side:ルフト・テプラ 1
今回から数話分ルフトからみた物語となっております。
俺が彼女の……カトレアの元に着いた時、彼女の首は処刑台が設置された台の下に、両手を縛られた胴は処刑台に這い蹲るような形のまま荼毘に付されることも無く放置されていた。
彼女の処刑決定の知らせを受けた時、俺は王都から10日はかかる辺境の地で仕事をしていた。
処刑日は7日後。不眠不休で馬を乗り継ぎ、あともう少しというところで土砂崩れに巻き込まれ処刑に間に合わなかった。
間に合っていたら、誰を、何を犠牲にしてでも彼女を助け2人で逃げるつもりで居たのに……
石ころのように転がっていた頭を抱えると、半開きで硬直してしまった瞳をどうにか閉じる。そして残バラに切られてしまった髪を纏めた小さな髪飾りにキスをし、己のギフト《時操》を発動する。
王家の脅威に為りうる。という理由で王族に求められた時以外、使用することを禁止され、別のギフトで封印されていた俺の能力。許可無く発動するにはかなりの負担と封印されたままの使用は全身への激痛が走る。
幼い頃、ハーノン女史に"膨大"と判断頂いた神力を全て使い刻を戻す。願ったのは処刑前日、土砂崩れに巻き込まれずに別のルートでここまで来れば彼女を助けられるはず………………
ーーーー
気づいたのはどこぞのトイレの中。恐る恐るドアから出れば、貸し馬車屋のトイレだった。店主は俺を見ると、
「あれ? 変装なんかして何するんです??」
変装……?
「いや、まぁ、詳しくは聞きませんけどね。もし、馬が返却されなかったら、……えっと、テプラ侯爵様? のお屋敷に請求に行きますからね!」
疲れた顔で飛び込んで来た俺を気遣ってか、冗談交じりに店主が言う言葉に、あぁ。と頷くも、店主のむこうにある硝子に写った自分に衝撃を受けそれどころでは無い。
真っ黒だったはずの髪は殆どが白くなり、黒い髪はチラチラと数本ある程度。頬はこけ、おでこと眉間には深いシワが刻まれている。
「……にしても、見事に化けましたね! あ、もしかして変身系のギフトをお持ちで? いや。それならうらやましい……私もギフトがあったらよかったのになぁ。」
軽口を叩く店主に礼を言って馬に乗るとタタッタタッととリズムよく馬を走らせる。
……戻った……。戻ってこれた!! 神力たげでは足りず生命力をも使ったようだが、まさに前日! あの貸し馬車屋で馬を交換し、夜通し王都に向けて走ったことを思い出す。
「待て待て、ドウドウドウ。」
馬に指示を出し、前回通った道とは別ルートを思い浮かべる。
若干遠回りになるが、道を間違えさえしなければ処刑前にはカトレアの元にたどり着けるハズだ!!
ハズだったのに……なんの因果か、今回のルートでは山賊に出くわし結局間に合わなかった……。
今回は首を跳ねたすぐ後だったようだ。群衆をかき分け、彼女の落ちた首を抱えて泣き叫ぶ。
「……うるさいッ! オレやリリアナを殺そうとした女だ。処刑したところで泣く必要は無かろう。お前はその女の親族か? 侯爵家はその女から手を引いたと聞いたが……いや、どことなくルフトに似ているな? ルフトの親族か? だがルフトの親族が何故カトレアを助ける……?」
あまりの言いように顔を上げる。処刑台の対面には同じ高さに作られた舞台があり、そこにはこの国の王太子、カトレアから王太子の婚約者の地位を奪いあまつさえ冤罪を着せたリリアナ、その冤罪に手を貸したであろう俺と同期のライクや2つ上のミネル、1つ下のグラドン、3つ下のリーツが居た。
「なんだ? 何をみておっ…………」
"コイツらの神力を使えば1日と言わず、もっと刻を戻せるかも知れない。"
無意識に口に出していたかも知れない。襲いくる激痛をものともせず、気づいたときには時間を止めて、驚愕の表情のまま動かないリファルとリリアナの首を跳ねていた。
その勢いでリリアナの侍女リーツ、リファル付きの宰相となったミネルと護衛騎士となったグラドンを刺し殺した。最後、長いこと苦楽を共にした友、今はリファルの従者ライクの首を跳ねようと剣を向けたとき、斬られることが分かって居るとばかりに首の前に開いた手のひらがあった。
そして、その見せつけるように開かれた手に何か書かれていることに気づく。
『リリアナは悪魔、首を跳ねても死なない。』
振り向くと、短剣を片手に向かってくるリリアナの顔をした悪魔。頭には山羊のように捻れた黒い角を2本生やし、悪魔の特徴と伝えられる白と黒の部分が反転した瞳を見開いていた。斬ったはずの首には真っ赤な血で出来た宝石が付いたネックレスをしているかのように線を残しつつ繋がっていた。
驚きより先に、本能と鍛練で磨かれた剣技で差し出された剣先をいなす。剣術などやったことが無いはずのリリアナが弾かれた事を利用し、更に剣にスピードを乗せ斬りかかってくる。
「お前、ルフトか? カトレアを助けに来たのか?」
「間に合わなかったなぁ?」
「惚れていたんだろう?」
「連れて逃げる気だったのか?」
剣の勢いはそのままで話しかけてきてはヒッヒッヒッと気味の悪い笑いかたをする。
キンッキンッとリリアナの剣を弾くも死体に足を引っかけ体制を崩す。そこに容赦なく切りかかる剣を受け鍔迫り合いをする格好となる。
ギリギリと押し合うなか、リリアナが囁くように話しかけてくる。
「…………お前、時を操るギフトを持ってたなぁ? コイツらの神力使って時を戻すのか?」
「……だったらなんだ! リファルもライクも突然お前の言いなりになった! こうなったのもお前のせいだろ!? 戻ったらいの一番にお前を殺してやる!!」
「……我を殺す? ヒヒッ、なんとまあ威勢の良い! そうだな、その時のリリアナが我だといいがなぁ……。」
「なんだと? どう言うことだ!」
「リリアナは我が入り込むまでは普通の人間だった。我が入る前に殺してしまえばお前はなんの罪もないこの女を殺すことになる。いの一番と言ったか? さて、その時は我かリリアナか?
……ヒヒッ、あぁ、だが万が一でも殺されるのは御免だからな、我の名を教えておいてやろう! 我はキュロス。その剣を突き立てる前に名を呼んでみるがいい。我もバカじゃないからな、ギフト持ちに名を呼ばれれば計画がばれたと理解するだろう。そうなればお前の前から消えるだろうさ。
間違ってリリアナを殺すより良かろう?」
キュロスはグイッと俺の剣を弾くと、ヒッヒッヒッと笑いながら刻の止まった民衆の頭を踏みつけヒョイヒョイと遠ざかって行った。
その後舞台上だけ刻を動かす。助力となる魔方陣を書きその上に神力を宿すスペランツィアの遺体を集める。
作業中、横でギャーギャーとライクが騒ぐ。共に時を遡りたいらしい。連れていく気は無かったのだが、
「裁判で読み上げられた罪状だって全部覚えてる!」
裁判は俺が居ない時に行われたので彼女がなんの罪で処刑されたのか俺は知らない。
裁判にかけられる事態にならないようにするつもりだが、万が一の時の保険は多い方がいい。
それにライクのギフトはなかなか役に立つ。そう思いライクも連れて時間を逆行した。
今回から月曜に投稿することに致しました。
引き続き読んで頂けたら嬉しいです。




