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 暫く記憶のすり合わせをしたあと、大事な話をしてないことを思い出した。

 オレはカトレア嬢に話をして暫く近寄らないことを了承してもらったこと、それとクイナ様からリリアナに憑いた悪魔について思い出すように言われた事を話す。

 するとルフトはもう一度見たいと【ザ・世界】の本を手に取りじっくりと1ページづつ読み始めた。


 暫くするとページを開いたままおれの方へ向き直りスッと差し出した。


「コイツ、角の形がリリアナに憑いた悪魔と同じ形だ。」


 開かれていたページは色慾の罪を持つ大悪魔(デモーネ)のアスモン。絵には中性的な美しさを持つ人のような生物が描かれている。但し、人とは違い耳の上に節くれだった角が生えていて先端はドリルのようにグルグルと巻かれて先に向かい毒々しい赤い色をしている。

 ゆったりとしたローブの様な服で隠れているが、足元は人のものとは違い蹄のように見える。


 説明文には[自分大好きな自惚れ屋。他者の恋愛観察が好きで、心身を操り夫婦や恋人の仲に亀裂を入れ、その様子を愉しむ。が、手を下さず、勝手に誤解や喧嘩で亀裂が入ったカップルに対しては仲を取り持つ一面もある。]とある。


 角の形が同じということは、このデモーネの眷属ということでいいのだろうか? 恋人の仲に亀裂を入れるとあるが、仲の良いルフトとカトレアを遠ざかる様に仕向けたのもその眷属だからか??


 チラリとルフトを見るとオレの言わんとしていることが分かっているかのように話し始める。


「このデモーネの眷属なのかは判別出来ないが、ランクで言ったら悪魔で間違い無いだろう。ここ、この魔物と使い魔のページはそれぞれ一括で描かれていて“魔物は獣に近い姿で知能は低い、使い魔は人に近い形に变化が可能だが知能は幼児程度。個別の判断ではイタズラ程度の悪さしかしない。”とある。」


 確かにルフトの指すページには魔物と使い魔がそれぞれ1ページづつ特性と何体かの絵姿が書かれている。


「リリアナに憑いた悪魔はキュロスって名があり、自分で考え行動している。しかも、狡猾に高位貴族にばかり近づいて己の味方となるように画策してる。とても幼児程度の知能とは思えない。」


 確かに!! ってことは、やっぱり退治するには専用の女神シリーズが要るってことか。

 さて、困ったと悩んでいるとルフトが声をかけてきた。なので打ち明けてみる。

 

「異国の食材で資金の問題か……。そもそも、その女神の食材はこの国で生産されていたりはしないのか? 別名があるならこの国でもこの国特有の別名で流通しているかもしれないだろ?」


 あぁ!! その可能性は考えて無かった。ルフトはオレの驚いた顔を見て苦笑いをすると


「まぁ、あれば良いが無かった場合は個人で取り寄せるしかないんだろうな。商人にツテがあれば少しは安く買えるかもしれないが……。とりあえず侯爵家(養子先)にも聞いておくよ。お前も出来たら実家に確認しておいてくれ

 金の方は俺がなんとかするから心配するな。」


 そんなカッコイイセリフを言い残し、その日ルフトは部屋に戻っていった。

 女神シリーズの食材がこの国で生産されている可能性かぁ。料理をしないから食材自身を見たことはないし、名前もこの本以外の別名で流通してたら気付けないなぁ。本自体の翻訳は固有名詞は訳されずそのまま記載されるみたいだし。


 まあ、とりあえず調べることから始めるか。

 オレは【今日のおかず100選】を手に持ち食堂へ向う。昼食も済み夕食の仕込みまでの休憩時間だったようで調理場には殆ど人が居なかった。

 残って居た人に手が空いている人は居ないかと尋ねると調理場の裏で料理長が休んでると言うので裏に周り料理長に話を聞く。


 休憩時間にも関わらず恰幅のいい女性料理長は気さくに話をしてくれた。

 貴族の、しかもスペランツィアが料理に興味を持った事が嬉しかったようだ。俺自身は食べる専門で作る方にはこれっぽっちも興味はないので騙してる様で申し訳ないがこれも必要なことと割り切る。


「あぁ、女神の食材ですか。レモーヌとミンティくらいしか知らないですが、機会があれば調理してみたいですねぇ。この学校は貴族の坊っちゃん嬢ちゃんも多いですが平民も同じくらい通ってますからね、高級食材使った料理なんぞ作れませんわ。」


 一般に普及してないせいかやはり料理をする人にもあまり知られていないらしい。そこで本を見せ、名は違っても絵の様な食材を見たことがないか聞いてみる。


「へぇ、こんな本があるんですね! わたしゃ先代に直接料理を教わって覚えたのでこういったレシピ本は初めて見ましたよ!!」


 楽しそうにペラペラとめくり、女神シリーズの食材を確認する。時折考えながらも一通り目を通したあと、料理長は申し訳無さそうに本を返してきた。


「悪いが見たことはないねぇ。あぁ、でも、このロズヒップってのは西の方のサディアス領で栽培を始めたって聞いたことがある。この香辛料があれば料理の幅が広がるねぇ、って先代と話してたのを覚えてるからね!」


 おお! そう、そういう情報が欲しかった! じゃあロズヒップはサディアス領で手に入るのかと聞けば、


「そんな話はしてたけど言われてみれば使って無いねぇ。市場に出回ってもいないし、実物を見たこともないから栽培に失敗してやめちまったのかしら?」


 え? この精霊に愛された国で育たない作物なんてあるの? 何ヶ所か領主や民が精霊を怒らせ、見放されて土地が痩せてしまった領地があると聞いたことがあるけど、そこもそう言った領地だったのだろうか?


 料理長に聞いてもそれ以上は分からないそうだし、見たことが無いなら別名でも女神シリーズの食材はこの国には残念ながら無いのだろう。料理長に礼を言い部屋に戻る。


 部屋に戻りフィルが珈琲を入れてくれるのをぼんやりと眺めながら、そういえば……と以前フィルが話していたレモーヌを売り込んできた商人のことを話していたのを思い出した。

 珈琲を入れ終わるのを待って、話を聞く。


「あーレモーヌを売り込んできた商人に別の高級食材の調達の依頼ですか……?

うぅ~ん、彼らはギャロップ領に隣接する隣国の商人でして。基本扱うものは隣国で織られた布やその加工品です。それらを売って帰りにこの国で採れる良質な小麦と大麦を買い付けて自国で売るんです。

 そこでレモーヌなんですが、隣国の物ではなく更に向こうのボルペン国が産地で商人が()()()に欲しくて販売ルートを作ったそうで、いうなれば我々はそのおこぼれに預かったに過ぎない感じなのです。」


 商人が個人的にバカ高い果物を欲しがる理由ってなんだ? と疑問に思うも、どうやらうちのメイドの気を引くためにその商人は頑張ったらしい。

 興味本位でその商人の行く末を聞いたところ、


「え? あぁ、相手がユリナでしたからね。どうにもなりませんよ。」


 ユリナはメイドの中でもかなり容姿が良く愛想もいいが、うちではかなりの古参。

 見た目は若くても子持ちの人妻だ。頑張ったところで相手にもされないだろう。むしろ、ユリナの本当の年齢を知ったときの商人の心情を勝手に想像し同情する。

 うん、本当にご苦労さま。


 とりあえずその残念な商人のおかげでうちの領ではレモーヌを入手出来るが、他の食材についてもどうにか出来ないか聞いてもらおう。

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