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「……アイツって身分とか気にする奴だったか?」


ルフトが不思議そうに聞いてくる。


「あんまり良く覚えてないけど……身分も性別も気にしないでもっと、こう、王子以外には誰に対してもフレンドリー?」


だよな? と2人して首をかしげる。


「もしかして、ハーノンのばぁさんが記憶だ記録だって言ってたが、俺のギフトの影響か?

だとしたらアイツが変わったのか、俺達の記憶が変わったのか……」


「え? あれってそういう意味なの?」


「わからん。俺もここまで大がかりな術の発動は始めてだからな……」


それはそうだろう。20歳だった俺達が5、6歳の時まで時間を戻したんだ。そう何回もあってもらっちゃ困る。


「それに、俺の計算では産まれる前迄戻る筈だったんだ……」


はぁ? いや、この一年何度も話す機会があったのに、そんな大事なことを何故言わん!


「それって失敗したって事じゃないのか?」


「……それもわからん。()()()|、()()()に居た奴等の神力を使えば俺とお前2人くらいなら計算通り戻れると思ったんだが、思ったより神力が少なかったのかもしれん。……結局あの女に神力は使えなかったしな……」


綺麗な顔が台無しになる位、眉間に深い皺を寄せて唸るように呟く。


怖ぇよ……。あの女の話をするといつもこうだ。こんな調子で、来年あの女が入寮してきて大丈夫だろうかと心配になる。


「はぁぁ。取りあえず考えて分かるもんじゃないし、グラドンについては様子を見よう。」


そう言いながら去年のミネルとの握手を思い出した。が、やはり時間の巻き戻しの影響だろうとルフトに伝えることもなくそれぞれの部屋に戻った。


次の日、ハーノン女史の診断を受けるグラドンをルフトとともに見守る。

 記憶や肉体を操作する系のギフトの場合、ギフトの内容を把握している他者は影響しづらいらしい。 昔、そういったギフト持ちが暴走したことがあり、その頃から保険として診断時に数名(慣例的にお世話係)の立会が義務付けられている。

 ただし、ギフトの内容は国家機密に該当するので許可なく口外は出来ない。


「『武闘(ファイトア)』……闘いにおけるあらゆる武技を極める。神力は……多大。が、使い道は……己の肉体の強化位だな。」


グラドンのギフトは戦いに特化したモノで、本人の希望により学園卒業とともに騎士団への入団が決まっていた。


そういえば、卒業時点で間違いなくアイツより強かったこの男をいともアッサリ殺せたルフトのギフトは最強なんじゃないかと改めて思う。


何だかんだと反発するグラドンを宥めながら、また一年、特別棟での課題をこなす。


そしてとうとう、俺達の運命を握る王位継承権第一位の王子と、2人の女の子が入寮してくる年となった。


入寮日、今日入ってくるのは2人。


リファル・テラス・ホシュグァル。現国王と正妃の間に産まれた第2王子で王太子。

王子としての体面を気にしつつも、思い通りに行かないことがあると癇癪を起こすお子ちゃま。


リリアナ。

鍛冶屋の娘で、平民。本来なら1歳の時に入寮するのだが、事情があって4歳の時にツバース寮に入寮。人懐っこく良く喋る。あと、笑顔が可愛い。


恒例の歓迎会の自己紹介の時点で得られた情報は以上。前回の人生と変わらない。


2度目の人生を謳歌するオレが補足するなら、リファル王子はキーラント王子とグラドンと仲が悪い。頭の出来も顔の造作もキーラント王子とグラドンの2人より大分劣るので劣等感があるのが原因らしい。が、今後かなりの努力で学年でトップをキープ出来るようになり、顔の方も年齢と共に見栄えの良い王の方に似てくることによりオレより数段格好良くなる。


リリアナの事情については、学園に通う様になってから知ることになる。

平民のスペランツィアで4歳まで親元で育つのは異例中の異例なのだが、産まれてすぐに色々とあったそうで親が入寮を拒み引き取りの説得に時間がかかったそうだ。おかげで他の平民スペランツィアより振る舞いが自由で良く笑う。


はぁ……この頃はこの2人があんなことになるなんて微塵も思わなかった。


その後、これまた恒例となった談話室で相談役の説明をする。今年は入寮生に2人に対し相談役となる上級生がグラドンしか居ないので、2つ上のオレ達も駆り出された。するとさっそく、


「フン、身体(からだ)ばかり鍛えている従兄(グラ兄)様に相談などしたところで困りごとは解決はしないだろうし、平民に相談などもっての他。俺の相談役にはお前がなれ。」


前回同様、お子ちゃま王子からオレへの指名が入る。

身分的に王子には従兄にあたるグラドンがペアを組むのが相応しいのだろうが、王子自らの指名に異議を唱える事が出来るハズもなく自動的に俺がペアとなった。。


「俺もお前の相談など乗るつもりは無い。俺はリリアナ嬢の相談役になる。」


当のグラドンはリファルの言葉を鼻であしらい、笑顔の可愛いリリアナの相談役に名乗り出た。

このやり取りも前回と相違無い。


談話室での話を終え、各自部屋に戻るとルフトが部屋まで訪ねて来た。

コイツが訪ねて来たのなんて入寮してすぐ、お互いの記憶の確認をして以来だから2年振りくらいか? と、どうでもいいような事を考えていると、


「体調は?」


「別段変わりはないよ。」


「あの女を見てどう思った?」


「相変わらずだなぁ~……くらい。何かあるとすれば明日以降だろうし……。」


自信なさげに答えれば、それもそうだな。とルフトが小さく呟く。そして、この後、オレに向けて驚く事を宣言した。


「これから毎日夕食後にお前の様子を確認する。部屋に訪ねたときに寝てたら勝手に入って起こすからな! 寝るんじゃねーぞ!!」


えぇ~……全力でお断りしたい……。とは思うものの、前回の二の舞にならないとは限らない。オレ自身そんなに意志が強いわけでも無いしな。

と、ここであることを思い出す。


結局ルフトの意見を採用することとし、今夜は早めに眠ることにする。


何せ明日、この学園内のみならず王家、貴族達に多大な影響を与える事になる女の子がやって来て大騒ぎになるのだから……。


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