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ルフト 3

この国の北にフェデラジと呼ばれる地殻変動の折りに出来た世界で一番高いとされる山がある。

山から城までは深い森があり、フェデラジからは豊かで綺麗な水を湛えるウルディと呼ばれる大河が形成され国を分断するように流れている。川はそのまま南東に流れ海へ向かう。東は少しの森と砂漠を擁するシャルディ国。南は海を擁するナーバリア国。西は広大な草原を有するグリラナ国に囲まれている。

城は北の森を背に建てられて、扇状に上級貴族の屋敷や郊外貴族のタウンハウスが建つネチカ地区、下級貴族や裕福な商人達の店や家が建ち並ぶチューリュー地区。庶民が暮らすヘミン地区。そして、扇の端にあたる部分にはひっそりとスラム街がある。


城から南に向かい真っ直ぐ大きな街道が通っており、ネチカ地区とチューリュー地区の狭間に街道を挟んでかなり広い広場がある。


俺がカトレアを誘った祭りはその広場で開催される。

そこでは毎年夏は精霊、冬は神を奉るお祭りが催される。

夏の精霊祭は5大精霊に感謝と敬意を込めて行われて1年に1精霊、6年に1度全ての精霊への大祭が行われる。今年は土の精霊ノムソンを奉る年で、土の精霊の守護を受けた建築や農家、それに芸術家等が主だって祭りを行う。


俺とカトレアは寮に外出の許可をとり、祭りに来た。外出の際は誘拐などを警戒して色々なものの色を変えることが出来るギフトでスペランツィア特有の金目の色を変えてもらう事と、学園の騎士が護衛に付くことが決まりなので2人きりではないのが少し残念。


カトレアも目の色を変えてもらいたかったのだが、どういうわけかカトレアにはギフトの効果は表れなかった。

なので彼女はは鍔の大きな麦わら帽子を被っている。


「……あの、今日はありがとうございます!!」


嬉しそうにお礼を言うカトレアに思わず口許が緩みそうになり、フイッと横を向いて話す。


「前から来てみたかったんだが、1人じゃつまらないからな……カ、カトレアが一緒に来てくれて俺もありがたい。」


……多分耳が赤い。なぜなら自分でも分かるほど耳が熱いから。

初めて名前を呼んだ俺は何故か恥ずかしくて彼女を見ることが出来なかった。だから呼ばれた彼女がどんな表情をしているのかは分からない。


「フフッ、今日はいっぱい楽しみましょうね、ルフト様。」


カトレアはすぐ横でそう言って、俺の袖を少し摘まんで祭り会場に向かった。


祭りのメイン会場では演劇が上演される。流れの劇団によるもので演目は毎年違うらしい。今回はこの国の初代国王と王妃の馴れ初めを元にした恋愛劇だった。


この国の初代王は大戦で傷つき地上に落ちた闘神、そして王妃はその闘神を献身的に介護した精霊王の娘だとされている。

精霊王に神との結婚に反対された娘は、闘神と共に駆け落ちをする。宛もなくさ迷っていた2人を人間達の村が温かく迎え、傷の癒えた闘神と娘が村の警護と発展に力を入れたため、村人達に感謝され次第に大きな村から街、街から国へと成長した。

そんな2人を見守った精霊王は仲を認め、国の民に精霊の加護を、それにともない神達からは神の子となる王家の子には代々《祝福(ギフト)》を約束したという物語だった。


「……精霊王……?」


初めて聞いた言葉なのか、カトレアは不思議そうな顔をする。

神話レベルの話でどこまでが本当かは分からないが、精霊王は創世記にちょこっとだけ登場する。


「精霊達の王様だね。この国は精霊の存在はよく耳にするけど、その王様の話はあまり出てこない。聞いたこと無かった?」


カトレアはコクりと頷き、


「この子達にも聞いたことは無いですね。」


と、何もない空間に手を差し出し見えないなにかを優しげに見つめる。


「……ソコになにか居るの?」


聞けば、カトレアはハッとしたように顔をあげ見るからに動揺する。


「ナ、ナにもいませンけド?」


慌てすぎだろう……。俺は笑いを噛み殺しそうかそうかと返事をした後、話をしてあげた。

カトレアは外部との接触が少なく、一言で言えば世間知らずだ。実は精霊が可視出来る者が少なからず居ることは案外知られている。自分だけではないと知って少し安心したようだ。


ただ、話を聞いた限り彼女の場合は他の人達とは少し違った。

普通は自分へ加護をくれた精霊しか見えない。が、彼女は全ての精霊の加護を持っているのでそこらじゅうの精霊が見えるらしい。しかも会話が出来ると言う。


「ルフト様は見えないのですか?」


不思議そうな顔で聞かれるが、精霊の加護を持たない俺は見えないといえば、そうでした! とまた真っ赤になって慌てて謝罪する。

本当に見ていて飽きない。かわいい……


そんないつもよりはしゃいでくるくると表情を変えるカトレアを堪能しながら祭りの屋台を巡る。

農家が出している野菜の直売や蒸したり揚げたりと加工した食品に、綺麗なタイルで作った飾り壁の見本や新作だという割れない陶器や色付きのガラスなど珍しいものも多い。


暫く店を見て回ると、カトレアがもじもじしながらあのぅ……と言い出しづらそうに話しかけてきた。どうしたと聞けば、花摘み(トイレ)に行きたいと言う。

女性からは言いづらかっただろうに、申し訳ないことをした。ここで待っているからと護衛を1人つけ見送った後近くの店を何気なく覗く。


『割れない! 軽い! 発色が良い! 可愛いあの子に贈り物はいかが?』 と言う謳い文句が書かれた看板が書かれた陶器屋で可愛らしいデザインのマグカップから小さなアクセサリーまで様々な陶器で出来た品物が売られていた。

興味が無い俺は今までならチラリとみて違う店に行くところだが、そこに売られていたペンダントトップが目についた。


精霊を表す5色の他に黒や白、金や銀等の色の付いた花や蝶がモチーフで滑らかな陶器で出来ている。

その中でも黒い羽に5色の色が入った蝶に目を奪われた。


黒に5精霊の色が全て入っているなんてカトレアにピッタリじゃないか!!

思うやいなやすぐさま店主に購入することを伝え、プレゼント用にラッピングして貰う。彼女に渡したときの反応を想像しながら待ち時間に他の商品をみる。と、隅の方に黒地に金色で縁取られた花をモチーフにしたヘアピンがあるのを見つけた。


金色と黒。言うまでもなく俺の眼と髪の色だ…………


贈ったら身につけてくれるだろうか……と言うか、これを贈ったら俺の気持ちに気づいて貰えるだろうか?


密かな期待と希望を持ってヘアピンも一緒に包んで貰うことにした。

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