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グラドンの部屋から出て、絨毯が敷き詰められたフロアから出ると急に頬の痛みが増した気がした。

落ち着いて聞いていたつもりだが、やはりかなり動揺していたらしい。


それにしても、グラドンまで一緒に戻っていたとは……

今思えば不審な点は多かった。寮での顔合わせの時、リリアナが寮に入ってきた時、カトレア嬢への牽制、ライバルであるリファル王太子やミネル様への態度等など過去()と微妙に違う事があった。


特にリリアナには初めから他の人間は近づけさせまいと以前よりベッタリとついて歩いていた。

まぁ、当人は全く気づいていないが逆効果もいい所で、あまりのベッタリかげんにあの悪魔が引いてどうにか離れようと躍起になっていた程だ。


その様子からも、話の端々からもグラドンなりに色々と画策していたように伺えたが、裏で手を回すなんてな器用なことを出来る男では無いため上手くいかなかった様だ。


その結果なのかどうなのか、リリアナがリファル王太子ではなくルフトを側に置くことに決めたという噂はどうやら本当らしい。

そうなると、王太子妃になりたい! と言うあのリリアナ(悪魔)のワガママも無くなるだろう。

ならばカトレア嬢を排除するために悪女に仕立てることも冤罪を着せることもしなくて良くなって……


……あれ? 結果的に当初の目的である『リリアナ(悪魔)の陰謀からカトレア嬢を守る』事は達成されているのでは??


━━1年ぶりに他人と関わった興奮と、一向に痛みの引かない頬への苛立ち。それに予想外の話(グラドンの告白)での動揺などの非日常コンボで自分でも気づかない内に変なテンションに陥っていたようだ。

なんだか目標を達成したような清々しい気分でそのままルフトの元へと向かった。


ルフトの部屋を訪ねると待ってましたとばかりにルフトの従者(カイン)に出迎えられた。


「御足労頂きありがとうございます。ルフト様がお待ちですので奥へどうぞ。」


応接間ではなくルフトの私室に通される。もちろんフィルはまた別部屋で待機だ。


部屋に入るなり、立ち上がり「申し訳ない。」「ごめんな。」と憂い顔で深々と頭を下げる。


その姿を見て何も解決していなかったと現実を知る。

そうじゃん、ルフトがあの悪魔に操られて側に居るって事は、処刑は免れたとしても互いに想い合っていた2人にとっては最悪の結果じゃん。


ルフトはスイっと頭を上げると、首を傾げて「痛むのか?」と悲痛な表情と声で聞いてくる。その瞬間、全身に鳥肌が立った。


お前誰だよ!? オレの知ってるルフトはそんなに表情豊かじゃ無かったし、心配しててもぶっきらぼう過ぎて分かりずらい態度をとるような奴だった。

こんなに顔面偏差値の高さを全面に押し出してあざとい態度をとるような奴では無かった筈だ。


違和感がありすぎて気持ち悪い。こんなルフトに当然グラドンの告白を話せる訳もなく、早いこと部屋に戻りたくて黙って謝罪を受け入れた。


「……治療費がいるようならこちらで負担するから言ってくれ。

それにしても、どういう訳かこうやって()と話をする機会が無かった。部屋も隣なのにな。これをきっかけにまた遊びに来てくれ。」


ウォォォォォお!!!! ムリッ! 無理無理!! やだ、気持ち悪い通り越して怖いわっ! オレが離れた1年で何がどうなったのか、まるで別人じゃないか。

ニコニコと紅茶を啜りながら話すルフトはとても楽しそうだ。でも、オレはこんな状況に耐えられずそそくさと部屋を出ようと話を切り上げる。


あ、そうだ! でもこれは確認しないと……

腰を少し浮かせた状態で最後にと質問をした。


「グラドンの“いいががり“だげど、あれは……」「そうだ! その話!! ()は一体何を言っているのか……?

僕のギフトは確かに禁忌扱いで封印の儀も受けている。それを使って過去に戻ったと言うんだ。そして()がその過去だと。

彼はリリアナに近しい僕に嫉妬して普段からよく分からない事を言うんだが今回はちょっと酷すぎる。……カトレア嬢の元へ戻れとか、リリアナを嫌っていた癖にとか。」

「…………」


あの悪魔()、ルフトに一体何をしたんだ? 態度だけでなく、記憶まで改ざんされてるじゃないか……。

今の話だと過去に戻って来た事すらスッポリと無かったことにされてるようだ。


あまりの衝撃に浮かせた腰がソファーに戻る。

『どうする?』 頭の中にその言葉がぐるぐると木霊する。

前の人生では、あの悪魔が学園に通うまではオレ達取り巻きは牽制しつつもそこまでハマって居なかったように思う。なぜなら寮も授業もその授業を受ける建物も別になり物理的に会う機会が減ったからだ。

1番懸想していたのがずっと近くにいたリファル王太子だった。そのリファルに嫉妬してグラドンが、そのグラドンに負けじとオレやミネル様がリリアナにアピールしてそのうちに……と言う感じだった。


物理的に離れてる今、ルフトがここまでハマる筈が……違うッ、そうだ! あの悪魔はルフトの部屋に直接来ていたんだ。会う機会なんていくらでもあったじゃないか!

って事は、ルフトに関してはもう手遅れ…………?


残念な結果に憐憫の目を向けてしまう。

ルフトは逆に急に黙ったオレをまた心配そうに見つめていた。


「……あぁ、グラドンの話は確かに言いがかりだった。だから気にすること無いよ。ただ、あいつはあいつで言い分があったみたいなんだ。だから許してやってくれ。」


そう言えば心底ホッとしたような顔をしてわかったと微笑んだ。それを見届けてからオレはルフトの部屋を出た。


帰りもカインが部屋の外まで見送りに着いてくる。ドアを開け廊下に出ると、カインは後ろ手でパタリと扉を閉めて一緒に部屋を出た。


「ライク様、少々お時間をよろしいでしょうか?」


侍従が主意外の貴族に声をかける事はまず無い。なので少し驚いたが話を聞く。

カインは胸のポケットからスっと封筒を差し出してきた。きちんと封蝋された封筒にはルフトのマークが入っている。


「約1年前、長期休暇開け目前にルフト様が体調を崩された事を覚えていらっしゃいますか? その後回復したルフト様の元にライク様が訪ねていらっしゃったのですが、その日の夜に私に託された手紙です。

『次にライクが俺の部屋を訪ねて来たら渡してくれ。』と。そして『(ルフト)が何を言ってもライクに渡せ。』とも。

この手紙についてその後ルフト様が何か言うことはありませんでしたが、あれからお2人はあまり交流が無くなりライク様がこの部屋を訪ねて来られる事が無かったのでお渡し出来なかったのです。

今回も本来ならこちらから伺う筈で、訪ねて来られる予定では無かったとは思います。なのでルフト様が仰った“訪ねて来る“とは少し違うかとは思いますが、私の独断で渡させて頂きます。どうかお受け取り下さい。」


真面目なカインらしい説明と共に受け取った封筒はそのまま部屋に持ち帰り、寝支度を終えたあとゆっくりと読むことにした。

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