第39話:奪還作戦開始
僕たち四人は木の陰から一つの場所に視線を集中させていた。
ついにエリスがいるだろうと思われる小屋にたどり着いた。その小屋はだいぶ古いがちゃんと整備されている痕跡があり、大事に使われていることが分かる小屋だった。
「皆さん。着きました。恐らくあの小屋にエリスがいると思われます」
エリスのそばに確実にいるだろうと思われるラプラスに付けた発信器が途切れた為、今もあの小屋にいるか保証ができない。
「イツキ君、案内ありがとう。あの小屋の中にいるかもしれなんだね?ではここは私が!」
ジーンギルド長が身を少し出すと、何やら眼鏡をかけ始めた。
「それは...?」僕はボソッと呟いた。
「これかい?これは探索眼鏡といって、この眼鏡に魔力を覚えこませることでその人がどこにいるか分かるアイテムなんだ」
ジーンギルド長が少し自慢げに話した。
「へぇ~。便利ですね」
僕がそう答えると、後ろにいたグリアさんがちらっと出てきた。
「いや、そうでもねえよ。それは使用禁止になっている代物だ。そいつを使ってストーカー行為をするバカが増えて、使用禁止はおろか販売・製造も禁止になったんだ。所持していても罰金になるやつだよ」
ストーカー行為って...やっているやつは恥ずかしくないのかよと思ったが、僕も一瞬、ほんの一瞬だけ不純な考えをしてしまった。
(今の僕...女の子なのに...)
「用は使い方の問題だよ。こういう時に使ってこそだよ」
ジーンギルド長はその魔道具を使い、小屋の方に集中する。
「あっ!いましたよ。イツキ君の言った通りあの小屋の中にエリス君はいます。けれど...」
ジーンギルド長は中に"椅子に座った"エリスがいることが分かったが、どうやら様子が少しおかしいみたいだ。
「...確実に罠だな」
そう言ったのは、グリアさんだ。
確かに椅子に座ったエリスだけがいるといるのは不自然すぎる十中八九罠の可能性がある。
「それじゃ、どうするの?このまま待つの?」
ラフィーが訪ねてきた。だがこのままずっといるわけにはいかないので、誰か入る事を決断する。
「僕が先に行きます!」
僕は率先して前に出た。
「き、危険すぎる!君ではなく、私からで...」
「いえ、行かせて下さい!僕なら大丈夫なので!」
長い髪を後ろに縛り、気合を入れた。話し合いの結果、イツキが行くことに決まった。
「よし!行ってきます!」
細心の注意をはらいながら、小屋の扉前まで来た。念には念を入れ、いつでも魔法を放てる準備をしてここまで来たが、どうやら、特に何も仕掛けはないらしい。僕はすぐに扉を開けた。するとそこには中央に椅子が置かれており、そこにエリスが頭を下に向け座っていた。扉を開けたのに無反応なので、さらに不気味さが増す。
「エリス、助けに来たぞ...」
「...」
エリスは無反応である。エリスがいる事を確認できたところで僕は後ろにいる3人に目線をやり、安全だと言いかけたその時だった。
「イツキー!後ろー!」
いきなり、グリアさんの声がしたと思ったら、エリスが椅子から立ち上がって、僕の目の前まで一瞬で詰め寄った。エリスはいつの間にか持っていた短剣で僕の喉元を狙った。
「ッ!!」
僕はかろうじて避けた。グリアさんの一声がなかったら、危なかった。
「あちゃ~。奇襲は失敗か~。最初に来たのが君じゃなかったら殺れていたのに...残念」
聞き覚えのある声がエリスの方から聞こえてきた。この声はラプラスの声だ。しかし、どこから!?周辺を探していると、エリスの影からすぅとラプラスが現れた。
「影の傀儡」
ラプラスがそう呟いた。どうやら、その魔法は自分自身が相手の影に入り、操る技らしい。
「...」
エリスは尚も無言である。
「魅了か...」
「ふふっ正解♪」
ラプラスがまた不気味な笑顔で笑う。
「イツキーー!大丈夫ー!?」
ラフィー達、3人も僕の元に駆けつけた。
「おいっ!ラプラスとかいう悪魔っ!ウチの可愛い弟子を返してもらうぞ!!」
ラプラスの顔を見るなり、グリアさんが勢いよく言い放った。
「あははっ!グリアちゃんじゃんない!久しぶり!手錠に縛られているあなたとっても素敵だったよ」
ラプラスが分かりやすい挑発を仕掛ける。
「はっ!そんな安い挑発はのらないよ!ここにはジーンギルド長もいる。更に強力な助っ人もいる。エリスを絶対返してもらうぞ!」
「ふ~ん。でも残念~。もうエリスちゃんは私たちの味方になっているんだから」
「...」
ラプラスがエリスの頬に手を当てながら、宣言した。
「くっ!エリス今助けるからな」グリアさんの気持ちが今にも爆発しそうだ。
だが、不思議に思う。なぜ、ラプラスはこんなにも余裕があるのだろう?状況的に2対4で相手の方が不利だ。僕はこの状況に違和感を覚える。だがそう思っていると
「...変身」
エリスがトランスをして、青眼白髪の美しい少女のゴーレムになる。
「おっ!エリスちゃんもやる気になったね~。一緒にやっつけるのを頑張ろう~」
「エリスちゃん!目を覚まして!」ラフィーが必死に叫ぶがエリスに反応はない。
「ふふっ!無駄無駄。エリスちゃんは深~い魅了にかかっているから君たちの声なんて届かないよ」
「この下種がっ!」グリアさんが吐き捨てる。
まさに今から戦闘が始まろうとしている空気になるが、僕の中の不安が消えない。
(なんだ?この不安感は...?)
そう、考えがよぎったが目の前の事に集中した。そして僕が戦闘態勢に入ろうとしたその時だった。
「君はこっちですよ...」
耳元で聞きなれない女性の声がした。
「「イツキ!」」
「イツキ君!」
後ろにいるラフィー達3人の声がしたと思ったら、目の前が一瞬で暗くなり、3人の声が遠ざかっていく。あまりの一瞬の出来事で理解が全く追いついていない。しかし、ほんの数秒後には視界が晴れた。そこは見覚えのない草原の真ん中にいた。
「ここは...どこだ...?」
「はじめまして。少年。名前は確か...イツキさんでよかったのかな?」
目の前には見知らぬ女性が僕の名前を呼び確認してきた。