五、
昼の賄い、夜の賄いの時間は、当然のことながら使用人ごとにばらばらだ。朝のように同じ時間にしては、使用人の寮ならまだしもお客様のいらっしゃる本館まですっからかんになってしまう。
コウたち新人グループは、早お昼をとりに来た。
「お願いしまーっす」
お盆を持って厨房の見えるカウンターに声をかければ、その上に賄いごはんがどんと置かれる。朝と同じく丼物が多い。
今日は鶏天の乗ったかけそばに香の物だ。
おじじ、朝と似通ってるけど飽きないかな。
コウも声をかけると、カウンターの中の人が顔をしかめた。
「はいよ」
でん、と出されたのは丼に、小さい鶏天。
「ありがとうございます、いただきます」
お礼を伝えると、しっしと追い払う仕草をされる。
「今日もいつもどおりだね」
「でも天ぷらちっちゃくない?」
「そんなことないよ、ほら」
簡易な椅子に座り、丼を比べる。ひとまわり大きい丼だった。そしてそばの底に沈められたもう一つの鳥天をこっそり見せると、セイたちはなるほどと納得した様子をみせる。
冷たいそぶりをしているが、厨房の人たちは実は優しいのだ。お腹がすいているのを見越して、なにも言わずとも男性用サイズにしてくれるくらいだから。
ずずずーっとそばをすすりながら、話に花が咲く。
「先輩たち、ひどくない? あからさまにコウに嫌がらせしてさぁ」
スズはぷりぷり怒っている。
「手伝いに行こうとすると、なにかしら頼みごとつきつけてきて止められるんだよねー」
「いつか後輩ができたら、あんなふうにならないようにしなくちゃね」
ねー、と三人は口を合わせる。
「仕事は間に合ったんだし、いいんだよ。結果オーライ」
「もうっ! そうやってるから先輩がつけあがるの!」
ははは、と笑って流す。
話題を変えねば。混雑しているとはいえ、誰が聞いているのかわからない。
「夜の仕事、なに着てく?」
三人の顔が華やいだ。やっぱり女子はファッションの話題が好きなんだ。
「お客さんの前に出るから、支配人が用意してくれるって話だよね」
「おともに付く姐さんによっても、いろいろ変わってくるよね」
「飾りとか化粧もさしてくれるんかな」
わかるのは午後の作業を終えてから。
部屋に戻ると、それぞれのために着物の入った行李が用意されているのだ。
あくまでお共なので、姐さんたちより目立つものはない。それでも普段はできないお洒落をできるのは、女子にとっては嬉しいことだ。
コウとしては裏方で十分、お洒落をしても似合わないのが分かっているのであまり興味がないのが正直なところだが、三人がうきうきしていると一緒に嬉しくなる。
「そっちはどうなん?」
セイが男三人に水を向ける。
「俺たちも兄さんにくっついて勉強だよ」
シマが口をもぐもぐさせながら答える。
「良い旦那について小遣いもらいてぇな」
「金かい!」
「オレは色気のあるお姉ちゃんがいいなぁ」
「女かよ!」
「こっちは服装のこと話してんの!」
「ああ、そっちか」
男たちも着物を与えられる。しかし男子だからかそのへんにはあまり頓着がないらしい。
「似合わなそー」
作務衣の姿に見慣れているので、着物を着込んだ彼らを想像しにくい。
「お前らも着物に着られるなよ」
「失礼な!」
目に物見せてやる、とだべっていると、結構な時間が経過していた。
「やばっ! 行かなきゃ!」
ごちそうさまでしたー! と器を返して、使用人用の浴場へと駆けった。次の仕事だ。
働くものは、忙しい。
でも、暇でやることなくてどうしよう、よりは、ずっとずっとましだ。