六、
午後イチの仕事は使用人用の浴場掃除。寮の天上階の一つ下にある。
男女にわかれ、全員で掃除にかかる。
そこまで広くなく、でもそこそこ広い。
使用人用だからと言って、手を抜くことはできない。ここで腕を見せることは、今後の昇格、出世につながる。逆に悪評が広まれば、表に出してもらえなくなる。自分の使うところでできないことが、お客様の使うところでできるはずがないからだ。
コウはブラシを動かしながら景色を見る。
青空にぼんやりと白い月。色とりどりの小さな光の粒が、遠くでちらちらと光る。
今日もきれい。
毎日変わる景色を、使用人は無料で楽しめる。得してるな、とコウは思う。
使用人用の浴場も、内風呂と露天風呂の両方がある。洗い場もお客様用とほぼ同様の設備が整っている。自ら体験して、お客様にこの湯屋の良い点をアピールできるようにするのが狙いだ。最終的には金のためとなるが、使用人にとっては大変ありがたい待遇である。
「なか終わった?」
外を担当しているリョウから声がかかった。
「ごめん、まだ!」
答えると、リョウが中に入ってきてコウのブラシを取る。
「外の仕上げお願いしていい?」
「わかった」
内風呂の掃除を変わってもらい、露天風呂へ。今日の女湯は岩風呂。中も外もきれいに磨かれていて、あとはごみと泡が残るのみ。
コウは仕上げに取り掛かる。
小さく風を吹かせる。くるくるくる、とばらついていたごみが塵取りへ集まってくる。これは他のごみと合わせて黒まりさんに食べてもらえばいい。
次に水を流す。全体に広げ、泡をぬぐい取りながら排水口へと流す。
これでよし。
「終わったよ~」
目で最終確認をしてから中へ戻る。
「さすが! ありがと~」
「こっちも終わるから、お願いしていい?」
今度は洗い場からお声がかかる。
「内風呂と一緒にお願い」
「了解!」
洗い場も内風呂もぴかぴかだ。あとは外と同じことをすればいい。
リョウはその間に石鹸などを取りに行った。セイはコウの作業を見ている。
「おおー、何度見てもすごいわ」
口をOの形に開けて、セイが呟く。
「そんなに見られると恥ずかしいよ。シャンプーとか並べてて」
「へいへい」
セイが共有の消耗品を整えている間に、コウは最終確認まで済ませると、止めていたお湯を流し始めた。
そうこうしていたら、今度はスズの声。
「コウ! 次はこっちよろ~」
「はいよー」
脱衣所の掃除が終わったらしい。ごみと髪の毛をまとめるのを手伝うと、あとは整頓だけだ。
スズたちが物をと取りに行ってくれている間に、ささっとごみを黒まりさんへ持っていく。決まった場所にいるわけではないので、場所を探知できるコウがゴミ捨てを頼まれることが多い。
戻ってくれば、女湯はばっちりきれいになっていた。
「よし、今日は夜のお勤めがあるから切り上げよう!」
「身支度に力入れないとね!」
「さんせーい!」
ということで終わり。
本来なら、まだ仕事を終えていないものの仕事を手伝うところだが、夜のお勤めがあるときは準備のために手伝いはなし。それだけ下っ端による姐さんのお共は重要視されている。
「やっほ~! こっちはお先にあがるねー!」
露天風呂に出て、塀の向こうに声を張り上げるセイ。向こう側は男湯だ。
「もう終わったんか?」
「当然!」
「女は一人多いしな」
「人数は関係ないでしょ。手際がいいの。て・ぎ・わ!」
「コウがいるからだろ!」
「男湯へよこせ!」
「うわ、セクハラ発言!」
「じゃーねー」
きゃはは、と笑う女四人。
「ずりーぞ!」「くそぉ!」と背中から悔しさの滲む声が聞こえてきた。