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第十二章 「カリスといっしょに、戦いたい!」

「とうちゃく~」

 吐息交じりのジニーの声に、グレースが応える。

「ジュリアへの報告があるからね。もうちょっとがんばってよ。義姉さん」

「うへぇ……早くシャワーあびたい」

 ワールドツアー・キャンプの敷地内に入ってから、クレアの足取りは重かった。

「あっ、昇降口にみんなそろってるよ」

 グレースの言葉で顔を上げる。ワールドツアー・キャンプの本部兼宿舎となっている廃校舎の入口を蛍光灯が照らしていた。数人の人影がある。その見慣れたシルエットでキャメロットの三人とマーリン。もう一つはジュリアだとわかった。

 クレアの足が止まる。それに気づいたグレースが声をかけた。

「クレア、どうかした?」

「ちょっと……勇気が足らなくて」

「伝えたいことは、もう決まってるんでしょ?」

「そう、なんですけど」

「それなら、大丈夫」グレースが微笑んだ。「行こう」

 クレアはうなずき、ゆっくりと進む。

 ナタリーは、優しい微笑みを浮かべて、少しうつむいているルーティの肩を叩く。ルーティは顔を上げると、クレアをじっとにらむように見つめた。まだ厳しい表情のままだ。リンは、つぶらな瞳に涙をたたえている。

 クレアが三人の前に立つ。しかし、伝えたい言葉はなかなか出てこない。

「おかえりなさい、クレア。ジニーさん、グレースさん、ありがとうございます」

 マーリンが前に出て頭を下げる。グレースが応えた。

「こちらこそです。クレアをたくさん知ることができて、とても良い夜になりました」

「どうやら、クレアの聖杯は再び動き出したみたいだな」

 ジュリアがグレースに尋ねる。

「ええ、義姉さんの熱い言葉が呼び覚ましたみたいです」グレースがにやにやしながらジニーを見る。「だよね?」

「べ、べつに熱いとか、そこまでじゃないし。フツーだし」

 ジュリアが、ふっ、と笑った。

「とにかく、安心した。グレース、後で詳しく聞かせて」

「はい」

 少し顔を赤くしたジニーが近くにきて、クレアの背中を、ばちんっ、と叩き、ささやいた。

「向き合いつづける、でしょ?」

 顔を上げて、背筋を伸ばす。ジニーのようになりたい。彼女の存在と言葉が勇気に変わる。

 クレアは、がばっと頭を下げてここにいる全員に言った。

「心配かけて、申し訳ありませんでした」

 さらに、もう一つの大切な想いを伝えるため、キャメロットの三人と向かい合う。

 リンが「先輩……」とガラス細工に触れるような声でクレアを呼んだ。

 ルーティは、むっつりと押し黙ったままで、まだクレアをにらんでいる。

 ナタリーが一人前へ出た。

「おかえり、クレア。昨日なんだけどさ、『見損なった』なんて言ってゴメンね」

 クレアは大きく首を振った。

「ナタリーは、悪くないです。ルーティも、リンも……悪くないんです」クレアは大きく息を吸う。「悪いのは、わたしです。みんなの信頼が怖くなって逃げた、わたしです……」

 リンの瞳が、まっすぐ向けられる。

 クレアは、その瞳から逃げずに向き合って、言った。

「子どもの頃からずっと、母親や同級生に虐げられてきて……。だから、目の前に立つ人は、わたしをいじめる人で……優しさや愛が示されても、そうしないとは限らなくて……」

「プロダクションの渡り廊下で出会ったあの人も、そう……だったんですか?」

「彼女は、メイというわたしの同級生。壊れそうだったわたしの心を救ってくれた子。……でも、そのあと、わたしをいじめた子。彼女との再会でフラッシュバックに襲われて」

「メイさんと会ったあと、先輩がパニックになったこと、ですよね?」

 クレアは、うなずき、さらに言った。

「それで……扇動者とのライブでも、フラッシュバックになってしまって……」

「やっぱり、そうだったんですね……」

「あのとき『アイドルのわたしは、イドラだけじゃなくて母親や同級生やメイも支配できる。今度はわたしがいじめてやる』っていう自分の声に抗えなくて……」

「だから、僕たちの呼びかけに応答できなかったんだ」

 ナタリーの言葉に、クレアが頭を下げる。

「ごめんなさい」

 顔を上げると、ルーティが一歩前に出ていた。全身で怒りをあらわにして声を上げる。

「でも、そのあと正気に戻ったでしょ! なんで聖杯連結を閉じたのよ!?」

「本当に、ごめんなさい……」

 うつむきそうになる顔を必死に上げて、ルーティの目を見る。

「獣みたいに暴れてしまった自分が恥ずかしかったし、なによりみんなを危険にさらしてしまって……合わせる顔がなくて」

 ルーティがもう一歩、距離を詰める。怒りに燃える瞳に涙を浮かべ、震える声で言った。

「クレアがどうなったって、ちゃんと支えるよ!」

 胸がくるしくなって、クレアの瞳からも涙がぽろぽろとこぼれてきた。

「こんなわたしは、責められて当然で、きっとみんなにもいじめられてしまうって、そう思ったら……怖かったんです」

 涙が流れるのを止められなかった。

「医務室に来てくれたときもそうなんです。大切なみんなが、メイみたいになったら……そう考えてしまって……だから、わたしから拒絶したんです」

「先輩……」

「みんなの信頼が怖くて、いつ傷つけられるのか恐ろしくて、ずっと遠ざけて……」

「先輩は、強くて頼れるアイドルです」

 リンの濡れた瞳の奥に強い輝きを見つけた。その輝きはゆるがない。クレアは、リンの言葉をまっすぐ受けとめた。

「リン。いつも勇気をくれて、ありがとう」

 クレアは涙をぬぐい、もう一度三人の顔をまっすぐ見る。

「わたしは、みんなが大好きです。ずっといっしょにいたい大切な仲間です。

 これまで、向き合う勇気がなかったけれど、ちゃんと伝えます!

 わたしは、みんなを信じます。それから、みんなに信じてもらえるように、わたしのことをちゃんと伝えます。だから、これからもよろしくお願いします!」

 おじぎとともに言い終えて、顔を上げる。両手を広げたリンが飛び込んできた。

「クレア先輩っ!」

「えっ」

 反射神経を活かして、しっかり抱きとめる。リンが腕の中からクレアを見上げると、柑橘系の香りがふわりとただよってくる。涙で濡れた彼女の顔は鮮烈でとてもまぶしかった。

「わたしも先輩のことが大好きですっ!」

「ありがとう、リン」

「二人も」リンが振り返って問いかける。「そうですよねっ?」

 ナタリーがクレアのそばまでやってきて、うなずいた。

「僕も好きだよ、クレア。リンに先を越されたけど、抱きしめたくなるほどうれしかった」

「ありがとうございます。ナタリーさん」

「ルーティは、まだ許せない?」

 ナタリーが尋ねる。リンがクレアから離れて心配そうに見守っていると、ルーティは赤くなった顔を横に振って言った。

「私もクレアを信じて、ちゃんと伝える」彼女の顔がほころぶ。「またこうして話すことができて、良かった」

「ルーティさん……わたしも、です」

 ナタリーを押しのけて、ルーティがクレアを抱きしめた。

「あっ、ずるい!」

 ナタリーが腕を大きく広げて、がばっと、クレアとルーティ二人をまとめて抱きしめる。

「ふぐっ! あ、あんたは次でいいじゃない。ちょっ、やめ、力入れたら、くるしい……」

「あははっ、ルーティさんのサンドイッチですねっ。じゃあわたしも♪」

「えっ! なに? リン? やめて……ぎゅむぅ」

 クレアにとっては、幸せな圧力だった。

 三人がここにいて、抱きしめ合える。ぶつからなければできないことだ。たとえ力が強くて苦しくても、向き合いつづければきっと幸せになれる。これがその証拠だ。


「みんな、それぐらいにして今日は休みましょう」

 マーリンがそう言うと、リンとナタリーがしぶしぶという感じで腕を放す。解放されたルーティが服装を整えて、ジュリアに質問した。

「明日は捜索のつづきですか?」

「いや、グレースの報告によると、サスカッチがこの付近で発見される可能性はほとんどないだろう。捜索は別チームに引継ぐことにする。カリスとキャメロットは明後日の終演まで模擬ライブを行ってもらう。ジニー、四人のアイドルランクを一つ上げるつもりで頼むぞ」

「了解。まかせて」

「それでは、今日は解散。全員しっかり体を休めるように」

 ジュリアの言葉のあと、キャメロットとカリスは別方向の宿舎代わりの教室に向かう。

「クレア」

 ジニーの声で振り返る。彼女は破顔して親指を立てて、言った。

「やったな♪」

 ようやく心が一つ成長できた気がした。

「はい!」心にすがすがしい風が吹き込む。「また明日、よろしくお願いします!」

 笑顔のままうなずいたジニーは、手を振りながらあちらの宿舎へと向かっていく。

 ――ジニーさんたちとの時間、悔いのないようにしたい。

「先輩っ、行きましょう」

「うん」

 クレアは、リンに追いつこうと、軽やかに一歩踏み出した。


 アイドルたちが眠りにつく。

 今日を闘い抜いて成長したクレアが、明日へたどり着こうとしている。

 キャメロットの三人も、ジニーとグレースも、同じように明日へ向かう。

 しかし、一人だけ、凶暴な過去と向き合うアイドルがいた。その過去は、彼女が乗り越えるべき最大の苦難。

 そして、成長を果たしたクレアの臨む場所であり、更なる試練でもあった。


 ばたばたと廊下を走る足音と早口でやり取りされる大きな声を聞いて、クレアは目を覚ます。ベッドの隅に置いていた端末を確認すると、日がまだ昇っていない早朝だった。カーテンの向こうは闇が広がっているのだろう。

 クレアが起き上がると、隣のルーティはすでにベッドから降りて、寝ぐせを整えていた。

「なにがあったのか確認してくる。クレアは二人を起こしてくれる?」

「わかりました」

 ルーティが引き戸を開けて廊下を駆けていく。

 リンを揺さぶって起こしたあと、寝起きの悪いナタリーをどう起こそうか考えていると、引き戸がうるさく開けられた。ルーティだった。

「今から三十分後にブリーフィングよ。みんな急いで支度して」

 声が少し震えていた。いつも冷静なルーティにしては珍しい。そう思っていたとき、さっきまで眠っていたナタリーが急に起き上がって言った。

「ルーティ、なにが起こってるか、聞いた?」

「サスカッチが逃げ込んだスポットから、大型のイドラが出現したみたい」

 クレアの胸に冷たいものが触れる。リンが言った。

「スポットって、ディーナさんが待機している……?」

「うん……」

 ルーティの応答に、クレアは動揺を隠せない。

 ――大丈夫、かな……

「どこ集合?」

「いつも使っているあの教室。ナタリー、目は覚めたの?」

「もちろん」ナタリーは両手で頬をばちっと叩く。「ルーティこそ、大丈夫? 寝ぐせ」

「えっ、うそ。残ってた?」

 ルーティが鏡に向かって準備を始める。

「クレアとリンも落ち着いて。ディーナさんの力、もうわかってるでしょ? 簡単にやられるわけないよ」

 クレアとリンがうなずく。

「さぁ! 急いで準備だっ」

「はい!」


 教室には、ジニーとグレースがすでに待機していた。寝起きのはずなのに、表情が引き締まっている。二人に話しかけようかとためらっているうちに、ジュリアとマーリンが教室に入ってきた。クレアたちは急いで席に座る。

「ディーナからの急報だ」ジュリアが教壇に上がりながら告げる。「スポットから『レヴィ』が現れた」

「そんなっ」グレースが顔をしかめる。「嫌な予感が当たっちゃった……」

「レヴィって……リヴァイアサンのこと、でしょうか?」

 ルーティが尋ねる。すぐにジュリアが注釈してくれた。

「そうだ。ノヴム・オルガヌム第四位。二千年以上生きていると言われる神話型イドラ・リヴァイアサン。私たちはレヴィと呼んでいる」

 ――ディーナさんの仇だ……

 ジニーが焦れたように声を上げた。

「現状はどうなってんの? もうライブがはじまってるなんてことは……」

「いや、ディーナは現在、身をひそめながらレヴィの監視中だ。やつは人型の化身〈アバター〉となり、スポットの周辺で何かを探しているらしい。

 これは推測だが、私たちと同じようにサスカッチを探しているのかもしれない」

「それならすぐ合流しましょう。もし、レヴィが狙いを変えたら……一人じゃ危険です」

 グレースが早口で意見を表明する。ジニーも急いた様子でうなずく。

 ジュリアがあごに手をやってうつむく。十数秒じっと思考したあと、命じた。

「ジニー、グレースはスポット周辺で警戒待機。そのあとディーナに後退してもらう。こちらからは絶対に手を出さないように。二人とも、すぐに出撃だ」

「了解」

 二人が立ち上がって凛々しく応えたあと、「行ってくる」と言って、教室から出ていった。

 何か言葉をかけたかった。クレアが悔いていると、ジュリアが命じた。

「キャメロットは今すぐここから撤退するように」

 クレアは耳を疑った。キャメロットにも出撃命令がある、と思っていたからだ。マーリンがゆっくりうなずく。ジュリアが補足した。

「君たちにもアイドルとしてイドラを消滅させる責任はある。しかし、実力以上のことを強いて無駄な犠牲者を増やすことは許されない。説明したとおり、今はアイドルが絶対的に不足しているからな。

 君たちが、あと二年……いや一年、研鑽を積めば、レヴィのような相手にも対抗できる力を得るだろう。だから、今は退いてくれ」

 プロデューサー同士で話が進められる。口をはさむことはできなかった。

「わかりました。しかし、もしレヴィとのライブになった場合、カリスだけでは……」

「マーリン、君が心配すべきは彼女たち四人だ」

 ジュリアは毅然とした態度で言い切ったあと、ほんの少し憂いを表す。

「キリアたちと同じように、ジニーたちにも難行を命じることになった……この状況を止めるにはキャメロットの未来が必要なんだ」

 ジュリアが視線を移す。ナタリー、ルーティ、クレア。最後にリンをじっと見つめて……

「頼んだぞ」

 そう告げると、ジニーたちを追って教室を出ていった。


 迷子のような空気が教室に満ちている。それを押しやるようにマーリンが声を上げた。

「さあ、みんな。撤退だ!」

 ナタリー、ルーティ、リンが立ち上がる。

 クレアは心の中で引っかかっているものが何か、考えていた。ジュリアの言葉は正しい。でも、カリスの三人に後を任せて撤退するのは、納得できなかった。キャメロットもアイドルとしてイドラに立ち向かうべきだし、何よりもカリスの三人を助けたい。ジニーの力になりたい。クレアはそう思い至る。

 ――この気持ちは大事にしたい。ちゃんとみんなにもわかってほしい。

「ワールドツアー・キャンプの撤収作業を手伝って……」

 そう言いながら、マーリンが四人に教室を出るように促す。クレアは遅れて立ち上がった。

「みんな、待って……」

 ナタリーたち三人とマーリンが振り返る。クレアは四人の視線にひるまないように勇気を振り絞って向き合い、気持ちをぶつけた。

「わ、わたしは、ジニーさんたちを追いかけたい」

「クレア先輩……」

 リンがつぶらな瞳をさらに丸くして、クレアを見つめる。ナタリーとルーティはうつむき、目を逸らした。マーリンが口を開く。

「伝えてくれてありがとう、クレア。どうして、そう思うのか聴かせてくれないか?」

 両手をぎゅっとにぎりしめ、お腹に力を入れて、うなずく。

「カリスの三人のこと、最初は本当に苦手でした。それでも、三人はあきらめずにわたしと関わろうとしてくれて……扇動者とのライブだけでなく、昨日もわたしを助けてくれました」

「命がけで、クレアのことを守ってくれましたね」

「三人は、わたしの話をちゃんと聴いてくれて、もう一度みんなと向き合うための勇気をくれたんです。本当に、本当に感謝しています。だから…………」

「だから、クレアもカリスの三人と命がけで向き合いたい、ということかな?」

「そう、です」言葉に力がこもる。「二度も命を助けてもらいました。いろんなことを教えてもらいました。憧れの先輩たちを放っておけません。ジニーさんたちを助けたい。カリスといっしょに、戦いたい!」

 再び、沈黙が訪れる。それを破ったのは、ルーティだった。

「クレアの気持ちはわかった。けど……レヴィは危険だよ。ここは撤退すべき、と私は思う」

 はっきりとクレアに反対を表明する。ナタリーも口を開く。

「強大な神話型イドラの中でもさらに特別な存在なんでしょ? もし、ライブになったら、勝算はほとんどないんじゃない? 生還できるかもあやしいよ」

「それに……」ルーティが一歩前に進み、クレアと視線を合わせた。「カリスの三人だって、命令どおりで積極的に戦おうとしないよ。それに、私たちが参加することで、本格的なライブになってしまう可能性もある。悔しいけど、今の私たちじゃ力不足だよ……」

 ――わたしは今、ぶつかっているんだ。

 不安で落ち着かない。和を乱したことへの罪悪感さえ覚える。否定される恐怖が、相手を傷つけて従わせたくなる怒りや、自分を傷つけて我慢するむなしさに変わりそうだった。

 しかし、クレアの心にはジニーの言葉があった。葛藤が起きるのは当たり前。だから、相手と正しくぶつかって、向き合いつづける。気持ちを伝えて、相手の言葉を聴いて、自分も相手も大事にしながら闘い抜く。

 反論しようと、口を開いたとき、リンが声を上げた。

「私も、助けに行きたいですっ」

 思わぬ味方の登場に、クレアは驚いた。マーリンが同じように、どうしてそう思うのか? と尋ねる。リンが答えた。

「私たちはアイドルです。どんなイドラが目の前にいても戦うべきです。カリスのみなさんに任せて、なにもせずに撤退するのはダメだと思います」

「たしかに、そうなんだけどさ――」

 ナタリーの言葉を、ルーティが厳しい口調でさえぎる。

「リンの主張は正論すぎ。現状のこと考えてるの!?」

 リンが身をすくませる。ルーティがさらに問いただそうとすると、マーリンが口をはさむ。

「ナタリー、ルーティ。二人はクレアとリンにどんなことを伝えたい? その言葉の奥にはどんな感情があるのかな?」

 問われた二人は少し考える。まずルーティが顔を真っ赤にして答えた。

「私は、クレアとリンに無事に成長してもらいたい、と思って……だから、こんなにリスクが高いことはやめて欲しい……」

「私も、ルーティと同じ気持ちです。二人を守ってあげたい」

「二人を心配していた、ということだね」

 マーリンの言葉に、ナタリーとルーティがうなずいたあと、次はリンが答えた。

「……二人を責めたわけじゃないんです。もし、このまま撤退したら、カリスを見捨てて逃げちゃったって、辛くなりそうだと思うんです……。そんな気持ちになるなら、私は戦いたい」

 クレアも、気持ちをさらに詳しく言葉にする。

「わたしの手が届くのに、なにもできないのは嫌です。わたしを救ってくれた彼女たちといっしょに戦いたい!」

 マーリンがクレアの瞳をじっと見つめ、うなずく。リン、ルーティとも同じようにアイコンタクトをして言った。

「あなたたちがなにを選択しても、その先で起こることすべての責任は、私が負います」

 マーリンが最後にナタリーと向き合った。

「決断は任せます。想いのままに」

 ナタリーの眉間にしわが寄る。口に手を当て、何も言わずじっと考えている。ルーティがそんな彼女の頭をぽんと叩く。

「なんでも聞きなさいよ。あんたがそんな顔をするなんて似合わない」

「そうだね」ナタリーの顔が緩む。「もし、レヴィとのライブになったら、キャメロットとカリスでどこまで戦える?」

「対峙しないと詳しくはわからない。けれど、私が把握しているデータとコンクエストスキルでシミュレートする限り討伐はムリ。撤退もしくはスポットへ押し込むことなら、できる」

「状況が変わったら、また教えて」

「わかった」

 ナタリーが全員に向けて声を上げる。

「僕たちは、カリスとレヴィのライブをサポートします。ただし、ルーティが戦況予測して、もしキャメロットの誰かが危険になったときは……カリスを置いて、迷わず撤退します」

「えっ」

 クレアの喉から声が漏れた。何が決まっても平静でいようと思っていたが、難しかった。その小さな声に、ナタリーが応える。

「ごめんね、クレア。これが精いっぱいだよ」

 この場にいる全員が深刻に受け止めていることがわかった。全員が一様に重々しくうなずく。

 これ以上の選択はない。クレアも決断した。

「わたしも、そう思います」

「ありがとう」

 そう言って、顔を引き締めたナタリーが右手を突き出した。

「みんなを守る盾になる!」

 ルーティも右手を伸ばして、それに重ねる。

「みんなのために、すべてを見とおす」

 クレアも右手をさらに重ねる。

「槍となって、みんなの道をつらぬく」

 リンの右手が一番上に重なった。

「みんなの力を未来へ届けます!」

 言い終えたあと、四人の右手が一斉にそれぞれの胸に添えられる。ナタリーが声を上げた。

「四人の力を合わせてカリスを助ける! みんな行くよ!」

 教室に、四人の鬨の声が響き渡った。


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