて一気に割りひらいた。
サスカッチの顔がいびつに引き裂かれて、黒い粘液が当たりに飛び散る。着ぐるみの中のクレアは、その液体にまみれながら叫んだ。
「やっぱり、信じることなんてできないっ!」
黒いアドミレーションが敵意をもって渦巻く。クレアは、すっと胸に手を当てた。あふれてくる紅い輝きをまとい、輝化を宣言した。
「輝け」
変身が終わると、クレアは十字槍を校庭に突き刺し、ヘルムに触れた。固定具が自然に外れる。一息に脱いで、放り投げた。地面で一度跳ね、アスタリウムの欠片となって消滅する。
「あなたと、ちゃんと向き合う!」
黒い液体に濡れた大きな拳がクレアとジニーを襲った。二人はそれぞれ、紅い結晶が付着した槍とマフラーを巻き付けた腕で受け止める。
「もっと、あんたも言いたいこと言ったら?」
ジニーが十二歳のクレアをあおる。彼女は目に涙を溜めて、苦しむように言葉を吐く。
「言いたいこと? そんなの誰も聞いてくれなかった!」
着ぐるみがうごめく。全身の皮を突き破って、黒い触手が生えてきた。
「誰も助けてくれなかった!」
触手が大猿に巻き付いていく。着ぐるみの中の少女にも絡まる。
「その代わりに、みんながワタシを傷つけた!」
触手が破れて、どす黒いアドミレーションが流れ出る。大猿の体が黒い粘液にまみれた。
「だから、ワタシはこんな姿なの……」
沼人間のようになったサスカッチが、襲い掛かってくる。
「これからも、ずっと傷つけられる! それでも任せろって言うの!?」
クレアはヘドロのかたまりのような拳を受け止めた。飛び散った黒いアドミレーションにまみれながら、うなずく。
「それでも、わたしを信じて任せてほしい!」
クレアの十字槍が紅く輝く。
「アタシの分も、あの子に届けて」
ジニーからアドミレーションのかたまりが渡された。槍で受け止めると、紅と緑の輝きが混ざり合う。リンの輝化光のような橙色の輝きに変わった。
――一生をかけて、あの子と向き合う。
クレアは覚悟を決めた。十字槍を構えてもう一度、宣言する。
「わたしに、未来を任せて!」
触手による拘束の隙間。そこからわずかに覗く、揺れる瞳。
「ワタシは…………」
その瞳が、定まった。
小さな体で群がる触手を引きちぎる。触手の断面から噴き出す黒い液体に構わず、着ぐるみから抜け出した。
ギギャアァァァァッ――――!
顔も口もないのにサスカッチの叫びが聞こえる。ひとりにしないで、と訴えているようだ。
十二歳のクレアが着ぐるみから飛び降りた。
着ぐるみは少女を抱きとめようと、太い腕を動かす。しかし、小さな体はするりと通り抜けてしまった。サスカッチは自分で自分を抱いた姿で、叫ぶのを止め、動かなくなる。
小さなクレアが校庭に着地する。バランスを崩してこけてしまうが、それでも顔を上げて、クレアに言った。
「アナタを、信じますっ!」
「ありがとう!」
クレアは橙色の十字槍を抱えて、沼人間に向かって走り出す。輝化防具の噴出口から、圧縮した紅い蒸気を後ろに向けて一斉に排出した。
「必ず、未来にたどり着く!」
十字槍の輝きと一体になり、橙色の奔流と化して黒いかたまりへ突き進み――
サスカッチの腹を貫いた。
クレアは、校庭に着地して振り向く。腹の穴から疑似聖杯の残骸が覗いている。
それが校庭に転がったとき、大猿は塵となって消滅していた。
塵の舞う中、小さなクレアが体を起こす。クレアは輝化解除して手を差しのべた。彼女の背丈に合わせて膝立ちになると、小さな体のすべてが目に入る。
「こんなに傷ついていたんだ……」
クレアが震える右手をとる。大きな切り傷から血がひとすじ垂れてきた。
「あなたが耐えてくれたから、わたしがいるんだよね」
あざだらけの顔がクレアと向き合った。
「ずっと目を背けていて、ごめんなさい。これからあなたの傷をちゃんと癒すからね」
手のひらの傷口をふさぐように右手を重ねる。少女が口を開いた。
「これ以上、ワタシにウソをつかないで。ワタシを傷つけない大人になって」
「うん。わたしの未来への責任。絶対に果たすよ」
「ありがとう」
小さなクレアが胸に飛び込んできた。抱きとめると、彼女は声を上げて泣いた。すべてを包み込みたくて、きつく抱きしめる。
「いっしょに、行こう」
胸の中の少女がこくりとうなずくと、紅い輝きそのものとなった。そして、クレアの胸に吸い込まれ――そこにいるのは十七歳のクレアだけとなった。
夕焼けの校舎と校庭が消滅し、暗闇に戻った。隣で見守っていたジニーが声をかける。
「これからは、あの子の話、いっぱい聴かないとね」
「はい」クレアはしっかりとうなずいた。「あの子と、ちゃんと向き合います」
「つらいことがきっとある。そのときはアタシたちを頼ってね」
ジニーはクレアの頭を撫でて、つづけた。
「クレアは、すごいね」
「ジニーさん……わたしと向き合ってくれて、本当に、ありがとうございました」
クレアの瞳が涙に濡れる。ジニーに抱き着いた。彼女にも抱きしめ返される。
今度は、クレアの胸から紅い輝きがあふれてきた。
その輝きは、ジニーを包み込み、聖杯の底すべてに燃え広がるようにいきわたる。
視界が紅に染まり、紅に溶けていく。
ジニーに抱かれた心地よい感触を残して、クレアの意識が途絶えた――
「紅いアドミレーションが……消えた」
クレアたちが囚われたイドラの繭を前にして、ナタリーが息を呑み、隣にいたルーティにつかみかかった。
「繭の中で、あんなに燃えていたのにっ!」
「落ち着きなさい、ナタリー。まだ内側で……」
ルーティが繭の中に向けて聖杯連結を試みた、そのとき。紅い輝きが爆発的に膨らみ、花が咲くように繭がほぐれた。
クレアが立ち上がる。ジニーも意識を取り戻して起き上がる。リンは、いつもの寝顔で静かに息をしていた。
「クレア!」
ナタリーとルーティの声で、戻ってきたことを実感した。グレースも二人に並び、言った。
「義姉さんとリンも無事?」
「はい。誰も、イドラに侵されていません」
「そっか……」グレースが肩を撫でおろす。「無事で、本当に良かった」
やがてリンが目を覚ました。
クレアの無事を知った嬉しさだろうか、寝顔を覗き込んでいたクレアの体に抱き着く。
「先輩を取り戻せたっ」
ナタリーとルーティもクレアを抱きしめる。そして、三人そろって言った。
「おかえり! クレア」
「おかえり、クレア」
「おかえりなさい、先輩っ」
クレアは再び触れ合える喜びをかみしめて言った。
「ただいま、みんな」
これからも正しくぶつかって、向き合いつづける。他人はもちろん、自分や、未来にも。
道のりは厳しいかもしれない。
それでも立ち向かいつづければ、きっと、今みたいに心地よい場所にたどり着ける。
――これが、私の進む道なんだ。
空をあおぐ。長かった夜が明けようとしている。
ほんのりと紅くなった東の空に、力強い太陽が顔を出していた。




