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此岸の花  作者: ぬりえ
7/146

六、

 午後イチの仕事は使用人用の浴場掃除。寮の天上階の一つ下にある。

 男女にわかれ、全員で掃除にかかる。

 そこまで広くなく、でもそこそこ広い。

 使用人用だからと言って、手を抜くことはできない。ここで腕を見せることは、今後の昇格、出世につながる。逆に悪評が広まれば、表に出してもらえなくなる。自分の使うところでできないことが、お客様の使うところでできるはずがないからだ。


 コウはブラシを動かしながら景色を見る。

 青空にぼんやりと白い月。色とりどりの小さな光の粒が、遠くでちらちらと光る。


 今日もきれい。


 毎日変わる景色を、使用人は無料で楽しめる。得してるな、とコウは思う。


 使用人用の浴場も、内風呂と露天風呂の両方がある。洗い場もお客様用とほぼ同様の設備が整っている。自ら体験して、お客様にこの湯屋の良い点をアピールできるようにするのが狙いだ。最終的には金のためとなるが、使用人にとっては大変ありがたい待遇である。


「なか終わった?」


 外を担当しているリョウから声がかかった。


「ごめん、まだ!」


 答えると、リョウが中に入ってきてコウのブラシを取る。


「外の仕上げお願いしていい?」

「わかった」


 内風呂の掃除を変わってもらい、露天風呂へ。今日の女湯は岩風呂。中も外もきれいに磨かれていて、あとはごみと泡が残るのみ。

 コウは仕上げに取り掛かる。

 小さく風を吹かせる。くるくるくる、とばらついていたごみが塵取りへ集まってくる。これは他のごみと合わせて黒まりさんに食べてもらえばいい。

 次に水を流す。全体に広げ、泡をぬぐい取りながら排水口へと流す。


 これでよし。


「終わったよ~」


 目で最終確認をしてから中へ戻る。


「さすが! ありがと~」

「こっちも終わるから、お願いしていい?」


 今度は洗い場からお声がかかる。


「内風呂と一緒にお願い」

「了解!」


 洗い場も内風呂もぴかぴかだ。あとは外と同じことをすればいい。

 リョウはその間に石鹸などを取りに行った。セイはコウの作業を見ている。


「おおー、何度見てもすごいわ」


 口を(オー)の形に開けて、セイが呟く。


「そんなに見られると恥ずかしいよ。シャンプーとか並べてて」

「へいへい」


 セイが共有の消耗品を整えている間に、コウは最終確認まで済ませると、止めていたお湯を流し始めた。

 そうこうしていたら、今度はスズの声。


「コウ! 次はこっちよろ~」

「はいよー」


 脱衣所の掃除が終わったらしい。ごみと髪の毛をまとめるのを手伝うと、あとは整頓だけだ。

 スズたちが物をと取りに行ってくれている間に、ささっとごみを黒まりさんへ持っていく。決まった場所にいるわけではないので、場所を探知できるコウがゴミ捨てを頼まれることが多い。

 戻ってくれば、女湯はばっちりきれいになっていた。


「よし、今日は夜のお勤めがあるから切り上げよう!」

「身支度に力入れないとね!」

「さんせーい!」


 ということで終わり。

 本来なら、まだ仕事を終えていないものの仕事を手伝うところだが、夜のお勤めがあるときは準備のために手伝いはなし。それだけ下っ端による(あね)さんのお共は重要視されている。


「やっほ~! こっちはお先にあがるねー!」


 露天風呂に出て、塀の向こうに声を張り上げるセイ。向こう側は男湯だ。


「もう終わったんか?」

「当然!」

「女は一人多いしな」

「人数は関係ないでしょ。手際がいいの。て・ぎ・わ!」

「コウがいるからだろ!」

「男湯へよこせ!」

「うわ、セクハラ発言!」

「じゃーねー」


 きゃはは、と笑う女四人。

 「ずりーぞ!」「くそぉ!」と背中から悔しさの滲む声が聞こえてきた。


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